新作映画『オン・ザ・ミルキー・ロード』公開＆エミール・クストリッツァ＆ノー・スモーキング・オーケストラ来日直前！鬼才が残した足跡

『オン・ザ・ミルキー・ロード』の音楽は、エミール・クストリッツァの息子でエミール・クストリッツァ＆ザ・ノー・スモーキング・オーケストラのドラム、ストリボール・クストリッツァが担当している。1999年から2000年にかけて、ノー・スモーキング・オーケストラがライブでヨーロッパ各地を訪ねたときのロード・ムービー『Super 8』（2001年）のなかで、ストリボールはこのように発言していた。

「俺の好きな音楽は魂やパッションや苦悩が表されているものだ。魂の音楽、レゲエやブルーズ。あのリズムにマイっちまう。静かでゆったりした曲でも、直情型の俺にさえなぜか訴えかける。ベオグラードでウソっぽいレゲエ・バンドを聴いた。いくらコピーしたってジャマイカの黒人の音は出せっこない。異なった環境から生まれた音楽なんだから。ビストロでジプシーの音楽を聴いた。あれこそ俺たちのブルーズだ」

続いてどこかのビストロで、ストリボール・クストリッツァのドラムとジプシーのアコーディオンによる演奏で、ジプシーのシンガーが歌うシーンになる。このような感覚の持ち主なら間違いないだろう。

『Super 8』にはジョー・ストラマーも登場して、エミール・クストリッツァ＆ザ・ノー・スモーキング・オーケストラとの演奏で“ポリス・オン・マイ・バック”を歌うシーンがあった。ジョー・ストラマーは、このようなことを言う。

「新しいサウンドなんだ。イギリスじゃみんな同じだろ。ギターとドラムで。勝てないよ。独特の味がある。この手のものが必要なんだ。だからエミールのもつギリシャとユダヤが混じりあった音楽が好きだ」

ジョー・ストラマーとマヌ・チャオは、パンク以後最も重要なミュージシャンだとぼくは思っているのだが、この2人がクストリッツァと係わりを持っていたことは意義深い。

クストリッツァの映画には、『ジプシーのとき』（1989年）にゴラン・ブレゴヴィッチとジプシー・ブラスが係わって以来、一貫した音楽が反映されている。ドナウ川のほとりに暮らすジプシーを描いたコメディー『黒猫・白猫』（1998年）のジプシー・ブラスもカッコ良かった。『オン・ザ・ミルキー・ロード』でも、その流れをストリボール・クストリッツァが見事に継承している。

ぼくは2009年12月5日に、ウクライナのキエフで開催された＜Balkan Fest＞に出演したエミール・クストリッツァ＆ザ・ノー・スモーキング・オーケストラのライブを見た。クストリッツァはボスニア・ヘルツェゴビナのサラエボ出身だが、セルビアの田舎で小さな村をまるごと買って「Küstendorf」という名の村を作り、＜Küstendorf Film and Music Festival＞を開催して、そこにジム・ジャームッシュやジョニー・デップまでやって来たことが話題になっていた時期である。

ライブは素晴らしかった。ブラスが炸裂して、ヴァイオリンとアコーディオンが突っ込んできて、エミール・クストリッツァがギターを弾き、ヴォーカルのドクトル・ネレ・カライリチは、セルビアのサッカー選手、ミロシュ・ニンコビッチのユニホームを着て客席のかなり後ろの方まで走り回りながら歌っていた。スカでパンクでジプシーっぽくもある、バルカンならではのミクスチャー・ミュージック。とことんパワフルで、会場を祝祭の場に変えていた。

そのエミール・クストリッツァ＆ノー・スモーキング・オーケストラが、9月2日（土）に東京・Zepp Tokyoで一夜限定のスペシャルライブを行なう。これは楽しみだ。ヴォーカルのドクトル・ネレ・カライリチは脱退したようだが、彼らにしかできない音楽を聴けるはずだ。代表作『Unza Unza Time』（2000年）を聴いて、気分を盛り上げていこう。

Emir Kusturica ＆ The No Smoking Orchestra Live – Bubamara @ Sziget 2012

text by 石田昌隆