ーーとても印象的なシーンがありました。音楽がうまく将来有望な青年サムエルが、亡くなってしまうシーンです。監督はどのような気持ちでこのシーンの撮影を行いましたか?
私の息子の話で恐縮ですが、息子が脚本を読んだ時、サムエルを殺さないでくれと必死に言われました。その息子の気持ちを裏切るようですが、そのシーンを残したのは「あれがブラジルのリアリティ」であるからです。毎日のようにブラジルでは若いアフリカ系の人が警察官に撃たれて殺されるニュースがあります。私は、映画の中でブラジルの大きな問題としてリアリティを持って描かなければならないと思いました。
ーーこれまでにもアフリカ系の人が警察官に殺される痛ましい事件を描いた映画(『フルートベール駅で』など)がありましたが、本作を作るにあたって参考にした映画はありますか?
特に参考にした映画はありません。また『フルートベール駅で』も観ていません。ただ一つ言えることは、アフリカ系の人が殺される事件は、間違いなくアメリカよりもブラジルの方が多いです。それは10倍以上といえるかもしれません。あまりにも毎日と言っていい程起きているので、人々の感覚も麻痺してしまって、感情も換気されなくなってしまっています。事件をビデオにアップしたり、頭をそのまま撃ったりと、本当にひどい状況です。私は本作を作るにあたって、他の映画を参考にするよりも「その現実」を参考にしました。
ーー映画はオーケストラを主役にしているので、クラシック音楽が多いと思いました。また、それと同じくらいヒップホップをたくさん使っているのが印象的でした。そこに意図はありますか?
音楽はとても大切でした。私は、クラシックが高い位置にあって、ファベーラの街なかで流れるヒップホップが低い位置にあるという見せ方は絶対にしたくなかったです。だからこそ、現代ブラジルのヒップホップ界を代表するラッパーに映画に参加してもらいました。そのうちの一人クリオロは、ドラックディーラーの役で出演してもらいましたが、彼はブラジルのヒップホップ界のスターです。クラシックであってもヒップホップであっても同質のもので、「ファベーラにもモーツァルトはいるんだ」ということを見せたかったです。
ーー最後に映画に込めたメッセージをお願いします。
私は本作を作りながらも、一緒に多くのことを学びました。その1つはブラジルでは貧困層やアフリカ系の人が「問題」だという人がいるが、彼らは「答え」なんだということです。本当に小さなチャンスがあるだけで、彼らはいろいろなことを変えていける。それはブラジルだけでなく、さらに貧困を抱えるアフリカでも同じことだと思っています。状況が悪いと言われている問題でさえも、ちょっとしたことで変えていけると思っています。
文化や音楽は、世界中の傷跡を癒やす力を持っています。ブラジルの問題は確かに深刻ですが、希望の映画にしたかった。解決不可能ではなく、希望を描くことで、みんなで変えていけるという思いは通じていくと思います。そういった意味で、本作は実際に変化を起こしている人々(エリオポリス交響楽団)へのオマージュでもありますね。
ストリート・オーケストラ
大ヒット公開中
監督・脚本:セルジオ・マシャード
キャスト:ラザロ・ハーモス、カイケ・ジェズース、エウジオ・ピエイラ
2015年/ブラジル/ポルトガル語/103分
配給:ギャガ