――この10年の間に音楽業界は転換期を迎え、iTunes、MySpace、YouTube、SoundCloud、Spotify…etcといったWebサービスが続々と登場したこともあり、ミュージシャンもリスナーも音楽を扱うシチュエーションが大きく変わりました。しかしながら、あなたたちはデジタル・ダウンロード・ストア「GalleryAC」を2005年にローンチするなど、他のどのレーベルよりも早くWebビジネスに着手しましたよね。その先見の明はどこから来るのでしょうか?
音楽の消費方法が変化を遂げているのは見ての通り、明らかなプロセスだっただろ? その変化のせいでアーティストからファンへ音楽を届けるスピードが遅くなりつつあった。そのプロセスの手助けを僕たちはしたかったんだ。普通だったら、音楽ビジネスっていうのは自分のニーズに合っていれば、現状維持しようとするからね。そういった理由もあって、音楽ビジネスは変化せざるを得なかったんだと思う。「GalleryAC」はその僕たちの意思表示を見せる一種のツールだったんだ。それを通して、デジタル形態でファンに音楽を届けることもできた。今となっては、もうトラディショナルなオンライン・ショップみたいなものだけどね(笑)。
――では、この10年でもっともエポックメイキングだった出来事を教えていただけますか。
やっぱりブロークン・ソーシャル・シーンの『ユー・フォーガット・イット・イン・ピープル』(02年)が、すべての始まりだったね。あのアルバムは未来を予見したようなアルバムだった。その基盤を僕らが彼らに与えることができた。まあ、ラッキーだったんだろうね。
――レーベル10周年を記念して、34曲入りのコンピレーション・アルバム『Arts&Crafts: 2003-2013』もリリースされました。収録されたトラックのチョイスはおもに誰が、どのような判断基準で担当していったのですか? 〈A&C〉に想い入れがある人ほど、難しい仕事なんじゃないかと思ったのですが……。
このアルバムは異なる2つのパートに分かれてるんだ。1つは 「グレイテスト・ヒッツ」、 もう1つは「未発表曲」。僕、ケヴィン、そしてもう1人のビジネス・パートナーであるキエラン(・ロイ)が選曲を務めた。難しいと言えば難しかったけど、わりとナチュラルに曲を選べたんじゃないかと思う。〈ファクトリー・レコード〉がアニヴァーサリー用にリリースしていたボックス・セット『Palatine – The Factory Story / 1979-1990』(91年)が昔から好きでね。だから、『Arts & Crafts: 2003-2013』のアイディアはそこから来てるんだ。
――〈A&C〉の歴史は、ブロークン・ソーシャル・シーンの歴史とイコールだと思っています。先日トロントで開催された<Toronto’s Field Trip festival>では、ひさしぶりにブロークン・ソーシャル・シーンとしてライヴも行ったんですよね。「we’re not going to make a new record(新しいレコードを作るつもりは無い)」とケヴィンは語っていましたが、いちファンとしてはとても寂しいです…。今後のプロジェクトも未だ白紙状態なのですか? また、少なくともライヴ活動は不定期で続けてくれるのでしょうか。
今のところ計画はないけど、誰も「もう一生やらない」って言ったわけではないからね! あのバンドは今、他のプロジェクトを通して色んなことを発掘していきたいって思っているだけなんだと思うよ。ケヴィンやブレンダンはソロ・アルバムを予定しているし、アンドリュー(・ホワイトマン)は妻との間に愛娘が産まれてね。それにチャールズ(・スペアリン)は、もう数え切れないほどのサイド・プロジェクトを抱えているんだ。今はそれしか言えないね。
――ブロークン・ソーシャル・シーンの登場以降も、カナダからはアーケイド・ファイア、ファックド・アップ、ドレイク、ジャパンドロイズ、ザ・ウィークエンド、デッドマウス….. etc、非常に多くのアーティスト/バンドが次々とブレイクを果たし、世界を騒がせていますよね。実際に現地で暮らしているあなたにとっても、近年のカナダの音楽シーンは刺激的ですか?
カナダは音楽を作るのにも、音楽をリリースするのにも最適な場所だよ。ジャンルにもリミットがないね。間違いなく刺激的だよ。
――最後に、〈A&C〉の次なる10年にむけての野望を聞かせてください。
これからも、隅っこに位置する小さなスペースで作業をし続けるのが本望だ。そこからたくさんの素晴らしいアーティスト/バンドを、ファンのみんなに届けていけたら僕は幸せだよ。
(interview&text by Kohei Ueno)