――映画の内容についてお聞きしたいんですが、乃り子さんが劇中で「似た者同士は続かない」ということ仰っていましたね。その上で2人が反発しながらも支えていく愛の形が本当に素敵だなと感じました。
乃り子 愛の形じゃなくて憎しみあいの形よ。
有司男 愛の形ってそんなかっこよくないな。
――なるほど。ここまで長くやってこれた理由は何だと思いますか?
乃り子 お金がなくて綺麗に美しく別れることができないから、泥まみれになりながらも生きていくしかなかったってことじゃないかしら。
有司男 そうだね、僕らはやはり2人3脚よ、本当の。
乃り子 いや、自分では2人3脚だと思ってるけど、私なんかホントに1人で3脚くらいしてるんだから(笑)。
有司男 要するに文化移民でニューヨークで生活して親もねぇ、子もねぇ、保険もない、医者もいない、弁護士もいないでしょ。だから協力しなきゃさ、色々なインフォメーションを2人でね。そうすると倍になり3倍になるでしょ。そうやって2人の得意な面を共有しなきゃいけないしね。彼女の方が英語がうまいから、僕の通訳になってくれるし。弁護士やなんかでも彼女がヘルプしてくれるしね。
乃り子 映画の中で言ってることと同じじゃない。お金がないから通訳を私にって(笑)。
――そうやって有司男さんを支える部分もある中で、乃り子さんの自己表現への欲が映画では強く描かれていましたが、そこの心境はいかがでしょうか?
乃り子 私は元々アーティストになろうとして19(歳)のときにアメリカに行ってるからね。そのアーティストになろうという気持ちはずっと忘れたことはなかった。ずっと表現し続けてきて、ずっと絵を描き続けてるわけなんですよ。でも、それまではやっぱり過去の天才のようになりたかったの。ミケランジェロ、ガラヴァッジオ、ロートレック、ピカソのようにね。そのせいで自分を見つけるのに40年くらいかかったのよ。それで『キューティー&ブリー(乃り子の作品)』を偶然書き出したのが、2006年の丁度お正月頃だった。それを書き出したときに初めて自分だけのモノを作ったな、過去の天才の模倣じゃないモノができたなって思ったわけ。そのとき自分で初めてクリエイションして、私はアーティストだと思ったわけ。
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――『キューティー&ブリー』という作品名の由来は何だったのですか?
ある日、近所にミルクを買いに行ったわけ。そしたら29、30くらいの若い背の高いハンサムな男性がスッと寄ってきて「Hi Cutie.」って言ったの。そのとき私は49歳だったんだけど、誰が49歳の女性に「Hi Cutie.」なんて言うのって思っちゃって、それ以来「Cutie=キューティー」って名前はずっと頭の中にあったの。「ブリー」はいじめっ子の“BULLY”と有司男の“うし(牛)=BULL”とくっつけて「BULLIE=ブリー」にしたの。それは私の天才的な命名だと思っているんだけどね。私はもう骨の髄から皮膚まで、つま先から頭の先までアーティストだなと思ったの。
有司男 自信を持ったわけ?
乃り子 自信というか、自分はいつも作品を作ってても過去の模倣であるというのが頭の中にあったの。だから自分は本当にアーティストなのかなって疑問がいつもあったわけ。でも『キューティー&ブリー』を作り始めてから私はアーティストであるという自信ができたわけ・・・確信ね、確信。自信じゃなくて。