――着手した当時に描いていたイメージ、試してみたかったことなどはありますか?

特に無かったんだけど、とにかくギター・アルバムにしたかったんだと思う。ジョビーを起用した理由もそこにあるし、ギターをたっぷり使ったアルバムを作りたかった。ラウド&プラウド(堂々とした)なアルバムをね(笑)。ひとつ言えることは……前作をリリースしてから行なったツアーでは、ステージでもギターを持っていなくて、ライヴをやるならある程度のエネルギーやアグレッションを発散させたかったのに、それができる曲が無かったんだよ。前作にはヘヴィネスが足りなかったんだ。それで、いつもフラストレーションを感じながらステージを後にしていた。以後ライヴの回数を重ねるごとに、どんどんフラストレーションは募るばかりだったから、今回のアルバムで、そうやって溜め込んだフラストレーションを幾ばくか発散したんだよ。

――先程あなた自身も言った通り、結果的にはかつてなくハードでヘヴィなギター・ロック・アルバムになり、90年代アメリカのオルタナティヴ・ロックやハードコア・パンクの影響を強く感じさせます。こういった音楽はかねてからバックグラウンドにあったんですか?

うん。昔からずっと大好きだった。そもそも少年時代はハードコア・パンクとヘヴィ・メタルを聴いて育ったからね。ただ、これまではそういう音楽を作品にあまり反映させたことがなかった。ザ・リバティーンズはそういう音楽性を志向するバンドじゃなかったしね。

Carl Barat And The Jackals – “A Storm Is Coming (explicit)”

――じゃああなたにとって、原点回帰みたいな面もある?

ああ! 少しそういう部分があるね。っていうか、究極的には、自分に正直になってリラックスして、自分の中から自然に生まれるものを形にしたんだ。

――インスピレーションを求めて聴いていたアルバムなどはありましたか?

それは特に無かったかな。ちなみに今週は、スレイヴスとファット・ホワイト・ファミリーを聴きこんでいるよ。音楽シーンに新風を吹き込んでいる、なかなか面白い若者たちをね!

――そういえば、ザ・ジャッカルズのメンバーたちを通じて、新しい音楽に触れる機会は増えましたか?色々情報交換をしているんでしょうか?

そうだね。ヴィニーはパンク系が大好きで、ジョニー・サンダーズのファンだし、ジェイは音楽シーンで起きていることを細かくチェックしていて、新しいバンドの情報にも詳しい。それに、古典的なロックについても僕とはまた違うユニークな視点を持っている。だから、みんなでつるんでいる時は、いつもたくさんの音楽に接しているよ。

――メンバー全員が一致するフェイバリット・アーティストはいますか?

そりゃやっぱり、デヴィッド・ボウイとザ・クラッシュかな。まさに古典だよね。

――リリシストとしての今回のアプローチとインスピレーションは? 書きたいこと、歌いたいことが最初から明確だったんですか?

うん、あったと思う。これは“現代”についてのアルバムなんだ。今の世界を映し出したアルバムってこと。ジョージ・オーウェルの『1984』やオルダス・ハクスリーの『すばらしい新世界』なんかと重なるところがある。例えばテクノロジーから政治のシステム、政府が握るパワーと一般市民が握っているパワー、様々な局面で非常に興味深いことが起きている中で、世界がどこに向かっているのか、どう変わろうとしているのか、色んな疑問を投げかけているんだよ。

――だから「戦争」や「闘い」にまつわるヴォキャブラリーを多用したんですね。

ああ。確かに争いごとにまつわる表現がたくさん使われている。人間が抱くあらゆる感情や情熱を描く上で、すごく雄弁だからね。

――『Let It Reign』というアルバム・タイトルを選んだのはなぜですか? 『Let It Rain』と題された曲との関係は?

順番で言うと、『Let It Rain』が先に生まれたんだけど、タイトルは“rain”ではなく“reign”で、綴りが違うよね。『Let It Rain』は鬱に関する曲で、精神的に落ち込んでいる時は、無理にそういう心理状態に抵抗しようとせずに“雨が降るまま(let it rain)”にしたほうがいいってことを悟る――という内容なんだ。そして、アルバム・タイトルのほうは、テムズ川の畔に建っているブーディカの像から着想を得た。彼女は言わば古代の革命家で、今の英国を侵略してきたローマ人に対して反乱を起こした、ケルト系住民のリーダーで、像はちょうど国会議事堂の前にあるんだけど、現在の英国議会とブーディカの間には全く接点が無くなってしまったんじゃないかと嘆いているのさ。つまり、いかに人々がたやすく、権力による支配を受け入れてしまうかっていうことに言及している。このタイトルも疑問を投げかけているんだよ。

Watch Carl Barat + The Jackals Play ‘Victory Gin’ Live

――あなた自身が今の政治のシステムや英国の政府に抱いているフラストレーションが、歌詞にも、アグレッシヴなサウンドにも反映されている?

それも少しあるんだろうね、きっと。今の世界の在り方について、たくさんのフラストレーションがあるし、同時に、非常に興味深い時代だとも思う。人々は、物事のどこが間違っているのかちゃんと見透かせるようになった。そして人々が投げかける疑問に対して、権力者たちはちゃんと答えを返さなければならなくなったし、自分たちの行動に責任を負わされるようになった。最近は、国会議員は経費を細かく申告しなきゃならないし、警察官は、公正さを証明するために常にカメラを身に付けなきゃならなかったりする。それに、人々の不安を煽るばかりのマスコミの実態も暴かれつつあって、昔のやり方では通用しないことに気づき始めたんだよ。その一方で、経済格差の拡大という問題もあるしね。

――ならば、今年総選挙が控えた英国にはタイムリーなアルバムですね。

まあね。でも僕は政治的な説教をしたいわけじゃない。このアルバムは説教じゃなくて、鏡像なんだ。僕は単に、世の中で起きていることを音楽で切り取るアーティストなんだよ。説教するのは僕の仕事じゃない。それに今年の選挙に関しても、どういう結果になるのか読めないところがある。英国の選挙制度がうまく機能していないことが証明されてしまったからね。一般市民の声を公正に反映できるとは言い難いし、多くの人が一票を投じることの意味を見出せないんじゃないかな。ラッセル・ブランド(注:英国人の人気コメディアン。最近は政治活動に熱心に取り組み革命を呼び掛けている)が主張していることには、結構説得力があるアイデアが含まれていると思うよ。

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