がカメラマンになった頃は結婚式を撮影する仕事をしていた。「思い出深い結婚式」と聞かれたらそれは間違いなく男同士での結婚式だろう。それは本格的に冬が始まる頃の事だった。着替えが済みいつものように撮影を始めると、新郎がそれまでとは打って変わって表情が曇ってしまっている。式直前の緊張感とはどこか違っていたから僕は心配になり大丈夫ですか? と声をかけると「僕たちの事を何も知らなかった祖父が、オカマなんか嫁にするんじゃないと騒ぎだしてしまって」と新郎は悲しげに話してくれた。ただでさえ僕らの未来には問題が山積みだから、せめて今日くらい笑って過ごしたかったのに。そう嘆く新郎を、新婦は外に連れ出し優しく慰めた。

一時はどうなる事かと思ったが、予定より20分遅れて披露宴は始まった。でも新郎新婦はずっと下を向いたまま。そんな気まずい空気はすばやく会場全体に伝染していく。つられるように司会者の滑舌も、お酒をつぐ従業員のタイミングも悪い。もれなく盛り上がるはずの友人達の演目も盛り上がらないまま、とうとう花嫁の手紙の時間がやって来た。一枚も良い写真が撮れていない僕は、この時を逃すまいと勇んでカメラを用意した。

花嫁は迷ったあげく、一度取り出した手紙を仕舞い自分の言葉で挨拶を始めた。自分達の性について、根深い偏見について、育ててくれた親達に対する申し訳なさについて、そしてこれからの自分達について。最初は花嫁の赤裸々な挨拶に驚いていた会場内が小さい嗚咽に包まれ出した時、いつのまにか僕のカメラのファインダーは涙で濡れていた。僕は急いでレンズに付いた水分を拭き取り、ファインダーを覗き込んだ。するとそこには今まで撮ったどんな女性よりも美しい女性の姿があった。取り憑かれたようにシャッターを切り続けた僕は、その時初めて「女」という存在を撮影したのかもしれない。

僕は2人のその後を知らないし、彼らの結婚が果たして正しかったかどうかは分からないけど、「見かけなんてあてにならない」というカメラマンにとっての究極の命題を体験させてくれた事に、今でも僕はとても感謝している。