おおらかで優しい笑顔から聞こえる言葉は「リアリティと希望」だ。
アフリカ系や貧困層と警察の紛争が絶えないブラジルのリアリティを描くことで、「希望」を描き出したい。『ストリート・オーケストラ』は、普段耳にする「ブラジル=サッカー」とは違った、もう一つの「希望=音楽」を導き出す。
映画公開に伴い来日したセルジオ・マシャード監督に、本作についてインタビューを行った。
Interview:セルジオ・マシャード監督
ーー映画のアイデアを思いついたきっかけを教えてください。
理由は2つあります。1つは、私が音楽家の父と母の息子であることです。両親は小さい時からオーケストラの団員として活動していて、私も楽器と遊びながらオーケストラの中で育った感覚があります。この作品はある意味、親へのオマージュという側面があります。もう1つは、希望についての映画を作りたかったことです。ブラジルはいろいろな問題を抱えています。しかしただ問題を描くのでなくて、何か解決策、答えになるようなものを提案したいと思っていました。『ストリート・オーケストラ』は、希望を感じさせ、音楽の力を描く映画であり、ブラジルの傷跡を癒やしていける映画ではないかと思っています。
ーー脚本を書く前や、撮影の前に準備したことはありますか?
もちろん撮影前にリサーチはしています。自分が描いている環境に没入しないと、脚本を書いたり、撮影をすることはできない性格です。エリオポリス交響楽団については、メンバーの一人の女の子が交響楽団を案内してくれました。数ヶ月以上かけて何回も訪れることで、環境や状況を段々と学んでいきました。また、実際にその場所で楽器を学ぶこととはどういうことなのだろうと思い、一緒にチェロを習い始めました。結局4ヶ月くらいチェロを習いましたが、全然ダメでした。映画で描きたい世界を実際によく知らないと、本当のことを描けないと思っているので、知るための努力はたくさんしました。
ーー映画で撮影した場所は、物語に出てくる実際の場所ですか?
そうです。ほとんどエリオポリスで撮影をしました。唯一撮影できなかったのは、暴動のシーンです。これは警察との衝突シーンをエリオポリスで撮影すると、実際に住む住民の感情が心配なので別の場所で撮影してくださいと警察から言われたからです。しかし別な場所で撮影しましたが、私がいくら警察に扮した役者だと説明しても、周囲の人の雰囲気が高まってしまい大変でしたね。そのくらいリアルで迫力のあるシーンでした。
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