——学校で習うわけでもないのにどうすればいい音がするか? とかいい演奏ができるか? ということを直感で分かってる人たちなのかなと映像を見て想像しました。音楽に関する会話が技術的なものじゃなくて、直感的な印象があって、ストレートだけど深いなと思うんです。

まったくその通りだと思うね。この“壁の向こうの秘密”みたいなことで言うと、やっぱりものすごくテクニック的にもレベルの高いことを彼らはやっているんだけども、それを大したことないように簡単なシンプルなことであるように、彼らが捉えているからできることなんじゃないかと思う。これを技術的に考えすぎると、すごくストレスになるほどのことなんだよ。ただそれをね、サウンドがグレイトならいいし、「楽しいからいいじゃん、これが仕事だなんて最高じゃないか」、そういう姿勢でやってるからこそできるパフォーマンスなんだろうなって思うよ。気楽にかまえて、たいしたことないよ、僕らのやってることなんて、ぐらいの姿勢なのがいいんだろうね。

——あれだけ個性的で男っぽい人が集まると「おまえもっとちゃんとやれよ」みたいなケンカとかないんですか(笑)? また、それをまとめる大変さとか。

ま、全然そんなこと稀だよ、ケンカなんていうことは。こういう音楽をやってる人たちで見た目もワイルドでね、で、混沌としてて、毎晩ホテルで打ち上げやってんじゃないか? と思われるかもしれないけど、実際はすごく落ち着いた人たちなんだ。ひとつ例としてこのエピソードを挙げると、昔、ストックホルムの中にある古いクラブで、2000人ぐらい入る大きな場所でコンサートをやったんだ。そのコンサート会場の楽屋へ彼らが滞在してるホテルから直結のエレベーターがあって。すごく盛り上がったコンサートだったんで、アンコールを1回、2回とやって、一旦バンドが引き上げて、それでもお客さんがもう1回アンコールやれって、みんな叫んでるし。絶対アンコールやってもらわないと騒ぎになっちゃうからみんなを呼んできてくれないかってプロモーターが僕に言うんで、「わかった」って、メンバーを探したんだけど、もう誰も楽屋にいなくて。みんな部屋に戻ったんだなと思ってホテルの部屋に行ったら、最後のアンコール終わってまだ5分ぐらいなのに、みんな自分の部屋でパジャマ姿で(笑)、「寝るぞ」状態になってて。だからそういう人たちなんだよ。熱狂的なコンサートをその場では思いっきりやるけれども、それが終わったら、はいおしまいって日常に戻るっていう。

Fanfare Ciocarlia -“Duj Duj”

——世界中を廻ってるわけですけど、そのことで彼らに変化はありますか? もし変化があるとしたらいつ頃だったのか知りたいんですが。

大きな変化っていうのは特にないと思う。特に人柄においては当初から変わっていないと思う。とは言っても最初のツアー、あるいは3回目ぐらいのツアーまでは想像がつくと思うんだけど、ブカレストにすら行ったことのない人たちが外国に行ったわけだから、ホントに子どものようになんにでも目を輝かせていたし、西側の生活の豪勢さとか心地よさみたいなところにすごく感心していたけれど、それから回数をこなすにしたがって、彼らにもいろんなものが見えてきたと思う。必ずしも西側でもリッチなわけじゃないし、見えない貧困もあるということがわかってきて、割と旅を通じて異文化に触れて学んで、生活ぶりとか、教育のあり方とかいろいろ思うところはあったと思うよ。なんで、個人的な部分での変化というのはいろいろあったと思うけれど、悪い意味でブラスミュージックのスターだということで、その座に甘んじてしまったり、怠けてしまったり、横柄になったり、そういうことは一切感じないな。

——なるほど。そしてグループ単体の作品のみならず、今年はコラボレーション作品(ファンファーレ・チォカリーア&エイドリアン・ラソ名義でのアルバム『悪魔の物語』)もリリースされましたけど、そういうことはこれからもやっていきたいですか? そしてもしやるならどの国のどんな音楽がマッチすると思われますか?

具体的なプランは今の段階ではないんだ。常に流れに任せてに決めていくタイプなので、次のアルバムのプロジェクトのテーマというのはまったく見えていないんだ。今回はエイドリアンというアーティストと組んだことによって、いつもと違う別次元の経験やインスピレーションを得ることができたと思うだけど、やはり新しいことに挑戦したいという気持ちをこのバンドは非常に強く持っていて、今まではブラスのみ、シンガーが入る程度のことをやってきたのに対し、今回のギター、あるいはバンジョーというセンシティブな楽器を相手に、そこに自分たちブラスバンドと、さらにドラムも入ってくるということで、そのバランス的な部分で非常に緊張を強いられたし、新しいことができたなという充実感があって。ま、だからと言ってね、またいきなり1,2,3,4,のはい! やって終わり! のファンファーレ・チォカリーアらしいラフなものになるかどうか? っていうのもわからないし、揺り戻しがくるかもまだわからないし、ということで、先のことはまだ全然わからないんだ。

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