第89回 Talk To Me

部屋にある材料で作業すること数時間。完成したのは僕が愛した女性の顔だった。ラジオからたまたま彼女が好きだった曲がかかったから、朝から頑張ってしまった。お互いに結婚を意識し始めた矢先、アフリカで死んでしまった彼女。久しぶりの対面だから少し緊張する。彼女の目が開くのを待ってから、僕たちは静かに会話を始めた。

「マル君、久しぶりだね。前より随分痩せてる。ちゃんとご飯食べてないんでしょ」なかなか一人分だけ作る気がしなくてさ「お酒も呑み過ぎちゃ駄目だよ、もう若くないんだから。それはそうとちゃんと髪の毛も作るんでしょうね」うん作るよ来週になっちゃうと思うけど「良かった。私このまま飾られたら呪うよ」このままでも可愛いけどね、アフリカはどんな所だった?「マル君は絶対住めないと思う。行く前から思ってたけど、実際に行って確信した」僕は時間にうるさいからね「そう、それもあるしお腹を毎日壊しそう」確かにそうだね「いつか行ってみて。そして私を捜して」

いつの間にか部屋の中が暗くなっていた。話したいことが溜まっていたからついつい喋り過ぎた。もう作らないと決めていた彼女のフェイスマスクをクローゼットの奥で重ねる。暗い場所が苦手で、いつも小さい明かりをつけて寝ていた彼女に知られたら怒られそうだ。今日はたくさん話せたし、涙がおさまったら出かけよう。彼女が好きだった蕎麦屋にでも行こうかな。僕はクローゼットの扉を閉めて軽くノックした。僕は大丈夫だよって。

写真提供:normaratani