クラシックとのかかわりについて

ーーあなたはスペインの作曲家をギターに編曲・演奏する挑戦を続けてこられました。アルベニス、グラナドス、ファリャ。この3人の作曲家の印象と本質について、どう受け止めているか、お教えください。

この偉大な3人の作曲家に共通しているのは、いずれも感受性の豊かな音楽家であったと思います。自国の民謡やフラメンコに歩み寄ったという点でも共通していますし、彼らの作品にそれらが顕著に表れています。もうひとり、現在編曲を手がけているホアキン・トゥリーナからも同じ印象を受けます。

ーー今回の公演では前半はファリャの楽曲を演奏するようですね。ファリャだけ、3タイトルのアルバムを出しています。あなたにとってファリャは特別なのですか? どうしてファリャの楽曲だけコンサートで演奏するのですか?

今回の来日では、第1部でファリャの音楽を、第2部で私のフラメンコの音楽を演奏する予定で、現在世界各国でも同じプログラムを披露しています。確かにファリャは私の好きな作曲家で、特にフラメンコ色の強い作品をたくさん書いているので特別な存在です。ファリャは、1922年に詩人ガルシア・ロルカとともにグラナダでカンテ・ホンドのコンクールを開催したことでも知られています。それだけフラメンコに造詣の深い音楽家だったことの証です。

これまでにもアルベニスの『組曲「イベリア」』をコンサート用にアレンジしてグループで演奏した経験もあります。スカルラッティソナタも、コンサート用の演目としてグループで演奏しています。

世界が賞賛するギタリスト、カニサレス。秘めたる情熱と抑制 nterview150717_canizares_t01

Photograph by 石田昌隆

ーーロドリーゴについては、どんな印象を受けていますか。前述の3人の作曲家との音楽的な違いはどんなところにあると思いますか。

ロドリーゴの作品にはフラメンコ的な要素は少ないのですが、その美しいメロディーは彼の得意とするところだと思います。『アランフェス協奏曲』の第2楽章アダージオの哀愁漂うメロディーは、万人の心を捕らえます。フラメンコとはまた違った良さがあります。

ーースカルラッティについては、どんな印象を受けていますか。前述の3人の作曲家との音楽的な違いはどんなところにあると思いますか。新作ではスカルラッティの楽曲を取り上げていますが、スカルラッティからもフラメンコの要素を感じましたか?

スカルラッティのソナタを研究していた時、その作品には明らかなアンダルシアの音楽の影響を感じ取ることができました。スカルラッティは晩年をスペインで過ごしていますが、きっとスペイン民謡などにも興味を示したのではないかと思います。

スカルラッティの時代、まだフラメンコは今日知られる形として成立していませんでした。一般的には、フラメンコの歴史は200年ほどと言われますから、フラメンコ誕生のずっと前です。
しかし、近年、1700年頃に活躍したギタリストで作曲家のアントニオ・デ・サンタ・クルスという人物が密かに脚光をあびました。なぜなら、彼の遺した作品の中に、こんにち「シギリージャ」というフラメンコの基本的なリズムパターンと全く同じものがあることが確認されたからです。それが、「シギリージャ」のルーツとなったのか、あるいはたまたまの偶然なのかまだ議論は分かれるところですが、少なくともあの時代にスカルラッティがこうした音楽に触れていたとしても、全く不思議はありません。こういうことに思いを馳せるのはとてもロマンチックです。

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