世界的ベストセラーとなったスウェーデンのミステリー小説『ミレニアム』シリーズの第4弾を映画化した『蜘蛛の巣を払う女』が、今年1月より日本でも公開され話題となっている。
この映画は、2011年に公開されたデヴィッド・フィンチャー監督による『ドラゴン・タトゥーの女』の続編にあたるもの。
今回、フィンチャーは製作総指揮に回り、キャストや監督、音楽などもほぼ総入れ替えしている。
そのため、ストックホルムの撮影場所が、“聖地巡り”の観光スポットとなるほどカリスマ的人気を誇る、『ドラゴン・タトゥーの女』とは全く別物に仕上がった『蜘蛛の巣を払う女』に対し、フィンチャー版の熱狂的なファンの中には、複雑な思いを抱えている人も多いようだ(かくいう筆者もその一人)。
すなわちそれは、ルーニー・マーラー扮する主人公リスベット・サランデルと、ダニエル・クレイグ演じる中年記者ミカエル、音楽担当のトレント・レズナー&アッティカス・ロス、そしてデヴィッド・フィンチャーによって作り込まれた世界観が、今なお根強い支持を集めていることの証左とも言えるだろう。
ドラゴン・タトゥーの女
『ドラゴン・タトゥーの女』完成後は、謀略の渦巻くホワイトハウスの内幕を描いた『ハウス・オブ・カード 野望の階段』や、FBIに「連続殺人プロファイリング班」が設立された70年代を舞台にした、言わば「『セブン』以前の世界」を描く『マインドハンター』などTVシリーズの製作にも着手し、現在はブラッド・ピットがプロデューサーと主演を務める映画『ワールド・ウォーZ 2』で、メガホンを取ることが決まっているフィンチャー(クランクインは今年6月)。
これが実現すれば2014年の『ゴーン・ガール』以来の新作となり、ブラピと組むのは『セブン』、『ファイト・クラブ』そして『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』に続いて4度目である。
かのフィンチャーが描くゾンビとは、一体どのようなものになるだろう? 期待と妄想で胸が膨らむ一方だが、今回はそんなフィンチャーの魅力について、彼の過去作を振り返りつつ紹介していきたい。
セブン
フィンチャーの名を世界に知らしめた作品といえば、もちろん『セブン』(1995年)だ。
キリスト教の「七つの大罪」に倣った連続猟奇殺人事件と、それを追う新米&ヴェテラン刑事の交流を描いた本作は、当時大流行していた「サイコサスペンス」の決定打として大ヒットを記録した。
フィンチャー作品の魅力の一つとして、スタイリッシュなオープニング・クレジットが挙げられるが、『セブン』のあの文字が震えるような映像(モーション・グラフィック・デザイナーであるカイル・クーパーによるもの)は、以降の映像作品に多大なる影響を与えた。
元々マドンナやジョージ・マイケルらのMVをはじめ、CM映像など数多く手がけてきたフィンチャーの映像センスは、オープニング・クレジットのみならず画面の端々に行き届いている。
例えば、Facebookの創設者マーク・ザッカーバーグらに焦点を当てた『ソーシャル・ネットワーク』(2010年)では、双子のエリート学生をアーミー・ハマー(『君の名前で僕を呼んで』)の一人二役で撮影しているが、同じ画面に2人が登場するシーンは当時最先端のCG技術を使用。
また『ドラゴン・タトゥーの女』では、リスベットの前髪にできた“小さな分け目”を表現するために、時間と手間をかけて画像処理を行った。
派手なアクション・シーンなどではなく、このような日常的描写にこそテクノロジーをふんだんに使うあたりに、彼の並々ならぬこだわりを感じさせる。
『セブン』に話を戻すと、殺人現場の家具の配置や細かい小道具、ライティングなどによって、実際の殺戮シーンを見せなくとも、「そこで一体何が起きたのか?」を容易に想像させるのだ。