——今回最新ミックス『Dj Kaori’s Inmix 7』がリリースされることになりましたが、前作のリリースが10年と考えると、7年ぶりにシリーズが復活することになりました。

10年以降は、日本のアーティストのミックスや『DJ KAORI’S PARTY HITS』みたいなものを出しはじめちゃったので。やっぱり、時代のBPMが早くなっていって(笑)。

——「時代のBPM」ですか(笑)。

それでやっぱり、みなさんの要求に応えていかなきゃいけないな、と(笑)。だから今回新作を出すということも深い意味はなかったんですけど、でも時代的には一時期EDMがすごく盛り上がって、そこから今はカルヴィン・ハリスやゼッドのようなそのシーンのスターたちが、ヒップホップやR&Bのアーティストと絡んで曲を作るようになってきていますよね。

Calvin Harris – Slide (Official Audio) ft. Frank Ocean, Migos

——つまり、「今なら違和感なく復活できるんじゃないか?」という?

そうかもしれない!(笑)。

——今回の収録曲を見ると、ヒップホップやR&Bに加えてポストEDM的な感覚のものや、トラップのような音楽までが収録されています。今回選曲はどういう風に考えていったんですか?

基本は自分がここ最近好きな曲を集めている感じですね。あとは人気がある曲。聴いてもらえば絶対に「いい!」と思える曲を集めているのは変わっていないです。いい曲がたくさん入っていて楽しめるCDになってると思いますよ。

——ちなみに、KAORIさんはもともとヒップホップ/R&B的な音楽を中心にプレイしてきた方だと思うのですが、EDMもプレイでガンガンかけたりしていたんですか?

EDMはかけますよね。やっぱり、DJだから「お客さんが求めるものはかけなきゃ!」というのはあるじゃないですか。そうでしょ? 「みんなが求めているのに、他に何をかけるの!?」みたいな。EDMは分かりやすくてノリやすいから、音楽を知らない人でも楽しめるんですよ。ヒップホップやR&Bの場合は歌詞が分からなかったりすると、シンプルなワンループの曲が多くて、共感できない部分も出てきたりするかもしれないけど。

結局のところ、DJをやっていて気付くのは、その土地ごとに色々な「ローカル」があるということなんですよ。それは国によっても全然違うし、いくら音楽がユニバーサルなものだと言っても、聴く人はそこにいるローカルな人たちなので、NYに行ったらNYに合うセットというものがあるし、そもそもNYとロスでは流行っているものが違っていたりする。DJって、結構そういう要素が強いんですよ。

——「その土地の人と向き合う」ということですね。

そういう部分も大きいんです。EDMとかだと知らない人でも盛り上がれるから、あれだけ世界中に広まったわけですけど、基本的にDJってローカルな部分があると思うんで。カルヴィン・ハリスの新作『Funk Wav Bounces Vol.1』も、彼がアメリカに移ったからこそああいう作品になったのかなと思う。

最初はイギリスで今とは違うことをやっていたけど、それがアメリカに来て「あ、違う! やっぱりミーゴスじゃん!」ってなったんだと思うんですよ。スヌープの“Ain’t No Fun (If the Homies Can’t Have None)”みたいなトラックで、レペゼンカリ(カリフォルニア)みたいになってる。絶対今カリに住んでますよ。曲で分かるもん! ゼッドもそうですよね。みんなハリウッドですよ!

Snoop Dogg – Ain’t No Fun (Live at the Avalon) ft. Kurupt

Zedd, Liam Payne – Get Low (Street Video)

——ははははは。

全然ドイツじゃないもん(笑)。だから、そういうローカルからの影響って本当にありますよ。今回の『Dj Kaori’s Inmix 7』も、ジャパン・ローカルでも流行りそうな、実際流行ってる曲を入れてます。クラブは盛り上がってるけど、やっぱり現場に行くと同じ曲をかけなきゃいけない現実はあるから、その辺の幅がもっともっと広がれば楽しいのになって思うんです。あと、ピッチを落としたりすると急に「あれ!? 何が起こったの?」ってなっちゃう(笑)。

だから、もっと色んな曲を知る機会ができればいいんじゃないかってことで。あと、普段クラブに来ない人にもぜひ音楽を楽しんでいただきたいです。マニアックにならなくても、仕事帰りにクラブで誰かとお酒を飲んで、友達を作ったり、いい出会いを探すとかでいいじゃないですか。そういう風に、ちょっとずつ音楽を楽しむ機会が増えればいいなと思いますね。日本人も音楽が流れたら体が動くくらいの国民性になってくれたらいいなって(笑)。

——しかも『Dj Kaori’s Inmix 7』にはレイ・シュリマーの“ブラック・ビートルズ feat. グッチ・メイン”のようなトラップの要素がある曲も入っているわけで。ここから色んな音楽を掘る楽しみもあると思います。

そうですよね。いろんな人に聴いてもらって取っ掛かりにしてもらってもいいし、音楽好きの人でもいい曲ばかり入っていて楽しめると思うので。普段洋楽を聴かない人も、今売れてるホットなものからクラブで人気の曲まで色々入っているので、ぜひ聴いてほしいです。たとえばレイ・シュリマーの曲も、すごくキャッチーだよね!

日本人の間でいきなりミーゴスの“Bad and Boujee”が流行るというのはちょっと無理かもしれないけど、“ブラック・ビートルズ feat. グッチ・メイン”だったらいけるというか。(レイ・シュリマーのメンバーの)スワエ・リーはすごく才能がある、国際的にウケそうなシンガー・ラッパーだと思いますね。

Migos – Bad and Boujee ft Lil Uzi Vert [Official Video]

Rae Sremmurd – Black Beatles ft. Gucci Mane

——『Dj Kaori’s Inmix 7』から個人的に好きな曲を2、3曲選ぶとしたらどうしますか?

え~?(笑)。まずはさっきも言ったレイ・シュリマーの“ブラック・ビートルズ feat. グッチ・メイン”。ザ・チェインスモーカーズもすごく盛り上がってるし、DJスネイクもそうですよね。それに、意外にワン・ダイレクションの中でリアム・ペインが一番よくて、「あれ?」みたいな(笑)。誰も予想していなかったけど、リアム・ペインが一番バズってる。アメリカ人のメンタリティの中にヒップホップや R&Bが根付いちゃってるってことですよね。

エド・シーランの“シェイプ・オブ・ユー”も、聴いてすぐに「あ、TLCの“ノー・スクラブス”だ!」って思ったもん。サンプリングではないけど、“inspired by”みたいになってて「このコード進行絶対そうじゃん!」って。エド・シーランの中でもあの曲が一番受けているわけだから、彼にもヒップホップやR&Bからの影響はあるんでしょうね。その根強さを感じました。

Ed Sheeran – Shape of You [Official Video]

——DJをやるときに、DJ KAORIさんが大切にしているのはどんなことですか?

それは……“盛り上げる”。もう、何でもかけちゃいますよ!!!

——ははは、最高ですね!!(笑)。

やっぱり、「その場にいる人が楽しんでくれる」ということが一番大事だから。DJっていう職業は自分がかっこいいところを見せようとか、そういうことじゃないと思うんですよ。そもそも「自分が主役だ」という話じゃない。だから、音楽を聴きたいと思ってクラブに来てくれた人たちに盛り上がって帰ってほしい、楽しいんで欲しいという気持ちはずっとありますね。

——これまで大変だったことというと、どんなことを思い出しますか?

転機的なことを言うと、NYから日本に移り住んだときは大変だったかもしれないです。自分の中で当時やっていることに限界を感じて、日本に戻って来た部分もあったんですよ。仕事がなくなったわけでは全然なかったけれど、自分の中で、「現場でDJするだけじゃなくて色んなことやってみたい」って気持ちがどんどん出てきて。

P・ディディの周りでDJしながら、「いいなぁ。私もシャンパン開ける方の立場になりたいな」って(笑)。あんなの見せられたら、まさに労働者の気分ですよ! まぁ、結局今も労働者なんですけどね(笑)。それが好きなんだなって気づきました。

——結局、人が好きだということなんですかね?

人が好きっていうか、何だろう。分かんないですけど、私はもともと人とのコミュニケーションが上手ってわけでもないので、もしかしたら「音楽でコミュニケーションを取ってる」ってことなのかな。それで盛り上げてるのかもしれないですね。実際、DJって結構地味な人が多いですよ(笑)。派手な職業そうに見えて、実際はすごくそういう人が多いんです。

——最後に、クラブ・シーンのこれからについて、KAORIさんが「こんな風になって欲しい」「自分はこんな風にサポートしていきたい」ということがあれば教えてください。

自分の場合、何だかんだでDJするのが好きなので、それをずっとやっていたいとは思うし、そういう意味ではクラブは盛り上がっているに越したことないと思いますし。幅広い年齢層の人たちが遊べる場所がこれからもいっぱいできて、たとえば「学生の時にしかクラブに行かない」とかではなくて、普通に居酒屋やバーに行く感覚でクラブやラウンジに行ったり、音楽に触れられる場所にいられる環境がもっと広がればいいなと思います。居酒屋感覚で遊びに来てもらったり、海外みたいにご飯食べて、「じゃあ今からパーティー行く?」というのが普通になってくれればいいなって。今、日本は海外からの観光客の数もすごいわけですしね。

——さっきKAORIさんが「居酒屋」と言われていましたが、同じ音楽で興奮していたら、それだけで知らない人とも「似ている人間なのかな?」と分かる部分があると思います。

そうだよね。普段から知り合いばっかりと会っていても幅が狭まっちゃうから、新しい出会いがあるのっていいことですよね。だからみなさんもぜひ、クラブに遊びに来てみてください!

RELEASE INFORMATION

Dj Kaori’s Inmix 7

【インタビュー】DJ KAORIの本当の凄さ、知りたくない? 90年代のNYからEDM隆盛の現代について。そして“時代のBPM”とは interview_djkaori_4-700x691
2017.10.04(水)
¥2,484(tax incl.)
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詳細はこちら

text & interview by 杉山仁