昨年5月に〈HIP LAND MUSIC〉がスタートした、デジタルディストリビューションサービス「FRIENDSHIP.」が話題となっている。
「FRIENDSHIP.」はストリーミング時代のアーティストに向けて、従来所属レーベルが所属アーティストに提供してきたプロモーションやサポート、ディストリビューションを統合した新しいアーティスト支援サービス。サブスクリプション(以下、サブスク)登場以降、音源を独自配信するインディペンデントなアーティストが次々と登場する中、レーベルや事務所に所属せず楽曲配信からプロモーション、マネタイズまでを実現するディストリビューターに注目が集まっており、そうした動向に先鞭をつけた「FRIENDSHIP.」は、その存在感を増す一方だ。
前回は「FRIENDSHIP.」でキュレーターリーダーのタイラダイスケと、キュレーターとして参加するThe fin.のYuto Uchinoによる対談を行い、「FRIENDSHIP.」の概要について解説してもらった。今回は、その「FRIENDSHIP.」からTシャツ付きの新音源をリリースしたHelsinki Lambda Club(以下、ヘルシンキ)の橋本薫と、キュレーターに抜擢されたコンセプトショップ『BOY』のTOMMYこと奥冨直人による対談を敢行。ファッションと音楽の関係性や、ストリーミング〜サブスク以降のアーティスト活動やプロモーション戦略についてなど大いに語り合ってもらった。
Interview:橋本薫(Helsinki Lambda Club)×奥冨直人(BOY)
──昨年配信リリースされたヘルシンキの新曲『Good News Is Bad News』を収録したCD-RにTシャツを付け、ライブ会場限定で販売するそうですが、そもそもこのようなやり方にしたのはどうしてだったのでしょうか。
橋本薫(以下、橋本) 新曲を作ってただ普通にCDをリリースするやり方に、ここ数年で飽きてきたというか。ストリーミング配信が普及してきているこの時代に、昔ながらのやり方をただ漠然と繰り返しているのはどうなんだろう?という気持ちがあったんですよね。ヘルシンキはこれまでにも、500枚限定の福袋シングルをリリースしたり、前回のミニ・アルバム『Tourist』では、着せ替えジャケット仕様にしたり、パッケージに色々こだわってきたので、その流れで今回はTシャツというアイデアが思いついたのがそもそものきっかけでした。
──しかもTシャツや音源のジャケットデザインを、ダン・ディーコンやエズラ・ファーマンのアートワークも手がけるスペインのイラストレーターCristina Dauraに依頼したそうですね。
橋本 きっかけは、バンドのスタッフが銀杏BOYZのロンドン公演について行った時、ラフ・トレード〈Rough Trade Shop〉に行ったらそこに貼ってあったのがCristinaがイラストを担当したエズラ・ファーマンのポスターで。それがすごく良かったというのを教えてくれて、僕らもInstagramとかで彼女の作品を検索したら単純に一目惚れというか。是非とも僕らのアートワークもやってもらいたいと思い、直接コンタクトを取ったのがきっかけでした。
──どの辺が気に入ったのですか?
橋本 色使いとかすごく独特だなあと。同じスペインのイラストレーターで、ウィルコ(Wilco)のアルバムなども手掛けているJoan Cornellàにも通じるテイストがありつつ、佐伯俊男さんっぽい雰囲気を感じたんですよね。その無国籍感や、ポップな中に毒がある感じが、僕らのサウンドにもぴったりだなと思ったんです。
──奥冨直人さんは、ヘルシンキのそういった試みに関してはどんなふうに思いますか?
奥冨直人(以下、奥富) 僕はファッションも音楽も両方の影響が強く、例えばアーティストのシルエットまで美学があったり、作品のアートワークがそのバンドの音や今思う事を表すことって多いじゃないですか。そういう意味で、ヘルシンキが自分たちの音源を出すたびにパッケージをアップデートさせていくのって素晴らしいし自然な事で、それを見た人達が各々の受け取った感覚が行動で広がっていけば、きっといいんじゃないかなって思いますね。
──奥富さんが経営するショップ『BOY』では、「fashion & music」をコンセプトに掲げて古着や雑貨だけでなくCDも販売されているそうですね。
奥富 最初に置いたのは、DAOKOの最初の音源『HYPERGIRL-向こう側の女の子-』(2012年)で、それが予想以上に反応があったんです。まだ古着屋の会社の中で務めていた頃で、この反応を境に考えが柔軟になりました。その後Yogee New Wavesなど置かせてもらえるバンドも増えてきて、今では毎月何タイトルか入荷したものが、大抵は完売するようになっています。
元々好きなものが多いので、お店に置いている商品は全て好きでありながら間口を広く持って、どのように来て下さる方の人生に落とし込めるかを考えていますね。もちろん、お店には洋服だけを目当てに来られる方も、音楽タイトルだけを目当てに来られる方もいらっしゃいますし、そこを無理やり繋げるつもりはないと思っています。例えばスポーツや食は、音楽やファッション同様それぞれの身近にあるので更に可能性のある掛け合わせも出来るのかなと思います。相手方の関心を引き出せる様、押し付けがましくなく発信していけたらいいなと思っていますね。
奥富 2年くらい前から日本でもサブスクが一気に普及した感覚があって、アーティスト側も「配信限定」という音源が多くなってきましたよね。「時代が変わってきたな」という実感はありました。昨年はそれが決定的になったというか。僕自身、お店の10周年のイベントなどがあってバタバタしていたんですけど、フィジカルを置くことが自然と減ってちょっと悩んでいたんですよね。やはり以前と比べると、CDの売上ペースは落ちてきていたし。ただ、今回ヘルシンキがCD付きのTシャツという形態でリリースしたり、uri gagarnが新曲を限定カセット版でリリースしたり、自分の近しいバンドがユニークな売り方をしていたりどこまでいってもフィジカルが好きなので「また置いてみようかな」という気持ちになりました。
──なるほど。
奥富 それと並行して、今話したイベントの反響などから色々感じることもあって。今月末に恵比寿LIQUIDROOMと合同で主催するイベント<Song For Future Generation>もそうですが、これからはフィジカルだけでない音楽の伝え方みたいなことを考えていきたいと考えるようになりましたね。
──お二人は、音楽とファッションの関係性ついてどんなふうに考えていますか?
橋本 やっぱりロック史を見ても、シーンごとにカルチャーとの結びつきみたいなものを感じますよね。セックス・ピストルズ (Sex Pistols)とマルコム・マクラーレン(Malcolm Robert Andrew McLaren) 、ヴィヴィアン・ウェストウッド(Vivienne Westwood)の関係もそうですし、もちろん僕もそういうシーンへの憧れみたいなものはあります。バンドとカルチャーが共鳴しあったとき、その表現により説得力が生まれるというか。そういう意味でも、音楽とファッションは密接な関係にあると思いますね。
奥富 僕は、個人的には90年代オルタナティブ(以下、オルタナ)のファッションがすごく好きですね。言葉では表し辛い、違和感を自然に肯定するみたいなことが、平気で出来るというか。その違和感を堂々と楽しむところがカッコいいなと。
──さて、このたび奥富さんがFRIENDSHIP.のキュレーターになった経緯を教えてください。
奥富 先ほどから話しているサブスクの動きが大きいですよね。僕は2017年くらいから利用するようになったんですけど、そのきっかけは野本晶さん(元Spotify Japan)との対談でした。それまでフィジカル優先だった自分の意識がその対談から変わってきて、昨年は自分でも積極的にプレイリストを作るようになっていました。
そんな中で、代表のタイラダイスケさんからFRIENDSHIP.の話を聞いて、自分の中のサブスクに対する意識の変化と、アーティストにとってポジティヴな貢献ができそうだなという部分が重なって。しかも、そんなにガチガチじゃないというか(笑)、割と自分の趣味全開で関われそうだし、他のキュレーターの方たちも同じような意識でやってそうだったので、このペースならやっていけるなと思って引き受けました。
──橋本さんは、今回ヘルシンキの音源をFRIENDSHIP.から配信しようと思った一番の理由はなんですか?
橋本 お話を聞いたときに、何か新しいことを日本でやろうとしているなというのを強く感じたからですね。実績がどうこうというよりも、時代の先を行こうというか。チャレンジ精神みたいなところに惹かれて今回ご一緒することにしました。
──実際ヘルシンキのファンも、リスニングスタイルが変化してきているなと感じますか?
橋本 例えばTwitterなどで検索してみると、最近はサブスクとかで聴いて好きになってくれた人は増えてきている気はしますね。ライブハウスなどに通い詰めて見つけてもらうというよりは、もう少し気軽にアクセスしてもらう機会が増えたというか。ただ、その一方でやっぱりコアなファン層というか、「ちゃんと手に取れるものが欲しい」と思ってくれる人もいるので、そういう人たちに届けられるものも作っていきたいという気持ちはありますね。
なので、より多くの人たちに知ってもらうきっかけ、好きになってもらうきっかけとして配信やプレイリストにも力を入れていきたいですし、それと並行してヘルシンキの世界観をより深く知ってもらうためにフィジカルやアートワーク、Tシャツなど音楽以外のカルチャーを絡めた作品を今後も出していきたいと思っています。
──ところで、日本に限らず音楽やカルチャーを発信している人で、ここ最近何か気になる発信の仕方をしている人はいましたか?
奥富 最近は、東京以外の街にすごく感心があるんですよ。僕は人生の半分くらい渋谷や下北沢周辺で遊んでいたんですけど、もう少しローカルなところで活動している人たちに意識が向かっています。というのも、東京に住んでいて東京以外への街に興味がない人が多い印象で。きっかけがない、というのが一番大きいと思うんですけど、他の街の素敵な部分に触れられる要素を何処かで作りたいと思っていて。
例えば、群馬県を拠点に活動しているBRIZA(Fuji Taito、KENSEI、Lil kaviar、Raffy Ray、 GoAntennaによるコレクティブ)のFuji Taitoさんのライヴを先日初めて観て。
すごくパワーをもらってインタビュー等も読んでみたんですけど、地元への愛が深く東京の友達やアーティストにも呼びこんで街の良さを伝えていて。そういう、レペゼンじゃないですけど地元に対するマインドが素敵だなと思いました。
──確かに、ここ最近はわざわざ上京せずに地元を拠点として活動しているグループは増えてきている気がしますね。それもネットやSNSの力がかなり大きいと思いますが。
奥富 ちょっと前までは東京にきて音楽をやんないとみてもらえないとか、いろんなそういう蟠りってあったと思うんですけど、BRIZAをはじめそれぞれのクルーがいろんな街で誕生しているという話を結構耳にしていて。みんな地元とも積極的にコミットしつつ、呼ばれればいつでも東京まで出てくるフットワークの軽さもあって。そういう、自分たちの街を閉鎖的な空間にしない希望を持った人たちの感覚を、ちゃんと東京の人たちは受け取り繋いでいった方がいいって思うんですよね。なので、まずは僕自身がそれぞれの街のアーティストたちともっと関わりを持っていきたいと思います。
橋本 やっぱり、一昔前と比べてバンドの活動方法も多様化してきたというか。普通に仕事しながらやっている人もたくさんいるし、「とにかく売れたい」ということを目的とせず、やりたいことをピュアに追求している人が増えた気がします。今の奥富さんの話でいうと、NOT WONKとか今も北海道在住ですよね。僕らヘルシンキも今後、地方のいいバンドだったり、いいカルチャーと関わり合いながら、お互いの文化を交換し合ったり、ときにはミックスしたりしていきたいです。
──奥富さんは、今後FRIENDSHIP.のキュレーターとしてどんなアーティストを紹介していきたいと思っていますか?
奥富 ジャンル的にはアンビエントでもハードコアでも何でもいいんですけど、最終的にどこかポップなところがあるアーティストが個人的には好きで。音楽として破綻する一歩手前のギリギリのバランスで成り立っているというか。そこ崩れちゃったら単に不気味で気持ち悪いだけみたいな、その塩梅が絶妙なアーティストは、時代を象徴する存在でもあるなと。
──なるほど。では、お二人は今後FRIENDSHIP.で何かやってみたいとかありますか?
橋本 まだ立ち上がったばかりなので、他のアーティストと相談しながら面白いことがやれたらいいなと思います。さっきも言ったように、FRIENDSHIP.に限らず僕がストリーミングやサブスクで求めているのは、より広く届けたいという思いがあって。特に海外に向けての発信の仕方については、もっと強化していきたいと思っています。それも含めて、FRIENDSHIP.とは今後も密にコミュニケーションを取っていけたらいいですね。
奥富 僕もさっきの繰り返しになりますが、やっぱりイベントや企画でアーティストやお客さんや街、それぞれと交わえる場をもっていきたいですね。昨年末のFRIENDSHIP.のイベントや、その前のskillkillsやLITEが出たイベントもそうですけど、音のある場に接続する事はこれからもずっと必要になってくるなと思います。そうすれば、FRIENDSHIP.のやれることももっと立体的になっていくのかなと。他のキュレーターさんやバンドの皆さんと話し合い、アイデアを出し合いながら、楽しい方向に進んでいきたいです。
Text by Takanori Kuroda
Photo by Kana Tarumi
FRIENDSHIP. archive
Vol.1 タイラダイスケ(FREE THROW)× Yuto Uchino(The fin.)対談 「FRIENDSHIP.」が目指す新しいアーティストサポートの形とは?
FRIENDSHIP.とはカルチャーの前線で活躍するキュレーター達が厳選した音楽をデジタル配信する新しいサービス。
世界中から新しい才能を集め、それを世界に届けることが私達のできることです。
リスナーは自分の知らない音楽、心をうたれるアーティストに出会うことができ、アーティストは感度の高いリスナーにいち早く自分の音楽を届けることができます。
Helsinki Lambda Club
2013年夏、西千葉でバンド結成。「PAVEMENTだとB面の曲が好き」と豪語するボーカル橋本を中心とした日本のロックバンド。無理やりカテゴライズするならば、ニューオルタナティブといったジャンルに分類される。
奥冨直人
平成元年・埼玉県生まれ。渋谷にあるFASHION&MUSICをコンセプトにしたショップ『BOY』のオーナー。DJ活動も地域・ジャンル問わず精力的に行う。インディーシーンに詳しいことで知られ、TOMMYの愛称で親しまれている。
RELEASE INFORMATION
Good News Is Bad News
Helsinki Lambda Club
配信&CD-R付きTシャツシングル
2020.2.15 T-shirt+CD-R
※ライブ会場限定発売
1. Good News Is Bad News
2. Debora
3. KIDS
EVENT INFORMATION
「Good News Is Bad News」release tour “Good News For You”
一般発売: 福岡・仙台・札幌・金沢・新潟公演 12/21(土)
名古屋・大阪・東京公演 1/25(土)
料金:前売り 3,300円(税込・ドリンク代別途)
2020年 2/15(土)福岡graf
開場 17:30 / 開演 18:00
※ワンマン
2/23(日)仙台enn2nd
開場 17:30 / 開演 18:00
ゲスト:ナードマグネット
2/29 (土)札幌COLONY
開場 17:30 / 開演 18:00
ゲスト:No Buses
3/7(土)金沢GOLD CREEK
開場 17:30 / 開演 18:00
ゲスト:No Buses
3/8(日)新潟CLUB RIVERST
開場 17:30 / 開演 18:00
ゲスト:No Buses
3/14(土)名古屋APOLLO BASE
開場 17:30 / 開演
18:00
※ワンマン
3/15(日)梅田Shangri-La
開場 17:30 / 開演
18:00
※ワンマン
3/20(金祝)渋谷CLUB QUATTRO
開場 17:00 / 開演 18:00
※ワンマン
LIQUIDROOM&BOY presents<Song For Future Generation>
2020.01.29(水)
OPEN/START 18:00/19:00
恵比寿LIQUIDROOM
ADV ¥1,500|DOOR ¥2,000
LINE UP:
dodo
長谷川白紙
君島大空 (独奏)
東郷清丸
Yank!
Wez Atlas