第3回 若い恋人
私が歳をとれない病気だと判明したのはもう30年前の事。
60歳をとうに過ぎたのに、どこもかしこも見た目が全く若いまんまなの。若いといってもさすがに30歳は過ぎてるわね。異常に気づいた頃、私の隣に立つ夫は周りから見たらもうすでに父親の様な存在になってたわ。
世界的にもほんの少ししか症例が無く、同じ病気だった過去の患者は何故か全員女性。寿命は年齢がストップしてから10年位が平均だそう。私はもうかれこれ30年間も生きてるから随分長生きさせてもらってる。
何よただの贅沢病じゃない。と思うかも知れないけど、これでも結構大変なのよ。まず同窓会なんて絶対に顔出せないわね。
そんな中、夫は私を毎日の様にデートに連れ出すの。なるべく人目の多いカフェを選んで、2人でいつも同じモノをオーダーする。若い恋人を連れている様でなんだか気分が良いらしいわ。
そして料理が運ばれてくる間に、30年前よりも随分とゆっくりとした動作で今日も夫は私にキスをする。そして私は30年前と全く同じ速度で目を閉じる。
でも待ちくたびれたりはしないわ。私にとっては時の流れなんてひどく曖昧なものだから。