音楽と映画の相性は良く、最近でも『ボヘミアン・ラプソディ』の歴史的大ヒットは記憶に新しい。本記事では、現代の音楽シーンを読み解くうえで重要な3本の映画(洋楽編)を紹介。ドキュメンタリーもしくは事実に基づく作品のなかから、ポップで楽しみやすい作品を選んだ。

『HOMECOMING』(2019年)

2018年以降の音楽について考える時、アメリカ最大の音楽フェス『Coachella』におけるビヨンセ(Beyoncé)のアクトを無視することは難しい。

通称『ホームカミング・パフォーマンス』と呼ばれる彼女のステージはYouTubeで全世界にライブ配信され、多くの人々の度肝を抜いた。すでに「ポップ・カルチャー史の転換点」とも言われており、ライブの概念を更新しただけでなく、女性や黒人の歴史という点から見てもエポックメイキングな出来事だったと言える。そのステージと製作過程が、このたびNetflixで見られることになった。

世界最高のステージを繰り返し楽しめるのはもちろんのこと、適宜挟まれるインタビューは演出の解説にもなっており、あのステージで何が起きていたのかを理解する助けになる。ホームカミングを学ぶことは、歴史と文化、そして過去から現在へと受け継がれてきた人類の課題を知ることでもあり、アートや娯楽の可能性について改めて考える機会を促す。

音楽好きなら絶対に観るべき!

『ストレイト・アウタ・コンプトン』(2015年)

伝説のヒップホップグループN.W.A.の結成から解散までを描いた『ストレイト・アウタ・コンプトン』は、男が燃える映画としておすすめ。

ヒップホップがポップ・ミュージックの主流となった現在、このジャンルにかんする作品は年々増えてきており、たとえばNetflixで配信されているドラマ『ゲット・ダウン』やドキュメンタリー『ヒップホップ・エボリューション』など、良質かつ話題を提供する作品には事欠かない。そのなかでも、見やすさと話題性から、また時系列的な点でも『ストレイト・アウタ・コンプトン』からおさえておくのがクラシックというもの。

劇中で描かれるように、銃撃戦が起きるほど過激なライブ活動や放送禁止用語だらけの楽曲など、怖くて危ないイメージがついているかもしれないギャングスタラップ。しかしその裏には、偏見や不平等など、社会の大きな歪みがあった。ビヨンセの『HOMECOMING』とも、ある部分でテーマは通底している。

本作を見れば、ヒップホップへの見方が少し変わる。世界中でラップミュージックが求められていることの意義もきっと理解できる。

『AMY エイミー』(2015年)

ソウルフルな歌声とポップなメロディを特徴とするイギリスのシンガーソングライター、エイミー・ワインハウスの短い生涯(27歳没)を追いかけたドキュメンタリー映画『AMY エイミー』。アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞し、ドキュメンタリー映画としては異例のヒットとなった。

抜群の歌唱力とカリスマ性を持ちながら、ドラッグ中毒、アルコール依存症に苦しんだ彼女の本当の姿を、未公開映像や周囲の人間たちのインタビューなどを通して明らかにしていく。その結果、数々のポップな名曲たちが、実は自らの身を切ってつくりあげられたものだったことが明らかになる。と同時に、愛する人に愛されることを望むひとりの女性であったということを浮き彫りにする。スターという存在の危うさやアーティストの人間性について考えさせられる1本。

監督をつとめたアシフ・カパディアは、マスコミがつくりあげたエイミー像ではなく本当のエイミーを知ってもらいたかったと発言している。しかし、彼女の父親は本作について不満を抱き、「この映画にはネガティブな悪意がある」「監督はみんなを騙している」等と発言。新たな伝記映画やドキュメンタリー映画が製作されることも決定している。さて、どうなるか……。

Text by Sotaro Yamada