第167回 灰色の日々
判決が下った直後の裁判所で「お前が会いに来ると余計に辛くなるから面会には来ないでくれ」と言われたのが7年前。私は彼に言われた通り、面会には一度も行かなかった。事件のあとは住所も仕事も変えて、ひっそりと暮らしながら彼の帰りを待っていた。もう今の私には家族も友人もいない。たった一人も。
刑務所から出所してきた彼は丸坊主になっていた。野球少年のようなあどけない風貌に思わず笑ってしまう。でも本当に驚いているのは彼だろう。女物の服を着ていないどころか、無精ヒゲまで生やしている私を見るのは初めてだから。「お前こんなに男前だったのかよ」彼は私の顔をなで回しながら言った。涙はいくらでも溢れるのに言葉がまるで出て来ない。おかえり、おかえり、と何度も繰り返すだけだった。
近所のスーパーで半額になった寿司を買い、私のアパートでささやかなお祝いをした。古くて狭い部屋を見て「独房みたいだな」と彼は冗談を言った。食べ方が妙に礼儀正しい彼の姿から、長い刑務所生活が染み出ている。離れていた時のことをお互いに何も聞かないし話さないまま数時間が過ぎた。変わってしまった自分たちを考えたくないのだ。今はただ、あの頃のように布団に入ってつまらないテレビを見ているだけでいい。明日からのこともどうでもいい。なかなか抱きついてこない彼を待ちながら、私は久しぶりに深く眠った。