第154回 あなたのために
駄目な男と恋愛するのはこの男が最初で最後。私はふらふらと始発電車に乗りこみ、彼の広い肩で眠りに落ちながら決心した。自分を変えるために、今までの自分を捨てるためにわざわざ女たらしで有名だった男と付き合ってみたけれど。ここまで変えられちゃうと戻り方がわからなくなってしまう。露出の多い服も派手目な化粧も彼のため。平気で人前でいちゃつくのも彼の好み。毎日のように「愛してる」ってメールを女に送るのは彼の得意のスタイル。もう良い加減離れなきゃ。男慣れしてる風の私の演技ももう限界。私は彼が好き。苦しいくらい。
最初僕を誰かと勘違いして近づいてきた彼女。すぐに勘違いに気づいたけど「違います」って言わなかった。酔ったフリが下手で、化粧も服のサイズも微妙だった彼女がとても魅力的だったから。会ってすぐにホテルに行ったのも彼女の望み通り。誘っておいて緊張が隠し切れてない姿が忘れられない。その時から僕は彼女にずっと夢中だ。会う度に綺麗になっていく彼女に負けないために僕は何着服を買っただろう。でももう全部話さなきゃ。彼女が起きたら話そう。僕は君が思ってるような男じゃないってことを。そしてあなたのことが大好きだってことを。
photo by takumi yamamoto