――絵のひとつひとつに絵画的な印象を受けましたが、どういったプロセスで描かれているんですか?
実は、見開きで16枚、32ページの絵本なのに、140枚くらいの原画があるんです。この絵本の中のモチーフは、雲も電車も、子供たちもひとつひとつ別の紙に描いています。うちのスキャナーがA3サイズまでしかスキャンできないので、それにあわせて小さいサイズでたくさんのキャラクターを描くとクレヨンは太いタッチになってしまうので、色が塗れないんですよ。なので、大きい紙に一つ一つ描き、それをスキャンしてデータにしてから全てをはり合わせています。クレヨンで描くのは、昨年ルミネ立川店の30周年の全館デコレーションでも用いた手法で、『ジョゼと虎と魚たち』という映画のタイトルロールを描かせてもらって以来で、10年ぶりにクレヨンの箱を引っ張り出してきました。10年も経っているとクレヨンがものすごい異臭を放っていて。この作品描いている間、家中すごいにおいが充満していました(笑)。
――様々なプロセスを経て描かれた今回の作品ですが、その過程一番で苦労した点は?
クレヨンって絵の具や色鉛筆に比べてそこまで色数があるわけではないから、限られた色の中で、どうやって色の配分を行うかがかなり難しかったかな。子供の好きな色って結構限られていて、中でもパステルカラーは鉄板なのだけど。その中でピンクばかりを使いすぎてしまうと、女の子向けになってしまうし、かといって緑とか青ばかりだと今度は、男の子向けになってしまうから、その中間を取っていかないといけない。でもさらに水色で、この子とこの子の水色を違うものに見せるために、どうやってバリエーションを組んだらいいかと考えはじめた時、何十人っていう子供がこの本では登場してくるので、少ない色の中でバリエーションを出さなくてはいけず、配色に一番苦労したかもしれませんね(笑)。あと、よく見るとクレヨンで描いた筆感の中に、下地の色紙が見えているんです。今回のタッチのような描き方では、混ぜて色をつくることはできないし、データにしてから色加工すると汚くなるので、絵を描く色紙の色を変化させる事で、バリエーションを付けました。それはちょうど油絵を描くときに似てるというか。油絵の技法は、絵の具をどんどん重ねていくのだけど、下の色をのぞかせて効果をだしていくので。
例えば、1枚の色紙に1キャラクターずつ描いていて、登場する人間と物と背景、全てベースの色紙を変えています。人間には重量感を持たせたくて濃い色の色紙をベースに使ったり、雲の食べ物はふわっとした筆感が欲しかったので薄い色の紙を使用したり、一見しただけでは分かりづら〜いこだわりがてんこ盛りで。それと、気に食わない配色になってしまった場合は書き直す、その繰り返しで完成させたのと、印刷で思った色を出すのがかなり大変で色校テストを何度もくり返したので、実は時間がかかりすぎて発売が遅れてしまいました。