第194回 君たちを許さない

運ばれてくる患者のポケットにまた私宛にメモが入っていた。今月に入ってもう4人目。メモには飲ませた薬物の名称、分量、飲んだ時間、手当の方法などがこと細かに書かれている。私はそのメモを読み終えて、書かれていた通りの処置をする。誰がこれを書き、何のために若者たちを病院送りにしてるかを私は知っている。犯人は元同僚。医者である。

彼は私にとって完璧な上司だった。どんな時間に起こされても、たまの休日に呼び出されても嫌な顔一つせず、患者を救い続けていた。しかし家庭をかえりみずに働き続ける間に、娘さんは大学でいじめられ、ついに自殺未遂を起こしてしまった。運び込まれた娘さんを救おうとする彼の表情はまるで鬼の泣き顔のようだった。私たちは誰も近づけずに見守っていた。彼が姿を消したのはその直後のことだった。

次の日、患者の意識が戻った頃に事情を聞きに警察官が来た。同じ大学の同じクラスの生徒が何人も薬を飲まされて病院送りになっていることを調べているようだ。私は急いでトイレに隠れた。まだ白衣のポケットに入っていたメモを取り出す。これはきっと証拠になるはず。犯罪をもう止めて欲しい気持ちと、娘に対する彼の懺悔を見過ごしてあげたい気持ちが交差する。私は目をつむり、メモを強く握ったままため息をつく。どうするべきか、わからない。

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