3月29日のリリースなので、もうすでに耳にしている人もいるかと思うが、DEXPISTOLSの最新ミックスCD『LESSON.08 TOKYO CULT』がバカ面白い! DEXPISTOLSによるこの“レッスン”と名のつくミックスCDは2005年に発表となった『LESSON.01』から続いている人気シリーズで、今回が通算8作目となる。現在入手困難となっている2many DJ’sスタイルの『LESSON.01』(05年)、独創的な解釈でヒップホップとハウスのビートを繋いだ『LESSON.02』(06年)、そしてジャスティスやクラクソンズなどエレクトロやニューレイヴに沸く時代の空気をそのままぶっ込んだエポックメイクな『LESSON.03』(07年)など、DEXPISTOLSはその時代、その時代のリアルな“現場”のムードをこのミックスCDによって切り取ってきた。その意味においては、本作もこれまでのレッスン・シリーズの流れを汲む作品に位置づけられることは間違いない。が、国内のトラックメイカーの楽曲がこれほどまでに収録された作品はなかったという点においては、レッスン・シリーズ史上においても異色作と言えるのではなかろうか。
1曲目を飾るのはDJ MAARとThe SAMOSのShigeo JDによるプロジェクト、Fake Eyes Productionによる“TakeItall”。そしてドリーミーでメロディックなエレクトロニック・サウンドを聴かせる“Anti Noise”、ベース・ミュージック・シーンを騒がせるHABANERO POSSEやWatapachi、注目の女性トラックメイカーAshra、DJ MAARの弟としても知られるTAARといった気鋭の国内アーティストたちの楽曲が、〈ナイト・スラッグス〉や〈マッド・ディセント〉といった海外の人気レーベルの屈強なサウンドに違和感なく混ざっているのは、とても痛快だ。本人たちは「無茶苦茶なBPMを無茶苦茶にミックスした」と説明しているが、その生々しさというか、カオスっぷりが、なんとも初期衝動を感じさせてかっこいい。好きな楽曲しか絶対に使わないという強いこだわりを持つDEXPISTOLSだけに、最新作に日本のトラックメイカーの楽曲が多数収録されているというのは、いま国内のクラブ・ミュージックが面白いということの裏返しでもあるだろう。またDEXPISTOLSとしても、ラッパーのDABOを迎えた“H to T feat.DABO”、Kohhが参加した“Do It Like This”の2曲の強烈な新曲を披露しているので、こちらもぜひ楽しみにしていただきたい。この最新ミックスCDについて、DEXPISTOLSのおふたり、DJ DARUMAとDJ MAARがメールでのインタヴューに応じてくれた。
──2000年初頭、DEXPISTOLSはふてぶてしいまでの生意気さをもって、当時のクラブ・シーンに殴り込みをかけるが如く登場しました。が、それから10年以上の年月が経ち、 DEXPISTOLSももはや荒くれルーキーではなく、ベテランの部類です。適切な喩えかどうか微妙ですが、かつては挑戦者だったけど、いまは背負っているものもあるでしょうし、防衛戦を重ねているチャンピオンの立場というか。そうした中で、いまだに当時のギラつきを失っていないのがすごいなって思います。モチベーション(あるいは闘争心?)をどのようにキープされていらっしゃるのでしょうか?
DJ MAAR(以下、MAAR) まだチャンピオンにはなれてないっすね(笑)。日本にだってオレらより有名な人はいますし、稼いでる人もいる。世界に行けばもっともっとたくさんいる。なれたとしたら、小さな小さなお山の大将ぐらいですかね。まー、闘争心かどうかは分からないっすけど、嫌いなモノは嫌いだし、好きなモノは好き。そんな感じで、日々自由気ままにやってるだけですよ(笑)。
──DEXPISTOLSがシーンに現れた当時、「俺たちがシーンをもっと面白く変えてやる」というような気概をビシビシと感じましたが、あれから10年以上。現在のクラブ・シーンにおいて、DEXPISTOLSがやるべきことって、ご自身たち的にはどのように考えていますでしょうか?
MAAR やるべきことってのは、最近は考えないようにしてますね。前はすごく考えていたけれど。あんまりそこのツボに入ると疲れちゃうんで(笑)。でも、いま本当に日本にはジャンルを問わず、若い良いDJも曲作るプロデューサーもたくさんいるから、その子たちがモノ作りに集中できるような環境とインフラは整備してあげたいなとは思います。
──『LESSON.01』のリリースが2005年なので、このレッスン・シリーズもかれこれ10年近く続いていることになります。そもそもこのシリーズに『LESSON』という言葉を使った理由はどんなものだったのでしょうか? ヒップホップ好き、あるいはDJシャドウあたりが好きな人なら真っ先にダブルディー&スタンスキーを思い出します。
DJ DARUMA(以下、DARUMA) 最初は「こんなの聴いたらパーティが楽しくなりますよ」といった我々からの提案や、「今こんなに面白いトレンドが巻き起こってますよ」という事をシーンに伝えたいという意味でのレッスンだったのですが、最近は自分たちの勉強やレッスンも兼ねているような気がしています。
──『LESSON』シリーズには過去に『Tokyo New School』(『LESSON.03』)という作品もありましたが、今回は『TOKYO CULT』と題されました。実際にご自身の新曲をはじめ、国内のアーティストやラッパーの収録も目立ちますが、いま改めて“東京”の何かしらの空気感やシーンのようなものをパッケージしたかったというような意向があったのでしょうか? 『TOKYO CULT』というタイトルに込めた意味を教えてください。
DARUMA 出来上がったものを聴いて「訳がわからない面白いモノができたなぁ」と思いまして、ちょっとカルトっぽい雰囲気があるのでは? と考えてこのタイトルにさせて頂きました。TOKYOに関しては僕等のホームタウンという事もありますし、以前僕が作った『TOKYO CULT』というTシャツが海外の方たちからのウケがとてもよかったのでつけました。
──選曲、BPM、世界観、ストーリーなど、本作において、表現したかったことはどんなことになるでしょう?
MAAR 最初は、ライセンスしたBPM140ぐらいのダブステップやらトラップ、あと初期のテクノにミックステープ的な感覚でラップやら歌やらをのせようと思ったんです。でもそれが、権利上の都合で海外音源はダメで国内音源で直接話しができるなら大丈夫ってことで、近しい人たちから音源を集めました。少し前なら考えられなかったことだけど、国内音源のクオリティも凄く上がってるし全然いいじゃんと。で、その国内音源にラップやら歌やらをのせた感じです。いつもただその瞬間にオモロいと思ったモノを適当に選んでるだけなので、BPMも結局無茶苦茶になって(笑)。その無茶苦茶なBPMを無茶苦茶にミックスしました。厳密に言うと、ミックスすらBPMを合わせて繋いでません(笑)。そのほうが勢いがあったんですよね、実際。今回は細かい音量の調整も、そこまで追い込まなかったし。あえてやらないって選択肢を取ることで、生まれる何かがあるんだなぁーと今回のミックスで学びました。
──DABO、Kohh、K.A.N.T.Aといったラッパーがフィーチャーされていますが、彼らのラップを必要とした理由、もしくは彼らのラップの魅力についてコメントをお願いします。
DARUMA 日本語ラップ愛は常に持っているので、色々なタイミングで様々なラッパーの方々とリンクしたいという考えはいつも持っています。なので今回は親交もあり大好きな方達にご協力頂きました。
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