第23回 中東からのお客様

こは西伊豆の海が見える小さなペンション。

何年か前に夫婦で泊まって気に入ってしまった場所だ。偶然ここの近くの美術館での撮影が入り、僕は今回1人で来ている。チェックインしてすぐに温泉に入り、閑散としているロビーで浴衣姿のままくつろいでいると、若い外国人の2人組が入って来た。

中東を思わせる風貌が、日本の田舎のペンションを少しだけ異空間に変える。英語を流暢に話しながらチェックインしている彼女は、チェックインの間も笑顔が絶えず、この旅行をとても楽しみにしていたのが自然と伝わって来る。

男の方はニコリともせず後ろに突っ立ったまま。なんだかそれも微笑ましくてそのまま眺めていると、無愛想な男が僕に気付いた。

するとなぜかそのまま男は視線を止めた。僕が着ている浴衣に注目しているみたいだ。きっとTVなどで見た事があったのだろう。もしかして古い日本映画が好きなのかもしれない。

男は女に何かささやき、女もこちらを振り向いて感動している様子だ。あまりに見つめ続けられていたので「部屋に君達の浴衣もあるよ」と声をかけると、「本当か? 俺達も浴衣を着れるのか?」と興奮しながら急いで2人は部屋に消えて行った。

受付の女性と目が合い、今の2人の事を話そうかと思った矢先、ドタドタとまた彼らがロビーにやって来た。手に持っているのは部屋に置いてあった浴衣。まっすぐ僕の所に来て「浴衣の着方を教えてくれ」と男が言う。

ここではまずいだろうと思ったが、受付の女性もこっちを見て笑っているし、2人の真剣なまなざしにすぐに根負けしてしまった。浴衣1つでこんなに楽しんでくれるなんて思ってなかったので、僕まで嬉しくなって来た。完成したら2人の浴衣姿を撮ってあげよう、いや撮らせてもらおう、そう思いながらロビーでの浴衣の講習会は始まった。

著者プロフィール

【shortstory】第23回 中東からのお客様 column140317_kim_profile-2 kim(UHNELLYS)
声とバリトンギターによるリアルタイムサンプリングと、それにジャストのタイミングで合わせたドラムを基盤に、ロック、ヒップホップ、ジャズの垣根を飛び越えた唯一無二のサウンドを構築する「UHNELLYS」で歌う男。2013年には2度目の<FUJI ROCK FESTIVAL>に出演し、夜の食堂を大いに盛り上げる。そして2014年3月、自身で設立したレーベル、〈I’mOK〉から5thアルバム『CHORD』をリリース。何度でも言うが音楽は素晴らしい。

UHNELLYS – CHORD

Event Information

UHNELLYES出演イベント
2014.08.23(土)@名古屋CLUB ROCK’n ROLL
2014.08.31(日)@下北沢CLUB251
2014.09.15(月)@ぐるぐる回る
2014.11.21(金)@渋谷O-NEST

Release Information

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