第6回 呼ばれている名前

痛がしばらく続いたため、近所の病院に来た。受付には少し大きすぎる眼鏡をかけた女が座っている。「初診です」と声をかけたら「また太田さん冗談ばっかり」と笑われてしまった。

私は少し驚いた。私の名前を知っているという事は前にも来た事があるのだろうか。とりあえずそこにあった紙に病状を記入しながら、ソファーに座って隙間から見える医者を覗く。やはり全く知らない。

その時、通りかかった看護士が私を見て、ため息をついた。「太田さん、また病室から出て来ちゃったんですか、もうすぐ昼食ですから戻っていてくださいね」

なぜだ。なぜ皆が私の名前を知っているんだ。私はここにいる誰かにそっくりなのだろうか。なんだか気味が悪くなって来たので、思い切って別の病院に行く事にした。

黙って帰ろうとして、受付の前を通った時、「太田さん、どこに行くんですか?」とうんざりした顔で声をかけられた。確かに私は太田だが、それを無視して外に出た。

こんな不愉快な病院は始めてだ。するとスリッパを履いたまま外に出てしまった事に気付いた。もうあんな所に戻りたくはなかったが、仕方なく私はさっきの受付まで戻った。

さっきとは違う女が受付に座っている。なんだか少し大きすぎる眼鏡をかけた女だ。頭痛が最近気になっていた私は、その女に「初診です」と声をかけた。