――今回の2人のコラボレーションは、どんな形で進んだのでしょうか。
ベン はっきり「バーナードにこういうことをやってもらいたい」というものもあったし、彼が来てから一緒に考えたこともある。でも基本は、メロディも歌詞もすべて完成しているものに、バーナードが手を加えてくれるという形だった。僕が音楽を作れば、そこにはベン・ワット独自のサウンドというものがあるわけだけど、今回は歌詞がよりダークで尖がっているものも多かったから、それを音でも表現したいと思ってバーナードにお願いしたよ。彼が曲に新しい光を与えてくれたんだ。
――お互いに好きな曲や、印象的なコラボレーションの瞬間を挙げるなら?
バーナード 僕が好きなのは6曲目の“Faces Of My Friends”。この曲は甘いメロディがあっていいよね。僕は録音する前にバンドとして試していく過程で、ベンが歌う歌詞の全体像ではなく、その断片や気になった単語から「こんなフレーズを弾こう」と考えていくんだけど、この曲の場合はすごく温かい、包み込むような言葉が印象に残ったから甘いフレーズを弾いてみた。他の曲の場合は、もっと攻撃的な音を出そうと思ったりもしたんだけどね。
――へええ、そんな風にフレーズを作っていくんですね。
バーナード 僕はベンの書く歌詞(の全体像や意味)には、基本的には興味がないんだ。
ベン 僕はあるよ(笑)!
バーナード (笑)。僕は昔からそういうタイプなんだよ。誰かが書いたものは、自分が思っていることとはかけ離れていることが多いから、共感出来るものがない。だからその中で、自分の耳に残った単語やフレーズから自分の音を連想していくことが多いんだ。
ベン 僕のお気に入りというと、1曲目の“Gradually”かな。これがアルバムの指針になるとずっと思っていた曲だった。この作品でやりたかった感情的で情熱的なサウンドが表われていると思う。今回は、「ペンタングルとクレイジー・ホースを掛け合わせたような作品にしたい」って考えていた。この曲はそれが一番出来たと感じているんだ。あと、バーナードが挙げてくれた“Faces Of My Friends”は、もともとやろうと思っていたことからリハーサルの段階で変化したという意味で面白かったね。僕がエレキ・ギターを弾いていたものが、結局はアコースティックなものに変化して、当初はシンコペーションのあるビートだったものが、途中でスティーリー・ダンのようなよりストレートなリズムになった。
バーナード 僕はスティーリー・ダンは、昔から「絶対いいから聴いた方がいい」って薦められて聴いても、何がいいのか全然分からないんだけどな(笑)。
ベン 「リズム」の部分は、って話だよ(笑)。そこだけね。
バーナード へええ。なるほどね。
――『フィーヴァー・ドリーム』というアルバム・タイトルの由来は?
ベン アルバムの中で最後に出来たのが2曲目の“Fever Dream”だったんだ。今回はリハーサルを4日間やって、その後ロンドンのRAKスタジオで9曲集中して録音した。でも、その最後の夜にレコーディングを終えて家に帰った時、「アルバムを完成させるにはもう1曲必要だ」と思ってね。その夜に書いたのが“Fever Dream”で、この曲が出来た時「今回のアルバムすべてを包括する曲だ」って感じたんだ。今回のアルバムの歌詞は2通りあって、ひとつは明確な物語を伝えているもの。そしてもうひとつは、まるで言葉を夢の中から引っ張り出してきたような抽象的なもの。そういう意味も含めて、この曲がアルバムのムードを象徴していると思ったんだよ。最初は10曲目の“New Year Of Grace”をタイトルにしようと思っていたんだけど、完成させてみたら、『フィーヴァー・ドリーム』の方がしっくりと来た。優しいアルバムになると思っていたものが、終わってみたらもっと激しいものになったからね。それに、この曲に参加してくれたマイク・テイラーは、ずっと一緒にやりたいと思っていたアーティストだったんだ。僕は彼の3年前のアルバム『Bad Debt』のソウルフルでスピリチュアルな雰囲気がすごく好きだったから、今回バックヴォーカルを担当してみないか誘ってみたんだよ。
――“New Year Of Grace”に参加したマリッサ・ナドラーとの作業は、どんなものになりましたか。
ベン 彼女とはTwitterで約束を取り付けたんだけど、フェスティバルの合間で5時間しか時間がなかった。それで急きょ待ち合わせをしてね。ホテルを車で出て、彼女は信号のところで待っていた。車の窓を開けて「マリッサかい?」って呼んだら、「ああ、ベン!」って感じで(笑)。そのままスタジオに向かって短時間で作業したんだよ。
――<Hostess Club presents Sunday Special>では共にステージに立ちますね。この形式のライヴではどんなことを意識していますか?
バーナード 80%はしっかり曲を弾きつつも、20%は即興の要素を持たせることが大事だと思うんだ。今回の作品の僕のパートは早い段階で録り終わっていて、そこからベンがミキシングをしている間にプロデューサーとして他の作品を手掛けていたから、自分がアルバムで担当したパートは結構忘れていたりする。でも、それをライヴ前に思い出す作業を、「あえてやらなかった」というか。「ステージに立った時に思い出せればいいな」ぐらいの気持ちで臨んだ方がいいと思ったんだよ。
ベン ある程度の流動性は必要だからね。ライヴはレコーディングのコピーじゃないし、曲自体も生きている。だからそれを大事にして、毎回新しい魅力を加えようと思うんだ。
――2人は知り合ってどれくらいなんですか?
ベン 4年ぐらいだね。もちろん、その前からお互い名前は知っていたんだけど。
――その当時、今のように活動を共にすると思っていましたか。
ベン 全然(笑)。僕は90年代初頭に彼のギターを聴いて、自分とはまったくスタイルの違う、新しいサウンドに驚かされた。「この音、どんな風に出しているんだろう?」って思ったし、(スウェードの曲)“Sleeping Pills”のギターがすごく好きだったんだ。それから随分経って、ある音楽評論家のパーティーで僕らは出会った。それで庭で話している時に、「彼と一緒にやったらすごく楽しんじゃないかな?」と思ったんだよ。僕にはジャズやボサノヴァ、ニック・ドレイク、ジョン・マーティンのようなルーツがあって、バーナードにはよりロック色の強いルーツがある。その2つが一緒になったら、「きっと面白いだろうな」ってね。
バーナード 一度バンドで成功すると、どうしてもその音楽性がステレオタイプとして付きまとうものだよね。でも勇気があったり、ちょっとバカだったりしたら(笑)、やっぱりそこから抜け出そうと思う。僕はそうやって「いい意味で期待を裏切る」ことは、すごく大事なことだと思っていて。今回僕やベン自身がやったのは、きっとそういうことなんじゃないかな。
ベン うん、そうだね。それはアーティストにとって、すごく大事なことだと思うんだ。
RELEASE INFORMATION
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photo by Kazumichi Kokei