動画配信サービスを利用すれば映画館やレンタルビデオ屋に行かず、ケーブルテレビに加入せずとも無数の映画やドラマを観ることができる昨今。選択肢の広がりによって、余計どの作品を観ようか悩む人も多いのではないだろうか?そんな時、一つの指標としておすすめしたいのは「ナード男子」が登場するかどうかだ。

“ナード(nerd)”とは、「珍妙な言動を行い社会的に恥ずかしい人(特に男性)」 「特にコンピューターなど、1つの物事に異常に興味を持っておりその知識に長けている人」を指す言葉。つまり日本語でざっくりと言い換えるとオタクである。類語に“ギーク(geek)”という言葉があるが、そちらは「頭脳明晰だがお洒落でなく人気者でもない人」 「1つの物事に異常に興味を持っておりその知識に長けている人」を指している。近年、インターネットの発達によって“ギーク”という言葉は褒め言葉になりつつあり、また今後紹介していくキャラクターにはナードというニュアンスの方が合っているため、本連載ではその言葉を用いたいと思う。

ナードはファッションセンスに長けておらず、運動神経が悪く、マニアックな趣味を持っている。スクールカーストにおいては体育会系で人気者の男子“ジョックス”とは相反する立ち位置で、パシリである“メッセンジャー”や優等生“プレップス”よりも格下の扱い。つまり最も肩身の狭い下層階級に属しており、いじめの対象や嘲笑の的になったりと、なにかと虐げられている存在として描かれていることが多い。分かりやすい例に、00年代に展開されたサム・ライミ監督版『スパイダーマン』シリーズのピーター・パーカーや『40歳の童貞男』のアンディがいる。前者は科学好きなガリ勉野郎で学校ではいじめられている。後者はゲームやフィギア収集などの趣味があり40歳にして未だに童貞という設定だ。

今挙げた作品含めナード男子が主役の映画では彼らがイケてる感じに開花する設定のものが多いのだが、映画やドラマに登場するナード男子たちは、個人的にはそのままで十分魅力的だと思っている。というのも、自分を貫くナード男子がいる作品こそ、何度でも繰り返し観たくなるような良作が多いからだ。爽やかなイケメンや美女が主役だから魅力的だという作品ももちろんあるが、特に脇役において光るナード男子がいる作品は、大抵めちゃくちゃ面白い。そしてそれを演じる役者たちも、注目すべき個性派俳優が多い!…というのが私の持論である。そこで、本連載では海外映画/ドラマにおける最高のナード男子及びその役者たちを紹介していきたいと思う。今後の作品選びで役に立つことを願って…。

(参考:ケンブリッジ英英辞典

File.01 『フリークス学園』ビル・ハヴァーチャック

『フリークス学園』とは?


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第一回目に紹介するのは、1999年から2000年に放送されたアメリカの青春ドラマ『フリークス学園』(原題:Freaks and Geeks)のナード男子、ビル・ハヴァーチャック。本作は『40歳の童貞男』や『無ケーカクの命中男/ノックトアップ』などで知られる、90年代初期から良質なラブコメ作を世に送り出し続けているジャド・アパトーが製作総指揮を務めた伝説のシリーズだ。


物語としては、姉リンジー・ウィアー(リンダ・カーデリーニ)とその弟サム・ウィアー(ジョン・フランシス・デイリー)を取り巻く日常生活を描いたものだが、リンジーがつるむ不良役として出演しているのはジェームズ・フランコやセス・ローゲン、ジェイソン・シーゲル、ビジー・フィリップスとかなり豪華な面々。批評家からの評価は高かったものの視聴率がふるわずにシーズン1で打ち切りになってしまったが、若かりし人気役者たちの共演を観ることができるカルト作品として未だに根強い人気を誇っている。


さて、優等生リンジーが徐々に不良化していく様子と並行して描かれているのが、サムとサムの友人であるニール・シュウェイバー(サム・レヴィーン)、そしてビル・ハヴァーチャック(マーティン・スター)の冴えない三人組が送る日常だ。小柄でかわいらしいサム、自信過剰すぎるニール、ぼさっとしているが頑固なビルは常に行動を共にし、オタクなりに女子にモテようと画策している。そのビルこそが光るナードキャラだ。

強烈な頑固ナード、ビル・ハヴァーチャック


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ひょろひょろとした体型に瓶底眼鏡、口が常に半開きという風貌からして、すでにクセモノ感が半端ないビル。サムやニールほど自己中心的ではなく、友人・家族思いの優しい性格の持ち主だが、知識や雑学に基づいて自分の意見を曲げない頑固なキャラクターとして描かれている。彼が妙な情報を会得して実践するもたびたび失敗に陥ってしまうところは同シリーズの大きな見どころの一つで、正直、主役含め他キャストを食っていると言っても過言ではない。オープニング映像で真顔になるカットですら、だ。

彼が親友たちになにか教えを説く場合には、どこかで入手した情報をもとに、もしくは正論をふりかざして理路整然と畳み掛ける。その説法は奇妙だが同時に爽快感を覚える時も。例えば、こんな迷言なんかを吐いている。

「ディープキスはグロすぎる。何万光年もしちゃダメだ。細菌、痰ツバ、粘液、食べ物の残りカス、その他名もないものいろいろが混ざり合うんだぞ。そもそも、なんで舌を使わなきゃいけないんだ?唇を重ねるだけじゃだめで、舌を使わないと本当のキスじゃないのはなんでなんだ?何をしたいんだ?女の子の口のなか、もしくは歯を舐めたいの?舌を鍛えるか萎えさせたいの?」

童貞男子ならではの思考回路ではあるが、確かに言われてみればそうかもしれない。このように、ドラマを見ている側も少し納得するような意見を述べることもあるので、やはりビルの言動には目がいってしまうのだ。カラダを張った“セクシーダンス”などの動きも含めて。



マーティン・スターakaビル・ハヴァーチャック


ビルを演じているのは俳優/プロデューサーのマーティン・スター(Martin Starr/36歳)。1992年、10歳のときにダスティン・ホフマン主演作『靴をなくした天使』で役者デビューを果たした彼は『フリークス学園』のビル役で一躍有名に。その後、いくつか小さい役で経験を積んだ後、2005年からはシットコムドラマ『Undeclared(原題)』の1エピソードを皮切りに、映画『無ケーカクの命中男/ノックトアップ』 『スーパーバッド 童貞ウォーズ』 『ウォーク・ハード ロックへの階段』などでジャド・アパトー監督や俳優セス・ローゲンと再びタッグを組みはじめる。

『無ケーカクの命中男/ノックトアップ』のヒットにより、マーティンは『アドベンチャーランドへようこそ』や『Good Dick(原題)』で大きな役を得られるようになり、『Party Down(原題)』や『NTSF:SD:SUV::(原題)』などのコメディドラマではレギュラーとして出演。マーベル・シネマティック・ユニバースの『スパイダーマン:ホームカミング』では主人公ピーター属する学力コンテストチームの顧問教師ロジャー役を獲得した。近年はドラマ『シリコンバレー』にレギュラー出演中。どの作品においてもクセの強いキャラクターを演じることが多いのは、やはりビル・ハヴァーチャックのインパクトが強かったからだろう。


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『フリークス学園』&その他マーティン出演作を観るには?


『フリークス学園』は一時期Netflixで観ることができたが、残念ながら現時点(2018年12月)では配信されていない。劇中歌の許諾などの関係により日本語版DVD/Blu-Rayが未発表のため、再配信されることを強く願っている。そこで本作の代わりに、現在も続いているドラマ『シリコンバレー』をおすすめしたい。イノベーションの聖地シリコンバレーを舞台に、スタートアップ企業を設立した主人公とその仲間たちの紆余曲折を描いた物語で、マーティンは仲間の一人=ギルフォイルを演じている。「有神論寄りのラヴェイ派悪魔崇拝者のシステムエンジニア」という役どころだ。“謎の俺理論”を持っている頑固な性格なキャラクターのため、ビルの名残を感じることができるだろう。さらにもう1作品勧めるならば『スパイダーマン:ホームカミング』。目立ちはしないが、そこはかとなくシュールな香りのするキャラクターだ。『シリコンバレー』は現在Prime Videoにて配信中、『スパイダーマン:ホームカミング』は現在U-NEXTにて配信中。

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