雄貴 彼の方から、「こういう音を取り入れよう」みたいに、参考音源を聴かせてきたりすることは?
ヴァン 自分たちでは予期しなかった感じで、バンドを引き合いに出してくれることはあるかな。たとえば、僕らのアルバムの曲で言うと、“26”で僕のヴォーカルがひずんでるのを聴いて「(ジム・アビスが好きなバンドの)スージー・アンド・ザ・ヴァンシーズに似てて最高だね!!」って言ってきたりして。でも、自分から「こういうバンドみたいにしよう」とは言ってこない。それに、僕が「このバンドみたいにしたいんだけど……」って言っても絶対にやらせてくれない。ただ、僕らがやったことがたまたま彼の好きな作品に近かったら、凄く喜ぶんだ。ちょっと偏屈野郎なんだよ(笑)。
Siouxsie And The Banshees – “Hong Kong Garden”
雄貴 (笑)。日本の場合はプロデューサーの人が歌詞に意見を出したり、いじったりすることもあるんだけど、そういうこともあった?
ヴァン 歌詞はとてもパーソナルなものだから、そこには口を出されないかな。でも、その他のことでは凄く色んなことに口を出してくるよ。ひとつ面白かったのが、彼は“フォールアウト”のデモ・ヴァージョンに慣れちゃっていて、そのヴァージョンが大好きでね。「アルバムに入れるのは絶対にデモ・ヴァージョンじゃないとダメだ!」って言い出して。でも僕は「新しく録ったヴァージョンの方がいいよ!」って言って、それで喧嘩した(笑)。そしたらジムが「もしデモ・ヴァージョンの方を入れないんだったら、俺はもうこのアルバムをプロデュースしない!」とか言い出して。
雄貴 えっ(笑)。
ヴァン 結局アルバムに収録されているのは僕が推した新しいヴァージョンの方なんだけど、それをレーベルに聴かせたら「シングルで決まりだね」って言われてさ。その時はもう、ジムに対して勝ち誇った気分だったよ(笑)。そういう、殴り合いのケンカになるぐらいのところまで行くんだ。
雄貴 へええ、そういう感じなんだ。
ヴァン でも、彼はそれも計算してるんだよね。そうやって怒ったままブースに入って歌うと、当然怒った声になるよね? で、彼は「そう、その音が欲しかった」「そのテイクが欲しかったんだ」って。そうしていいテイクを録れたら、お互い満足して笑顔で「ご飯を食べに行こうぜ!」って感じになる。レコーディング中はそれの繰り返しだったよ。そんな感覚というか、そういう凄いトリックを使ってくる人なんだ。
Catfish And The Bottlemen – “Fallout”
雄貴 あと訊きたいのは、今日もライヴ前に取材が沢山あったそうだけど、そういうのは気にならないタイプ?(今回の取材はライヴの直前に行われたもの)。今も僕が来ているけれど(笑)。
ヴァン いやいや、全然気にならないよ! 中には嫌う人もいるけど、僕はむしろ大好きなんだ。日本に呼んでくれて、こうやって音楽についての質問をしてくれるなんて、凄く嬉しいしね。僕らはイギリスの本当に何もない田舎から来ているし、別にお金があるわけでもないし、何もない人間の集まりなのに。まさかそんな自分や、僕らの音楽について興味を持ってくれる人がいるなんて。今日だって「バンド名の由来は?」って10回ぐらい訊かれたんだけど、むしろ毎回「早く言いたい!」って感じだよ(笑)。やっぱり、自分には音楽しかないし、僕は音楽が大好きだから。それについて話せるなんて、本当に幸せなことだと思う。