いま注目の日本人ビートメイカーの2人がそれぞれラッパーとの共作アルバムを発表した。2019年の国内のヒップホップ・シーンの台風の目となったグループ、舐達麻の代表曲である“FLOATIN’” と“GOOD DAY”のビートを制作した1985年生まれのGREEN ASSASSIN DOLLAR(以下、GAD)。そして、昨年、ビート・メイクに加え、これまで以上に歌うことに焦点を当て、さらにエレクトリック・ピアノやシンセ、ヴォコーダーなどの演奏もひとりでこなすという、きわめて現代的な“ビート・アルバム”『A H O』を発表した1993年生まれのAru-2

そんな2人が何を考え、どんなラッパーといかなる作品を作り上げたのかは注目に値する。GADは、彼のビートにラップを捻じ込むフロウと大胆なリリックで猪突猛進するrkemishiとのユニットowlsとして『Blue Dream』を、一方Aru-2は、自身の内面と向き合う繊細なリリックをメロディアスにフロウするNF Zessho(福岡市出身/ビート・メイクもこなす)と『AKIRA』を完成させた。

GADとAru-2への取材を通して見えてくるのは、現在のビート・ミュージックの拡張の実態であり、そこに至る背景であり、またビートメイカーとヒップホップ・カルチャーとの接点である。影響を受けた音楽、海外からのリリース、ラッパーとの共作、そして彼らのビートで踊るダンサーたち。2人がライヴをする、中目黒SOLFAでのパーティ<FUSION>のスタート前に話を訊いた。

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左からGREEN ASSASSIN DOLLAR、Aru-2

Interview:GREEN ASSASSIN DOLLAR × Aru-2

──最初にお互いを認識し合ったのはどういうきっかけだったか教えてください。

Aru-2 GREEN ASSASSIN DOLLARになる前の名義でやっている頃からビートがカッコ良かったんで聴いてました。それをきっかけに、そこからさらにディグっていったら、GADさんがNaoto Taguchiの名義で〈OILWORKS〉からMIXCD(『SUN BEHIND THE CLOUD』2010年)を出しているのも知ったんです。

GAD Naoto Taguchi名義の頃はビートメイカーではなく、DJでした。

Aru-2 で、俺が〈OILWORKS〉からファースト・アルバム『Aμ』(2013年)を出す頃に連絡を取り合って会ったんですよね。

GAD いまよりもビートメイカーが少なかったから自然といろんなビートメイカーがリンクしていったんですよね。今日ビート・ライヴするmatatabiくんも昔から知ってますし、「ビートを作ってます」でなんとなくわかり合えるものがあって、みんな友達になるのが早かった。

Aru-2 そんなに会話をしなくても、その人のビートの音やグルーヴを聴いただけで相性が合うかどうかわかりますよね。

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──グルーヴの話が出ましたけど、GADさんは音楽ブログ「にんじゃりGang Bang」のインタヴューで、『BEAT DIMENSIONS』(オランダのダンス・ミュージック系のレコード・ショップ/レーベル〈RUSH HOUR〉からリリースされたインスト・ヒップホップのコンピレーション。『VO.1』が2007年、『VOL.2』が2009年)のシリーズを聴いた経験も、その後、クオンタイズを外してビートを制作したりすることにつながったという主旨の話をしています。

GAD あのコンピレーションを聴いてこんな表現とグルーヴのヒップホップもあるのかと驚きました。それまではわりとオーソドックスなヒップホップのDJをやっていたので、あのコンピに入っているようなビート・ミュージックを吸収することでDJも変化していきました。それもあって、〈OILWORKS〉からミックスも出せたんです。

Aru-2 フライング・ロータスとサムアイアムのコラボのFLYamSAM名義の曲(“Green Tea Power”/『BEAT DIMENSIONS VOL.1』収録)には食らってけっこう聴きましたね。あれは本当に良いコンピレーションだった。

──いまフライング・ロータスの名前が出ましたが、彼の『Los Angeles』(2008年)はその後のビート・ミュージックに大きな影響を与えましたよね。ただ、『Cosmogramma』(2010年)さらに『Until The Quiet Comes』(2012年)から作風がだいぶ変わり、いまビートメイカーの人と話して話題にあがるのは、フライング・ロータスよりもディビアシーではないでしょうか。

Aru-2 いまもフライング・ロータスの新譜が出たらひと通りは聴きます。ただ、『Cosmogramma』ぐらいまではハマって聴いていましたけど、それ以降の作品を日常的に聴くことはないです。ある時期からフライング・ロータスはいろんなミュージシャンを取り入れてチームで作っていくスタイルになりましたよね。でも、ビート・メイクって基本的には孤独な作業でひとり遊びの延長みたいなんですよ。ラス・Gやディビアシーはそういう個人的な要素が強くてひとりで完結させている。そこにシンパシーを感じるビートメイカー達からプロップスが高いということだと思います。

──それはとても興味深い話ですね。ちなみに、GADさんは先ほどのインタヴューでケヴ・ブラウンの話もしていました。彼の存在はやはり大きいですか?

GAD ケヴ・ブラウンは最高です。影響を受けていると思います。90年代からずーっと活動してきていまも音をアップデートしているのが良いですね。刺激になります。

Aru-2 あいつのベースラインは誰も真似できない。彼のラップも好きですね。

GAD ベースが歌っているよね。

──もしケヴ・ブラウンで1枚アルバムを選ぶとしたらどれですか?

Aru-2 『Random Joints』(2012年)かな。“Henessy Joint”って曲がめっちゃ好きです。

GAD 俺も同じく。あのアルバムは完璧っすね。質感もジャケも最高です。俺は、ケヴの作品はビート主体の方が好きですけど、もちろんラップが入っている作品も好きです。でも、ちょっと話は逸れますけど、昔よりビートを聴いてくれる人が増えましたよ。

Kev Brown『Random Joints』

Aru-2 間違いない。ビートメイカーの人口も増えたし、ビートを聴いてくれる人も増えた。

GAD ビートメイカーにとって状況は良くなっていると思います。

Aru-2 ただ、ビートへの理解度は高まってきてはいるけど、まだまだ足りてないとも思う。ビートメイカーだけじゃなくて、プロデューサーやDJにしても、才能がある人はもっと高い評価を得るべきだと思います。どうしてもラッパーの人たちにスポットライトが当たりがちで、もちろんヤバいラッパーの人たちはいて、そういう人たちが評価されるのは良いことだと思うけど、ビートメイカーやプロデューサーがいて音楽が成立しているわけですから。そういう部分がしっかりと評価されて、相応の報酬が支払われる世の中になってほしいと思いますね。

──以前、Aru-2さんにインタヴューさせてもらった時(ビートは世界と出会う──BEAT MEETS WORLD x WANDERMAN POP UP in RAH YOKOHAMA REPORT)、世界各国の人に自分のビートを聴いてもらっている実感がある、とも語っていました。CDやテープの海外への発送作業も自分でやっていると。今年、アメリカのポートランドの〈Fresh Selects〉というレーベルからビート集『Ayakashi Instruments』を発表しました。〈Fresh Selects〉はヒップホップを軸にした視野の広いレーベルですよね。ロウ・リーフやノルウェー出身のシンガー/プロデューサー、シャーロット・ドス・サントスといった個性的なアーティストの作品も出しています。

Aru-2 〈Fresh Selects〉はディビアシーが『Comfort Zone』(2011年)というビートテープをリリースした頃から大好きなレーベルで、ノレッジやマインドデザイン、あと〈TDE〉(ケンドリック・ラマーらが所属するレーベル)のSiRってR&BシンガーやLAのイマン・オマーリのアルバムも出しています。ある日〈Fresh Selects〉のオーナーがやっている「Tight Songs」というラジオで、俺がbandcampに出していた『GORGEOUS』(2016年)というビートテープの収録曲をかけてくれたんです。「そこまで俺の音楽が届いてるんだ!」って知って。それで、新しいビートテープを作ってレーベルに送ったんですよ。そうしたら「じゃあ、うちで出そうよ」って連絡が来て、初めてPDFの英語の契約書にサインしたっすね。ただ、契約書を書いてからリリースまで2年くらいかかりましたけど(笑)。

GAD かかりすぎじゃない?(笑)

Aru-2 マスタリングをケリー・ヒバート(Kelly Hibbert)っていうLAのエンジニアにやってもらったんですけど、彼はマッドリブの作品も手掛けるような人気者だったから忙しくて。それでマスタリングに1年かかった上にレーベルの方でもいろいろあってさらに1年かかった感じですね。でも大好きなレーベルだったからリリースできてすごくうれしかったですね。

Aru-2『Ayakashi Instruments』

──GADさんは『Lost Tape』(2018年)というビート集をドイツのレーベル〈Sichtexot〉から出していますね。Spotifyでも『Lost Tape』の収録曲がGADさんの楽曲の再生回数の上位に入っています。

GAD もともとLidlyやTajima halがそのレーベルと絡んでいたんです。それもあって、日本人ビートメイカーを集めた『Sichtexotica III by Japan Edition』(2016年)に参加して、10インチのアナログを出しました。そういう流れがあって、ソロの『Lost Tape』のリリースがあるんです。Spotifyはどの地域で自分の音楽が聴かれているかを確認できるんですけど、LAとかNYが上位で、日本はかなり下の方なんですよ。ちなみに、Wun Two(ドイツを拠点に活動するビートメイカー)もこのレーベルから出していますね。

Aru-2 Wun Twoは最高。

GREEN ASSASSIN DOLLAR『Lost Tape』

──そして今回、インストのビート・アルバムやビートテープではなく、それぞれラッパーとタッグを組んでの作品になります。Aru-2さんはNF Zesshoと『AKIRA』を、GADさんはrkemishiとのユニットowlsとして『Blue Dream』を発表しました。ビートを作る時、これはラッパーにラップしてもらうためのものとか分けて制作していますか?

GAD そこまでそういうことを考えて作っていないんですけど、どこかでは意識して作り分けている気がします。

Aru-2 俺は分けてないです。作りたいままにビートを作って、それをビートテープにまとめたり、ラッパーに選んでもらったりしています。で、ラッパーがラップを録音したものに、俺がヴォーカルや鍵盤を乗せて仕上げていったりしますね。今回のアルバムでも俺が歌っている曲があります。グルーヴを乗りこなせて、しかもライヴがカッコいいラッパーとしか共作したくないんです。NF Zesshoはどちらも備わっているラッパーだと思います。あと彼はライヴ前に楽屋とかでリリックを頭に詰め込んだりする作業を一切しないんですよ。その上でライヴでリリックを飛ばさずに歌い切るんです。そこがラッパーとしてヤバいですし、ライヴの流れの作り方とかそういう“MC力”もどんどん良くなってる。二十歳ぐらいの時から友達でいっしょに曲も作ってきたので、そういう成長とか変化も感じますね。

NF Zessho x Aru-2 “All Friends”

──rkemishiのラップはまずリリックが明瞭に聴き取れて、その上でビートに言葉を捻じ込んでいくような力強いラップをします。歌っている内容もかなり大胆ですよね。実は、今年の夏にAPHRODITE GANGが地元の熊谷で主催する<HOT TOWN HOMIE>というパーティ前にGADさんにインタヴューさせてもらいました。その時に、舐達麻のラップの良さのひとつとしてリリックが明瞭に聴き取れる点をあげていましたね。

GAD やっぱりそこは大切だと思います。音源でもライヴでもまずリリックが聞き取れないと、届くものも届かなくなっちゃうので。rkemishiと知り合ったのはまだここ3、4年ですけど、俺のビートに乗せてrkemishiがまずプリプロ(プリプロダクション)でラップを録音したものを2人でどんどんブラッシュアップしていく作業ができましたね。楽しかったです。

owls “nakano ni rasta”

Aru-2 そういう段階まで行くと、ビートメイカーというよりはプロデューサー的な意識の方が強くなりますよね。ラッパーからラップが乗ったトラックが戻ってきたら、俺の場合は鍵盤を弾いたり、ヴォーカルを乗せたりして、全体を見ながら仕上げていきます。NF Zesshoは期待以上のクオリティで返してくれるので、俺も彼とのやりとりは楽しかったですね。

──『AKIRA』には“No Flex(Sweet William Remix)”が収録されています。

Aru-2 今回のリミックスについてはたしか俺からの提案だったと思いますね。客演がいなかったので、俺がフックを歌ったりして作品のバランスを保っているんですけど、さらにより違うテイストが欲しかったんです。Sweet Williamくんの楽曲は完成度が高くて、素晴らしかったのでお願いしました。

──その一方で『Blue Dream』にはBES、MEGA-G、KOJOE、Daia、peedogといったラッパーたちが参加していますね。ちょっと違う角度からの質問になるんですけど、自分のビートはダンス・ミュージックだと思いますか?


Aru-2 ダンス・ミュージックとしてやっている感覚はあまりないです。ただ、ヒップホップのダンサーの人たちは俺らのビートを聴いてくれている事を現場で実感しますね。ダンサーは身体で感じて理解して、それを楽しんでくれていると思います。それこそ、この前、川崎のCLUB CITTAであったパーティでビート・ライヴをしたんですけど、10歳くらいの男の子がBUDAMUNKのオフ・ビートで踊っていました。その世代にはもう伝わるんだなってうれしかったですね。

──BUDAMUNKは今年、ダンス・クルーのsucreamgoodmanと『LINKS 2』(DVD+CD)という作品をリリースしていました。

Budamunk x sucreamgoodman – Flute Slaps”

Aru-2 ダンサーがビートメイカーの人たちを呼んでパーティを開くこともあります。今日イベントに出るillmoreくんも所属の〈Chilly Source〉の音源で踊っている人たちもいるし、BudaBroseのビートで踊っている人たちもいる。渋谷のR LoungeのイベントにDJで呼んでもらったことがあるんですけど、俺が自分のビートを流してダンサーがフリースタイルで踊るセッションの時間もありましたね。

GAD いまそういうのが盛り上がってるよね。俺もビートを使ってもらったりする。ダンサーが選ぶのはアタックの強いビートが多い気がするな。その方がダンスにメリハリがつくんだと思う。盛岡に”D”velopments っていうクルーがいて、ライヴでいっしょになることがあるんですけど、彼らはアタックが強くてカッコいいビートを流すんですよね。

──Aru-2さんとGADさんのビート・ミュージックがヒップホップとして聴かれているということですよね。今後もいろんな活動を展開していくと思いますが、最後にそのあたりの話を聞かせてください。

Aru-2 ライヴで即興のビート・メイクをできるようになりたいです。その場でビートを打って、鍵盤弾いて、マイクを持つ。そういうライヴをできるようになりたい。やっぱり楽器をバリバリ弾けるミュージシャンに対してどこかでコンプレックスがあるんですよ。バンドの人たちってその場で楽器を弾いているからパワーもあるし、説得力もある。それと渡り合えるようなライヴを模索中です。

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──GADさんはベースやギターの楽器ができるそうですね。

GAD そうですね。楽器はできるので、制作に生のベースとかを入れるのもアリかなとは思うんですけど、いまはサンプリングの美学を追求しています。

──そして、今日は2人ともビート・ライヴですよね?

Aru-2 俺の場合はビート・ライヴなのかな(笑)。鍵盤を弾いて歌ったりするから。

GAD 俺はSP-404だけでやります。

Aru-2  GADさんやBUDAさんはビート・ライヴの集中力があるんですよね。俺はその集中力がなくて、ジタバタしちゃうんです(笑)。そういうライヴにも憧れますけど、自分にはできないのもあって、鍵盤を弾いたり歌ったりしているのもありますね。

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取材・文/二木信(Twitter
写真/TAKAKI IWATA(Instagram

『AKIRA』

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2019.11.13(水)
NF Zessho x Aru-2
P-VINE, Inc.
PCD-24889

TRACKLIST
01. Akira Zone(Intro)
02. No Flex
03. Boredom
04. Make Me Crazy(Interlude)
05. Trying Day
06. Stay
07. Listen Babe
08. Akira 200%
09. Eleven Back
10. All Friends
11. I Give
12. Get High
13. No Flex(Sweet William Remix)

詳細はこちらここから聴く

『Blue Dream』

ビートメイカーの誇り──GREEN ASSASSIN DOLLAR ×Aru-2、インタヴュー interview-aru2-greenassassindollar-2

2019.11.20(水)
owls(GREEN ASSASSIN DOLLAR × rkemishi)
P-VINE, Inc.
PCD-83024

TRACKLIST
01. o.w.l.s.
02. tokyo city lights
03. bonkers
04. oh mary feat. Daia
05. mood at 16:20
06. sohardays
07. woo lala feat. Kojoe
08. amanojack
09. nakano ni rasta
10. mood at 4:20
11. encount feat. peedog
12. lonely feat. BES & MEGA-G
13. blue dream

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GREEN ASSASSIN DOLLAR

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Aru-2

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取材協力:中目黒SOLFA

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