第21回 豆腐屋の試食会
小学生の時によくお使いに行かされていた近所の豆腐屋。今は父親から店を継いだ同級生の友人が切り盛りしている。昔ながらの素材と製法を守るか、それとも時代に沿った新しい商品を作っていくかで、従業員達と経営者の間でかなり揉めているらしい。そこで、小学生、いや生まれた時からずっとここの豆腐を食べている俺が、ご意見番としてここに呼ばれたわけだ。
大型ショッピングモールに行けば何でも手に入る昨今、昔ながらの商店がシンプルなまま営業を続けていくのは確かに難しいのかもしれない。そんな事を考えながら、新しい商品を自信満々で作っている友人の背中を従業員達と一緒に見守る。
まずは厚揚げに似た何かが完成。そして油揚げに似た何かが完成していく。一見素人の俺には全く違いがわからない。果たして一口食べただけで判断出来るのかどうか急に不安になり、ふと従業員達を見回すとなんだか皆も微妙な表情をしている。もしかして俺と同じ気分なのかも知れない。
そんな雰囲気のまま、試食会は始まった。目の前に出された厚揚げに似た何かと、油揚げに似た何か。なかなか箸を伸ばさない従業員達の先陣を切って、俺は新商品とやらを食べ始めた。するとすぐに予感が的中してしまった事に気付く。全く違いが分からないのだ。スーパーで買う物と比べて苦みが強く、その後に来る甘みが何とも言えない。間違いない。これは俺が何十年も食べ続けて来た豆腐屋の味だ。
友人の顔を見上げると、俺を見ながら「ニヤリ」としている。なるほど、そう言う事か。この商品が経営者としての決意。一口の試食で全てを理解した従業員達も目に涙を溜めながら食べている。とりあえず明日からも相変わらずの豆腐が食べれそうだ。「幸せな茶番もたまにはいい」そう思いながら俺は静かに店を後にした。