第161回 武士の後悔
突然現れた武士達は言った。「そろそろ戦争あるって聞いて居ても立ってもいられなくてさ」お気持はありがたいですが、今の時代は刀じゃそれこそ太刀打ち出来ないですよ、と僕が言うと武士達は首を横に振った。「俺たちは元々武士じゃない。俺たちの後悔を話すためにわざわざ来たのさ」
俺たちは金持ちも貧乏もいない平凡な村の農民だった。あるとき突然役人がやって来て「戦が始まるぞ、作物全部焼かれるぞ、それでも良いなら構わん。それが嫌なら兵隊になれ」と言われたんだ。給料も良かったけど何より畑や作物を守りたかった。なんでこんなことになったかなんて考えなかった。ガタガタ震えながら村の男達総出で敵を待つ。明け方、奇声を上げながら俺たちに向かって来たのは隣村の奴らだった。
おいおめえら何してんだ!お互いガチガチになりながら刀を向け合った。「おめえらがウチの畑焼くって聞いたからよ!なんでそんなことすんだ!」「あ!俺たちもそう言われたんだ!おめえんとこの畑焼いても俺たちは何も得しねえ!」数分怒鳴り合いが続き、なぜか素人同士の殺し合いは始まった。そこにやって来たんだよ、馬に乗った奴らが大勢で。ドカドカと大事な畑を突っ切ってさ。
全部仕組まれてたってすぐに気付いた。でも遅かった。目が覚めたら一面焼け野原だ。畑だけじゃない。備蓄も家も全部。俺の言いたい事はわかるだろ。隣人は敵なんかじゃなかったってことさ。でも俺たちは武士になっちまったんだ。人を平気で殺せるようになるまで時間はかからなかった。あっという間だったよ。そうなったらもう、二度と元には戻れないんだ。