――他にもILMARIさんなど、親しい人たちが多数参加している印象です。
KjさんもILMARIさんも私のターニング・ポイントとなる時にいてくれた人たちで、今回はそうやって尊敬できるミュージシャンみんなとやりたいと思っていたんです。特にKjさんとILMARIさんはSteady&Co.でも一緒にやっていましたけど、ILMARIさんの声って、甘いしハスキーだし、色気のある声だなと思っていて、デュエットのような曲を一緒にできないかなと思ったんです。デュエットでも、ありきたりなものではなくてラップ合戦みたいな形でやりたいなと。この曲は社長さん(SOIL&”PIMP”SESSIONS)にお願いして、現代版の“銀座の恋の物語”みたいな(笑)男女の相容れない平行線の関係が続く曲にしたいなと言っていたら、ああいう曲になったんです。
――それでジャジーな曲調のものが出来上がってきたんですね。
そうですね。ILMARIさんは完全にジャズのような曲はやっていないと思ったので、ジャジーなトラックの上で大人の男としてのILMARIさんを出せたら面白いんじゃないかと思ったんです。
――3曲目の“I want it”には韻シストも参加していますね。
彼らはミュージシャンの間で「韻シストやばいぞ」とざわざわしている感じがずっとあって、「今一緒にやりたい」と思ったんです。彼らも90年代後半~00年代初めのムーヴメントだったアーシーなヒップホップの香りがする人たちだし、もともとWyolicaもそういうところがルーツにあるので、これは往年のファンの人たちも喜んでくれるんじゃないかな、とも思ったし。それで、「スピーチ(アレステッド・ディヴェロップメント)にミニー・リパートンが参加したような曲を作ってください」と言って出来たのがあの曲でした(笑)。
――ああ、なるほど。トラックが上がってきた時はどうでしたか?
お酒を飲みながら泣きましたね(笑)。「いい曲きたなぁ」って。それでマネージャーに連絡をしたら、「私も今泣いてます」って言っていて、2人とも泣いているという……(笑)。
――(笑)。他にもorange pekoeの藤本一馬さんなど、本作には本当に様々なゲストの方が参加しています。こうしたアルバムの方向性は最初から考えていたことだったんですか?
もちろん、色々なスケジュールの関係で実現できなかった方もいますけど、やっぱりみんなでワーッとお祭り感を出したかったというか、「15周年だからいいじゃん!「みんな来てよ!」という意味で作った部分はありました。
――とはいえ、人が集まれば集まるほど、それをまとめるのは恐らく大変です。
そう、難しいですよね。何が出てくるのか分からないから、みなさんの才能と洞察力、直観力をひたすら信じた、という感じだったんです。でも、これはただ私の勘だったんですけど、「最終的には絶対にまとまる」という確信みたいなもの……そういう根拠のない自信が何故かあったんです(笑)。
――それはAzumiさんが信頼している人々が参加していたからかもしれませんね。曲自体はみなさんと何度もやりとりして完成させていったと思うんですが、その際はどんなやりとりがあったんでしょうか。
もちろん、「ここはもうちょっとこうしてほしい」「こういうイントロを入れてほしい」というやりとりがあるんですけど、展開や楽器のことも言ったり、メロディも創らさせてもらったりしました。でも、特に制作の後半はすごくタイトで、自作曲はレコーディング本番の1週間前になっても何もできていなかったりしたんです。でも「いや、絶対にできるはず」と自分を信じていたら完成して。過去にも経験があるから、全てにおいてひたすら信じる、という感じでした。DJ JINさんとやった“Rainy Days”が一番最初に手をつけはじめた曲。2人で色んな曲を聴きながら、「このシンセの感じとビートの感じ、キック好きです」「でもこのリフは違うかも」という風に、方向性を2人で探っていったんです。それで上がってきた曲に仮のメロディがついていたんですけど、AメロとBメロは私が作って、サビはJINさんが作ってくれたままでという感じで、どんどん融合していった感じがありました。最初に聴かせてもらった時に、天気雨のようなキラキラしたイメージがあったんです。それで「キラキラ光った雨粒」というイメージを持ちつつ作っていった曲です。イントロもそんなリクエストで(笑)
――そうして様々なゲストの方と完成させた結果、音楽的にもヒップホップもR&Bもあれば、ジャズもバラードもラテン・フレイバーもある、とてもヴァラエティ豊かな作品になっています。
そうですね。ヒップホップもソウルもジャズも、すべて私のルーツなので。この作品の前に2枚ジャズ・アルバムを作ってきましたけど、それも夢だったんです。Wyolicaと並行してソロをやった時、本当はジャズ・アルバムを作りたかったぐらいで。結局その時は出来なかったんですけど、その夢も叶ったので、オリジナル・ソロ・アルバムを作るなら、「もう一度原点回帰しないと次に進めないな」と思ったんです。それで、自分がどっぷり浸かってきた90年代や70年代の音楽を意識して作業をしていきましたね。
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