第82回　WE ARE YOUNG

やっと今朝描き終えたよ。どうにか君の誕生日に間に合った。この絵の元はきっとあれだろう、3年前にスペインを旅行した時の写真だ。30年間生やしてた口ひげを突然剃った私を、君がすごく気に入ってくれた時のものだ。すごく若返ったわ、年下の恋人が出来たみたいって言って君は嬉しそうにはしゃいでいたね。入院から3ヶ月ぶりに家に戻ってくる私を驚かせるために絵を描こうと思ったんだろう？　それなのにまさか君が先に逝ってしまうなんて。

息子たちから病院に連絡があって家に駆けつけた時には君はもう天国に旅立っていた。どうして無理して絵なんて描いたんだ。私はあと数日で退院だったんだぞ。最近見舞いに来てもすぐに帰ってしまうから不思議に思っていたんだ。問いつめて止めさせていればこんなことにならなかったかも知れないと思うと悔しい。でも君のサプライズを見抜けたことなんて今までの人生で1度もないけれど。

私の姿だけが描かれた壁画を消してしまおうかとも思った。でもすごく上手だし、なにしろ君からの最後の贈り物だから私は完成させようと思ったんだ。君が使っていたペンキを使って、写真を見ながら何度も何度も描き直した。でもどうしても君ほどの優しい表情には描けなかった。そこは勘弁してくれ。今壁画を描き終えて、私はこの手紙を書いている。もう絵を見ただろう？　泣いたり笑ったりしてる君が目に浮かぶよ。ああ。すごく君に会いたくなってしまった。君の所に行ってしまおうかなとも思う。でも今日は君の誕生日。悲しませることなんてしないよ。誕生日おめでとう。またね。

年下の夫より
愛を込めて