——企画の立ち上げから3年半ということなのですが、阪本監督もだいぶ頻繁に撮ってらっしゃるので、そう考えると、結構詰め詰めで取材をされたのかと思います。
阪本 そうですね。キューバに取材に3ヶ月おきぐらいで行った合間に、辰吉くんのドキュメンタリー(『ジョーのあした―辰吉丈一郎との20年―』)もやってますし、藤山さん(藤山直美)と『団地』もやってますし……。
——また全然ジャンルが違いますよね。
阪本 ジャンルが違うから頭も切り替えられるし、誰にも失礼なくやれたと思います。だいたい構想何十年ってアホらしいですよ。やれなかったんでしょっていう(笑)。
オダギリ (笑)
——ずーっとそればかり考えてるわけじゃないですからね。今回阪本監督自身のフィルモグラフィーの中でも一番時間かけられたのは考証や取材ですか?
阪本 キューバの映画人にとっても50年前の話ですから、それなりに時代背景や時代考証含めて、物を揃えたりしなければならなかったです。作業として一番頻繁にやったのはキャスティングですね。キューバ人のオーディションです。
——大勢いらっしゃるわけですもんね。そんな中、フレディ前村役のオダギリさんは迷いなく選ばれたんですか?
阪本 全く迷いなく。脚本がない状態で飯に行って、あらすじとフレディ前村の資料だけ渡して、二年半後に撮影が始まるという時期に、「やってほしい」と。
——オダギリさんはいろんな役をされていますし、海外でっていうのも初めてではないと思いますが、ご苦労もあったと思います。一番大変だったのはスペイン語を使っての演技が上手くいくかというところですか?
オダギリ いや、どうですかね。阪本監督が本当に厳しい監督なので、監督の理想にたどり着けるかどうかというところがポイントなんじゃないですかね。
阪本 オダギリが自分で満足してたら僕はOKかなって思ってた(笑)。
——あれ、ちょっと待ってください(笑)。どちらも身を預ける感じで……。
阪本 結局、OKかNGかの境目って、僕自身がその場面を見て感じたかどうなのかなんですよ。相手あっての演技だし。僕はスペイン語が全くわからないですし。自分がもともと脚本書いてるのに、分からなくなる(笑)。
オダギリ 今思い出したんですけど、ルイサとのやり取りの中で、僕がちょっとセリフに詰まったんですよ。けど、赤ちゃんがその時すごくいい芝居をしてて、これはOKにした方がいいっていうのもありましたよね。
阪本 いい感じでナイーブなフレディが彼女に向かってちょっと詰まるみたいな、良い演技になったんですよ。他の俳優だと僕がカットって言ってないのに「ごめんなさい」って途中で止めちゃう人もいるけど、そういう風に考えて最後までやってくれるのは良いですね。
——周りを見ているんですね。今回は日本とキューバの合作ですけど、本当に珍しいことだと思います。フレディ前村という日本ではほとんど誰にも知られていない人物を主人公に置きドキュメンタリーではなく劇映画として成立させる。これは日本映画全体で考えたらかなりチャレンジングですよね。
阪本 知らない人だからやりたくなるんです。僕は、そもそも光が当たっている事柄とか、人物って映画でやる必要がないと思っていて。光が当たってない事柄とか人物にわざわざ映画のライトを浴びせて、映像に焼くことが本来の形だと思ってるんですよ。なかなかヒットしてこなかったんですけどね(笑)。だからそういう意味で、僕は僕の筋を通したんです。見つけた時はある種の驚きと喜びもあったと思います。
——今は映画を撮る前から、「何万部売れている」だとかある程度ヒットを担保できるような条件を求められがちじゃないですか、今作はいわゆる原作があるわけでもないですし、しかもキューバで撮るっていうこと自体も、僕は日本映画にとっても財産になると思います。観ていて、あまり日本映画にみえなかったんですよ。例えば後半の戦闘シーンはもっと尺を伸ばして盛り上げて、もっと泣かせる演出、ド派手な演出に持っていくという方法もあったんでしょうけど。どうでしょう、オダギリさん(笑)。
オダギリ いやいやいや(笑)。僕はまぁ、言いにくいですよね。
阪本 肝は、学生時代の話というところなんです。ドンパチをいくつも重ねても、大変さは伝わりますが、彼が何を感じて何を思ってというところまで描こうとすると、アクションとしての戦闘というのは、逆に邪魔になるんですよね。それよりも、夜に日記を書いているとか、農民と話してるとか、タニアっていう人の肩抱いて歌を歌うとか、そういう方を大事にしたかったんですね。
——阪本さんがおっしゃっているようなことを映画業界の方に聞いていただきたいなと思ったりもしますけどね。今、世界では国境をまたいで映画を撮ることが当たり前になっている中で、
「日本映画」や「韓国映画」など「〇〇映画」と区切るのはもう馬鹿らしいっていう状況になっているわけじゃないですか。正直日本ではマーケットがそこそこありますが、もっと取っ払えるといいなと一観客として思います。
阪本 「日本は……」と言ったところで、様々な文化があって、相反する文化もあると思うんですよ。そういう意味では、悪い意味ではなく、日本語の日本映画みたいなものもまだまだあると思います。他方で、海外に行って、言葉は通じないわ、文化は違うわで、ワイワイ言いながら映画を撮るという経験は、本当に楽しいんですよ。日本で映画界のことを嘆いてばっかりというのもよくないと思いますね。
——オダギリさんも映画『FOUJITA』など、海外での経験が多い中、今作は自分のキャリアの中でどう位置付けられてますか?
オダギリ やっぱり、今までの経験が全て生かされたというか、いろんな僕の人生のなにかが積み重なったものだなとは思いますね。
『エルネスト』
10月6日(金)TOHOシネマズ 新宿他全国ロードショー
脚本・監督:阪本順治
出演:オダギリジョー、永山絢斗、ホワン・ミゲル・バレロ・アコスタ、アレクシス・ディアス・デ・ビジェガス
配給:キノフィルムズ/木下グループ
製作:2017年|日本・キューバ合作|スペイン語・日本語|DCP|ビスタサイズ|124分
(c)2017 “ERNESTO” FILM PARTNERS.
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photo by 横山マサト
edit by Qetic・船津晃一朗/田中莉菜