動画配信サービスはとても便利だ。毎月定額料金さえ払っていれば映画館やレンタルビデオ屋に行かずとも大量の映画やドラマを観ることができる。だが、コンテンツの選択肢が増えれば増えるほど、どの作品を観ようかと目移りしてしまう。そのような悩みを抱えている人へ、一種の偏った解決策を提案するのがこの連載「ナード男子ファイル」。「ナード男子」が登場するかどうかを指標に作品を選ぶべし、というコーナーだ。なぜナード男子なのか、そもそもナード男子とはなんぞやという人たちは【第一回目】を読んでもらうとして、第二回目ではスコットランド人のナード男子を紹介したいと思う。
File.02 『フレッシュ・ミート』ハワード・マクレガー
『フレッシュ・ミート』とは?
第二回目に紹介するのは、2011年から2016年までChannel 4で放送されていたイギリスのコメディドラマ『フレッシュ・ミート』(原題:Fresh Meat)のナード男子、ハワード・マクレガー。
シェアハウスが盛んで、若者の同居生活を描いたフラットメイト系ドラマが豊富な英国。その代表作といえば、エドガー・ライト監督と俳優サイモン・ペッグ&ニック・フロストによる最強タッグの起源であるドラマ『SPACED 〜俺たちルームシェアリング〜』が挙げられるが、それに負けず劣らずカルト的人気を誇るシリーズが『ピープ・ショー ボクたち妄想族』。その脚本家コンビ=ジェシー・アームストロングとサム・バインが手がけたのが『フレッシュ・ミート』である。
本作は寮からあぶれてしまった男女6名の大学生たちが一つ屋根の下で共同生活を送る様子を追ったコメディ。主な登場人物は、優柔不断な童貞男キングスレー・オーウェン(ジョー・トーマス)、お節介でお股の緩いジョセフィン・“ジョシー”・ジョーンズ(キンバリー・ニクソン)、竹を割ったような性格で破天荒なヴァイオレット・“ボッド・ノードストローム(ザウェ・アッシュトン)、優等生タイプだが自信過剰なメリッサ・“オレゴン”・ショウクロス(シャーロット・リッチー)、気取り屋でボンボンのジョナサン・“JP”・ペンバースリー(ジャック・ホワイトホール)、そしてスコットランド訛りが印象的なナード男子ハワード・マクレガー(グレッグ・マクヒュー)だ。
住民全員が自己中心的で人として欠落しているところがあるため、最初はお互いに警戒心を抱くものの、彼らは大学生活をともに歩んでいくことで大事な仲間になっていく。お酒にドラッグにセックスと自堕落な生活を送る彼らは常にトラブルまみれ。そのなかで、性に奔放でハジけまくりのフラットメイトとは異なり、部屋に引きこもりがちなことで思いもよらぬハプニングに見舞われることが多いのがハワードだ。
電気を操るエキセントリックなナード男子、ハワード・マクレガー
ハワードは留年生で、他のメンバーよりも一足先に一軒家に住んでいる。熊のようなずんぐりムックリ体型でナス型眼鏡がトレードマークの彼は、なぜか下半身丸出しで北京ダックを乾燥させている姿で初登場するなど、初回エピソードから強烈。パブで他人から一口ずつビールを分けてもらうせこい行動もとっていた。そんな彼の性格を象徴しているのがシーズン1のエピソード3。ボッドとの中華料理屋デートにて、ビュッフェでの極意についてこのように述べている。
「まず食べ物の近くに陣取る。移動時間も少ないしお代わりもしやすい。1ラウンド目はすべての種類を選ぶ。大食漢だと思われない様に注意。試食の段階さ。まずい物は二度と食べない。2ラウンド目で大切なのは、米や麺は避けエビの様な高価な物を狙うこと。目的は腹を満たすことだけじゃない。食べ放題を制するんだ。最後に重要なのは満腹になったあとだ。“トランスポーター(運び屋)”になる」
元を取るためとはいえやりすぎである“トランスポーター作戦”を実行したことで彼がどのような末路を辿ったのかは本編にて確認してほしいが、兎にも角にも彼は自身の目的のためにはなにも厭わないのである。部屋のなかに電力源があることを利用し、己の主張が通らないときには電力を落として他の住民を脅したり、シェアハウスで事件が起きたときには監視カメラを設置して犯人探しを行なったりと、なにかと電気系のツールを駆使することも。彼の地味な奮闘は毎度番組にシュールな笑いをもたらしている。
人間関係が苦手なことで変わった習慣も多いところがナード男子らしいハワード。だが、恋愛や友情、就職活動などで不器用なりに努力をするところや、性欲にはアッサリと負けて信念を曲げるところなどが人間くさく憎めないキャラだ。口癖は、「classic(傑作)」。
グレッグ・マクヒューakaハワード・マクレガー
ハワードを演じているのはスコットランド出身の俳優/脚本家のグレッグ・マクヒュー(Greg McHugh/39歳)。彼は、軍事撤退したことで故郷に戻った軍人たちの日常を追ったシットコムドラマ『Gary: Tank Commander』(原題)の脚本を手がけ、自ら主演を務めたことで有名に。ドラマはロングランヒットとなり、3シーズンに加えてスペシャル特番も組まれていた。
#NTA’S pic.twitter.com/wc1DfBEPuh
— Greg McHugh (@gregjmchugh) 2019年1月22日
近年はコメディ映画『Kicking Off』(原題)やドラマ『The A Word』(原題)、<National Television Awards 2019>にノミネートされた『A Discovery of Witches』(原題)にて重要な役どころを演じ、『フレッシュ・ミート』で共演した盟友ジャック・ホワイトホールが手がける『Bad Educatoin』(原題)のクリスマススペシャルにもちょい役で出演。『ピーター・パン』や『ジャックと豆の木』、劇場版『Gary: Tank Commander』などの舞台にも出演している。
『フレッシュ・ミート』&その他グレッグ出演作を観るには?
残念ながらグレッグの出演作品は日本未公開ものばかりなので、まずは『フレッシュ・ミート』にて彼の魅力を堪能すべし。同作は現在Netflixで全シーズン配信中だ。彼らの出会いから別れまでが4シーズン30話に渡って描かれているため、自身も大学生活を一緒に楽しんでいる気持ちで最初から最後まで通して観てほしい。そして終盤、ハワードが仲間たちへの協力を通し、大勢の他人相手に自然にコミュニケーションを図ることができたシーンで涙してほしい。