第173回 内緒だからね
最近耳が遠くなってきた母に娘が何か内緒話をしている。私が近くに居ないことを確かめながら耳元でコソコソと。私はその姿を2階のベランダからこっそり眺めながら思い出し笑いをする。私も小さい頃に全く同じことをしたから。
私がお婆ちゃんに内緒話をしたのは6歳の頃。母の誕生日の1週間前だった。どうしても内緒でプレゼントをしたくて、母のことをよく知っているお婆ちゃんのところに相談しに行ったのだ。お婆ちゃんは「あの子は小さい頃から本が大好きだったの。だからあなたが物語を書いてあげたらとても喜ぶと思うわ」と言った。私は急いで本屋さんに行って、母がよく立ち読みしていた本をいくつか手に取った。それらはとても古い旅行記だった。
私は空想の国に母と2人で旅をする物語を書き上げて母にプレゼントした。きっと拙いストーリーだったと思うけど、母は泣いて喜んで私を抱きしめてくれた。あの時の母の柔らかい感触は今でも覚えている。来週は私の誕生日。今度は私の番だ。母は娘になんて教えるのかな。まだまだ内緒話は続きそう。お楽しみはもうすぐ。私はそっとベランダから立ち去った。
photo by normaratani