ナダのポップ・ミュージックは日本でも根強い人気を誇っているが、その最大の功労者こそがブロークン・ソーシャル・シーン、および〈アーツ&クラフツ(以下、A&C)〉だという意見に否定的な音楽ファンはあまりいないんじゃないだろうか?  2003年にトロントの小さなアパートで産声をあげたこのインディ・レーベルも、遂に10周年を迎えた。

〈A&C〉が革新的だったのは、単なる音楽レーベルの枠組みを意識的に飛び越え、スタッフ=バンド・メンバーというユニークな運営体制と、ローカル・ミュージシャンたちを積極的にフックアップしていくネットワークの広さがあり、いち早くデジタル時代に対応した先見の明を持っていたことだろう。テレビや映画のライセンス事業にも取り組み、今や世界的な歌姫となったファイストをデビュー当時からバックアップするなど、クリエイティヴ面とビジネス面でのバランス感覚も完璧。カナダ版グラミー賞とも呼ばれる「JUNO」においては、所属アーティスト/バンドが総計20もの賞を獲得している。それはやはり、創始者のひとりジェフリー・レメディオスが、元メジャー・レーベルのA&R経験者だった事実とも無関係ではないはずだ。

2枚組34曲収録のコンピレーション・アルバム『Arts&Crafts: 2003-2013』を皮切りに、今年もニューカマーからベテランまで様々な作品リリースを予定している〈A&C〉。看板バンドのひとつであるスターズの名盤『ハート』(03年)と、『セット・ユアセルフ・オン・ファイア』(04年)の2枚もレーベル10周年のアニヴァーサリーを祝してリイシューされた。人懐っこくも美しい男女ツイン・ヴォーカルの構図は、アイスランドのオブ・モンスターズ・アンド・メンのような人気バンドにも明らかに影響を与えているので、今回はじめて〈A&C〉の存在を知ったという読者は、最初の1枚としてチョイスしてみるのもオススメである。

ではさっそく、ブロークン・ソーシャル・シーン(現在活動休止中)の中心人物ケヴィン・ドリューと一緒に〈A&C〉を立ち上げた、レーベルの共同経営者=ジェフリーに登場していただこう。もともとはケヴィンに対して用意したクエスチョンだったのだが、次なるソロ・アルバム(!)の制作に忙しいということで、急遽ジェフリーが代打で応じてくれたということは念のため断っておく。とはいえ、彼らのマイペースながら地に足の着いた活動スタンスは、インディ・レーベルの理想像そのものかもしれない。

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