こってりステーキ派で泣ける映画
ポール 一方で、真面目な題材を真面目に扱うのではなく、そこに皮肉が含まれている感じもしますね。
岩井 皮肉は含まれていると思いますね。本作の監督・脚本のアルマンド・ポーが以前書いた『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ軌跡)』はちょっとコメディタッチで、同じくどんづまっている話ですが、おかしみをもって描かれていました。むしろ『エルヴィス、我が心の歌』は、もうちょっと主人公の心情に寄り添った感じで、端的にいえば、惨めな感じですね。
ポール どんな時に観る映画だとしたら……ちょっと重くなる感じですか? 映画としては?
岩井 映画としては重いですね……あまり言いたくないけど(笑)。
3人 (笑)。
ポール いや、こってりステーキ派の人もいると思うんですよ!そういう人には絶対応えてくれる映画ではあると。ライトにサラッと終わるものではないということですね。
岩井 そうですね。
清野 映画の重さが、主人公の美しい歌声でかき消されるところもあると思いました。本当にライブ感があって、歌声には惹かれました。
岩井 また、本当にエルヴィス・プレスリーは晩年は食べ過ぎで太っていたので、主人公のカルロスも体型を似せて努力して太っている所もリアルです。さらに、歌っている曲も全部エルヴィスの後期のものばかりです。カルロスはエルヴィスとして歳をとることも一緒にやろうとしている。だから、生活している全ての時間が「ショー」なんですよね。
ポール それはちょっと泣けるな!ただ、周囲には通じない瞬間もあると思いますが。そういう場面は出てきますか?
岩井 あります。例えばライブハウスでギャラを貰うときです。「名前は?」と聞かれて、本当はエルヴィスと言いたいけれど、それだとギャラを貰えないので本名の「カルロス」とぼそっと言う。
ポール そこはぼそっと言うんだ。結構泣けるな! 家族いるからしっかり貰わないとね。
清野 そこの芝居はリアルで、一回後ろを向いて誰も居ないことを確認してから、カルロスと名乗る。ただ、後にもう1つ同じようなシーンがあるんですけど、その時は違う行動を取るんですよ。彼も1人の夫、家族がいる家庭を持った男なんだと感じた瞬間でもあります。
ポール 自分はエルヴィスだと思って「エルヴィスとして」生きているんだけど、一方で「エルヴィスじゃない」自分と葛藤している。引き裂かれる所もあるんだと。それは観てみたいですね……あっ、だからこそ亡くなる年齢になった時に、自分が死ぬべきなのか、どうやって生きるべきなのかが問題になってくると。映画って大抵いろんな葛藤を基に作られるけど、その葛藤は初めて聞いたな。それは聞いたことない!
3人 (笑)。
ポール それは観てみたい! 新しいな、聞いたことないです!
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