フィン・ホワイトヘッド
天才監督クリストファー・ノーランの最高傑作『ダンケルク』で、全世界の俳優が羨望する主役の座を射止めた新人フィン・ホワイトヘッドは、1年半前までは皿洗いをしながらオーディションに通うただの青年だった。
Q:ノーランの現場について
ノーラン監督作品ということに大きな意味があるんだ。ノーラン監督は全員を平等に扱う。上下関係なんか無い。100本の映画に
出演しようと初めての経験だろうと俳優全員が平等に扱われる。そしてとても演じやすい。対等に話すことができるからね。王様に話しているような感覚ではないんだ。
Q:現場のノーラン
ノーラン監督は、人任せにせず、常に現場にいて緊迫したシーンを作り出す。監督が作り出す世界観はリアルだから、俳優は反応するだけでいいんだ。どのシーンでも監督は立ち会う。だから監督に言われて、驚き、反応し、演じることができる。とてもリアルで反射的、そして可能な限り型にはまらない撮影方法だったよ。
Q:ノーランがリスペクトされる理由
監督の名声もある。誰もがノーラン監督は天才だと思っている。もちろん、そう思うけど、監督の素晴らしさはそういうものを超越するところだと思う。映画ファンも映画をほとんど知らない人たちも、若者も年配も、歴史ファンも関係ない。誰もが彼の映画を敬愛するのはそれが美しくて、素晴らしいからだ。
ケネス・ブラナー
俳優として、また演出家として活躍する名匠ケネス・ブラナーは英国を代表する映画&演劇人だ。現在ジョニー・デップ主演の『オリエント急行殺人事件』のメガホンをとり、名探偵ポワロを演じている。また、2014年に公開された監督作『シンデレラ』は、全世界で5億4千万ドルを超える興収を記録しており、演出家としてもその手腕を高く評価されている。
Q:出演を決めた理由
ノーラン監督から連絡をもらった。あるプロジェクトについて僕と話したいと。ロンドンに飛んできて、ウエストエンドで上演中だったシェイクスピアの「冬物語」を観てくれた。翌朝、彼に会ったが、その劇を見事に分析し感想を話してくれた。ずっと聞いていたかったよ、知的な人が情熱的に「冬物語」の劇作法を語る。素晴らしいワークショップのようだった。午前中の半分を使ったよ。あとの半分で彼は「『ダンケルク』という脚本を書いた」「演じてほしい役がある」と告げ、説明をし始めた。
Q:演じた役柄について
ボルトン中佐は英海軍司令官で、防波堤からの安全な撤退を指揮する人物。ダンケルクの海に伸びる細長い防波堤だ。実際にそこで撮影した。あの出来事を再現するためにね。浜辺から、40万の兵士をできるだけ多く撤退させる史上最大の作戦だ。ボルトン中佐は爆撃や潮の満ち引きに対処しなくてはならない。戦艦での撤退は時間がかかる。常にプレッシャーがある。ドイツ軍からの攻撃もある。ストレスと睡眠不足でおかしくなりそうだ。彼はノーラン監督がリサーチした複数の人間を基にしている。海で起こることを象徴している軍人だ。
Q:撮影現場について
撮影日は海(ドーバー海峡)を越えて行ったよ、本物の海や、気温や、風を感じることができる。天候は大きく劇的に変化する。突然、暴風雨になる。突然、日が照る。何もかもが救出作戦に大きな影響を与える。常に対処すべき困難がある。それを実際に体感するんだ。監督はじっとしているのが嫌いだし、みんなもそうだ。セットにはとてつもないエネルギーと自然な雰囲気が流れていた。ノーラン監督との最初の経験だが、それは撮影中、ずっと変わらなかった。
Q:現場を指揮するノーランについて
ノーラン監督の仕事を見られて、光栄だったよ。彼と初めて会ったときも情熱を感じた。彼にはふたつの才能があり、それが仕事で合体する。ひとつは驚くべき数理科学的脳で凄まじい知性だ。この作品ではそれが前頭葉に集結し情 熱と野生と純粋な感情と合体する。シェイクスピアのことを話していたときもそう感じた。彼は自分の人生のこと、子供のこと、人生の価値やもろさのことを話した。時間の価値が、彼には重要なんだ。
『ダンケルク』でも時間はとても貴重だ。浜辺から撤退するためにも、救われる若者の命にとってもね。彼の作品を観て自分の作品と比較すると難しい状況設定がわかる。大作映画、数千人のエキストラ、海岸、天候、すべてが変化し、航行する船も本物だ。彼はそのすべてを明確なビジョンでやってのける。この映画で見せた、この頭脳と感情の合体は本当に感動的だった。彼が時間を操っているかのようだ。サンタクロースではないが、まるでサッカーの監督みたいに人を走らせ、時間を操る。彼にはそれができる。映画製作のプロセスは、容赦なく動き続ける。今何が必要か? カメラはどこか? 彼は全部指示し、俳優とも話す。セリフのない、あるいは一言だけの人とも、有名な俳優とも、ダンケルクの住民とも、誰とでも同じように。その複数の処理能力はじつに見事だ。
Q:『ダンケルク』が描くこと
この物語と映画には、特にスペクタクルと静寂が見事に合体している。本作のコンセプトは 勇気の話であって、陸軍も海軍も空軍も関係ない。イギリスもフランスもドイツも関係ない。そこには、極端な愛国主義も 親英主義もない。あるのは人間性の尊重だ。ノーラン監督はそういう国家主義的なものを取り去っている。
映画の中に裁きはない。咎めるような道徳観もない。勝者さえいない。同時に、ヒーローにあふれている。そして普遍的な物語だ。ある一団が恐ろしい状況に投げ込まれ、ひどい扱いを受ける。それだけだ。彼らの出身地も名前も経歴も背景も必要ない。この状況と人間がいればいい。そこに誰もが共感する。彼らに必要なのは、国家の紋章ではない。
マーク・ライランス
スピルバーグ監督作『ブリッジ・オブ・スパイ』でアカデミー賞®《助演男優賞》に輝いた名優が、民間船ムーンライト号でダンケルクに救出に向かうミスター・ドーソンという重要なキャラクターを託された。
Q:なぜ、今『ダンケルク』なのか。
この数か月間を見ても、イギリスではいま異常なことが起きている。中東とかかわる暴力の数々だ。テロという脅威が再び戻ってきている。そしてイギリスのEU離脱やヨーロッパとの関係は映画になるのではと思っていた。しかし実際には、イギリス国民は、消防士、警察官、レスキュー隊たちの無私無欲の行動を痛感している。この映画は救出の物語だ。驚くほど勇敢な民間人たちがいた。テロが引き起こす暴力的な今の状況と同じだ。この映画は、今のイギリス人にとって、とてもパワフルな映画(勇気づける映画)になると思う。
Q:出演を決めた理由
私にとっては、脚本だった。優れた監督であると同時に優れた脚本家でもある。監督をしなくても、脚本だけで有名になれる人物だ。ノーランが書いた脚本をアンサンブルキャストが演じる。この映画の脚本のそれぞれが特徴を持って書き込まれているから、キャラクターを信じて演じられる。実に素晴らしい。