第171回 間違い探し
この辺りには昔から一軒しか店が無い。酒も食料も日用品もこの店で揃えることが出来る。自転車さえ乗らなくなった老人達はみんなここに集まる。買うものが無くたって毎日やって来る。この場所に派手な若者たちがバイクや車で集まって夜中まで騒いでいたのはもう50年も前の話。今ではすっかり老人達の憩いの場だ。
両親の店を手伝うトミーとサミーは近所でも有名な双子だった。顔は美形で背も高く、周りにはいつも双子に憧れる女の子達が群れていた。私もその中の一人だった。どちらかと言うと口数の少ないトミーが私の好み。初恋だった。毎晩トミーのことを思い出しながら眠りにつく。そして朝起きてすぐにトミーのことを考える。そんな毎日。でも私のトミーへの好意に最初に気づいたのはサミーだった。
いつものように店の前でたむろしていると、トミーが私を優しくつかまえて倉庫に連れていってくれた。ついにこの時が来た。私はもう有頂天。最初の相手がトミーだなんて夢みたい。あっという間に裸にされ、私はわけもわからないままにセックスをした。「綺麗な肌してるね」その日初めて声をかけられて彼がサミーだと気づいた。
あれ? あなたはトミーかしら?それともサミー?いつも私がレジで言うお決まりのフレーズだ。サミーは「もう勘弁してくれよ!」と笑って少しだけおまけしてくれる。私を騙したことを知ったトミーと大喧嘩したみたいだけど、今でも2人は仲良く店を営んでいる。酸いも甘いも私たちのたくさんの思い出がここにある。これからもずっと大事な場所。
photo by Maiko Y Vyrostko