©Javier del Real
ーーアランフェス協奏曲をサイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルと共演したとき、ラトルとはどんな会話をしましたか? リハーサルでの出来事や本番の状況についても、印象的なエピソードがあればお教えください。
ラトル氏とも、いろいろな思い出があってひとことで語るのは難しいのですが彼と初めて会ったのは、『アランフェス協奏曲』を演奏する3ヶ月前、ベルリンでのことでした。私はベルリン・フィルでの彼の指揮を直接観たいと思い、ベルリンへ飛びました。コンサート終了後に楽屋に招いてくださいました。私は少し緊張しながら、握手を交わそうとしたのですが、彼は「マエストロ・カニサレス、あなたのCDを色々聴かせてもらいましたよ。どれもとても素晴らしい!」と言っていきなりハグしてくれました。とても気さくで、人情味溢れる歓迎に、私の緊張も一気にほぐれました。
その楽屋で、『アランフェス協奏曲』について色々な話をしました。ラトル氏がジュリアン・ブリーム氏とこの楽曲を演奏した時のエピソードや、ベルリン・フィルにとっては非常に久しぶりの再演になるので楽しみだ、といったことなど30分ぐらい会話をしたと思います。この訪問は、彼の人柄を知る上でもとても貴重なものでした。
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ベルリン・フィル、ラトル氏との最初のリハーサルは、ザルツブルクでのことでした。ラトル氏が、リハーサルを始める前に、ステージ上でベルリン・フィルの団員に向かって、「今回のソリストはリズムのエキスパートのフラメンコ・ギタリストのマエストロ・カニサレスです。彼にリズムで劣ることのないように、心して演奏してください」と紹介してくれたのが印象的でした。ラトル氏は指揮者になる前には、パーカッショニストでもありましたから、リズムに関しては特に厳しく、それが私たちの絆を深める大きな要素でもありました。
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ーー他のクラシック・ギタリストと比べて、アランフェス協奏曲に対するあなたのアプローチは、どんなところが違うと思いますか。
テクニック的な部分が大きく違うと思います。私の奏法は、フラメンコのテクニックを使ったものですから、例えばラスゲアードの部分などにその差が顕著にみられると思います。
ーースペインの作曲家の楽曲を取り上げるようになって、あなたの音楽性、演奏は変わりましたか?
もちろん、いろいろな意味で影響を受けています。編曲をするためには、その音楽を深く追求し、研究しなければいけません。そうした作業のひとつひとつが、私の音楽的な発想に新たな視点を与えてくれたことは言うまでもありません。そしてそれは、今後の私のフラメンコの音楽の作曲にも、いい意味で影響を与えてくれると確信しています。
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