あの別れが原因? グッと女々しく
パーソナルになったソングライティング
バンド結成から11年、アルバムも数えること5枚ともなれば、歌われる歌詞も、描かれるストーリーも変わっていくのは当然なのだが、デビュー当時はあまりにも豊富なボキャブラリーと鋭い人物・情景描写力がアダとなり、「誰かのソックパペット(操り人形)なんでしょ?」といった揶揄が後を絶たなかったアークティック・モンキーズ(というかアレックス)。しかし、デビューからわずか1年で2ndアルバムを完成させたばかりか、2008年にはマイルズ・ ケイン(元ラスカルズ)と共にサイド・プロジェクト=ラスト・シャドウ・パペッツを始動し、あのスコット・ウォーカーも引き合いに出されるほどのタイムレスな作曲センスを開花。英国作曲家協会が優れたソングライターや作曲家を表彰する「アイヴァー・ノヴェロ賞」の大賞にも輝き、その才能がフェイクではないことをあっさりと証明したのはご存知の通り。『ハムバグ』あたりまではストリーツ=マイク・スキナー譲りのトリッキーな言葉運びでリスナーを煙に巻いていた印象もあったが、近年はグッとパーソナルな歌詞、シンプルなフレーズを意識的に書くようになってきたと思える。
たとえば“Why’d You Only Call Me When You’re High?”では<どうしてハイになってる時しか連絡くれないの?>という彼女目線の言葉が登場するが、このセリフだけでも男女がどのような恋愛を送ってきたのかリスナーに想像させる「余白」が生まれているし、M4“Arabella”ではホットな恋人が着る水着を<バーバレラ(ジェーン・フォンダ主演のSF映画『バーバレラ』(1968年)に登場する、主人公のセクシーな女性)>と形容してみたり、“No. 1 Party Anthem”に至ってはフランス語のジェスチャーまで引用するなど、相変わらずキザなフレーズ・メーカーっぷりを存分に発揮している。また、“R U Mine?”の後日談とも言うべき失恋ソング“Fireside”が後半で登場する仕掛けもたまらないし、ラストの“I Wanna Be Yours”なんてもう、女々しさフルスロットルで泣けます。最近アレックスがLAに移住したことは報じられてきたけれど、やはりアレクサ・チャンとの別れがよっぽど堪えたんでしょうね……。あえて女子ウケとは無縁のリーゼント・ヘアーとロカビリー・ファッションで、ビル・ヘイリー街道まっしぐらのアレックス。このままロックの殿堂入り目指して突っ走ってくれ!!
(text by Kohei Ueno)
★インタビューは次ページから!