澤部渡(スカート)やVaVa、冨田恵一やOvallをはじめ、あらゆるジャンルで活動するミュージシャンをアレンジャーに迎え完成させた藤原さくらの3rdアルバム『SUPERMARKET』。2020年10月に発売された冒険作から約2年7ヶ月という長い時を経て、4thアルバム『AIRPORT』が、2023年5月にリリースされた。

斉藤和義やVaVa、永野亮(APOGEE)、Yaffleをはじめ、さまざまなアーティストが参加した本作。「誰かと待ち合わせて、そこから出発していく」ように曲が生み出されたことから、『AIRPORT』というタイトルに至ったという。

『AIRPORT』について「3rdアルバムリリース後の2年間が凝縮されたアルバム」と振り返る藤原。『SUPERMARKET』の発表以降、彼女自身の内面にはどういった変化が起きたのだろうか。『AIRPORT』が生まれるまでの制作裏について、話を伺った。

INTERVIEW:藤原さくら『AIRPORT』

「よくやってんなあ」と伝えに行きたい。ほんと、みんなもよく頑張ってるから──藤原さくら『AIRPORT』インタビュー interview230620_fujiwarasakura-014

頭の使い方が変わった2年間だった

──今回も前作同様、錚々たるアーティストが作曲・編曲者として参加していますよね。制作はいかがでしたか?

まずはどの方も、単に「裏方として参加する」というスタンスではなかったのが、本当にありがたかったです。アレンジャーや作曲家としてサポートいただくとはいえ、いちアーティストとコラボする感覚が強かったですね。

レコーディング中も「ここはこうしてみたら?」とどんどんアイディアを提案いただけるんです。各々の普段のバンドやソロ活動から垣間見える個性を持って、ぶつかっていただけている気がしました。

「どっちのメロディがかっこいいと思いますか?」と、会話のキャッチボールを繰り返しながら作った感覚はあります。たとえば、和義さん(斉藤和義)や永野亮さんのアドバイスから、曲の構成をガラッと変えたこともありました。

──具体的にはどういったやりとりをしたのでしょうか。

“話そうよ”は和義さんのスタジオで構成やコード進行を考えたのですが、デモを聴いていただいたときに「Aメロ/Bメロ/サビのうち、Bメロがサビっぽい」というフィードバックをいただいたんですよね。「ああ、そういう考え方もあったのか!」と目から鱗が落ちました(笑)。

藤原さくら – 話そうよ (Music Video)

──斉藤さんと組んでいなかったら、全く違う曲がリリースされていたかもしれないですね。その一方、永野さんは2017年に“Someday”、“春の歌”のプロデュースを手がけるなど、以前から交流がありましたよね。“Kirakira”はどのように生まれたのでしょうか。

“君は天然色”のCMアレンジを担当した永野さんに、フル尺のアレンジを改めてお願いしたのと同時期に、“Kirakira”の制作が始まりました。永野さんとはデータのやりとりでしたが、作曲の段階からメロディーのアイディアを頂いたり、永野さん無しでは生まれなかった曲です。

永野さんのソロ活動も、バンド・APOGEEでの活動も、どっちも大好きです。多幸感が溢れる音作りをされるじゃないですか。永野さんの作るサウンドは、まさに“Kirakira”というタイトル通りのイメージ。

──アルバムの中で、作曲が難航したトラックはありますか?

難航とまではいかなかったのですが、時間がかかったのはVaVaさんとご一緒した“いつか見た映画みたいに”です。VaVaさんとはお互いにメロディを出し合いながら制作を進めていたのですが、作っては寝かせ、作っては寝かせを繰り返して生まれた曲でした。

VaVaさんが作るトラックが本当に素敵だったので「もっと自分からも良いものを出せる気がする!」という気になっちゃうんですよね。

「よくやってんなあ」と伝えに行きたい。ほんと、みんなもよく頑張ってるから──藤原さくら『AIRPORT』インタビュー interview230620_fujiwarasakura-03

──永野さんやVaVaさんのように、過去にもタッグを組んだことがある人との楽曲もある一方、『AIRPORT』で初めてコラボが実現する人もいらっしゃいます。Yaffleさんなどはプライベートでも面識があったのでしょうか。

“わたしのLife”の制作で初めてご挨拶しました。Yaffleさんには私からお声がけをしたのですが、最初は「どういう音楽が好き?」「最近何を聴いた?」という雑談からスタートして、ずっと一緒にYouTubeを観たりしていました。

そこから徐々にどんな曲を作りたいか……という話にシフトし、その場でYaffleさんにトラックを作ってもらいながら、私が声を乗せていって。今まで挑戦したことのない作曲方法だったからこそ「変なメロを歌えないなあ」と緊張しました(笑)。すごく新鮮で楽しかったです。

藤原さくら – わたしのLife(Music Video)

一方、ミチさん(中西道彦)は普段からサポートメンバーとしてライブに参加いただいているのでお付き合い自体は長いものの、アレンジャーとして入ってもらうのは初めてでした。「ミチさんにお願いしたら楽しくなるんじゃないか」という期待がありました。

というのも、ライブのリハでミチさんが「こうやった方が良いんじゃない?」とご提案いただくことが、実際に本番で映えるんですよ。今までの経験から、今回満を持してお願いした経緯があります。

“Wonderful time”も“迷宮飛行”も制作に追われるあまり、山梨にある会社まで合宿しに行ったんですよ(笑)。夜中に曲を作っては「ミチさん完成しました!」とデータを送り、すぐにフィードバックをもらい……と、とんでもないスピード感で生まれました。2曲とも初期衝動に近いほどの勢いで生まれています。

他にも私の英詞を普段から担当いただいているマイキーさん(Michael Kaneko)や、一緒にライブをしているセッキーさん(関口シンゴ)、デビュー時期からご一緒しているカーリーさん(高桑圭)にも参加いただきました。馴染みのある人から、Yaffleさんのように初めての人までが揃い、バリエーション豊かな音になったと思います。

──レコーディングを通し、藤原さん自身には何か変化がありましたか?

徐々に「曲作りへの考え方」が柔軟になっていく気がしました。ただ、その背景にはアルバム制作以前から、Reiちゃんmaco marets君マイキーさんなどと楽曲をコラボした経験があったからなのかな、と。「誰かと共作する」ことの面白さは、改めてこの2年間で実感しました。『SUPERMARKET』以降、より一層頭の使い方が変わっていった期間になったと思います。

「よくやってんなあ」と伝えに行きたい。ほんと、みんなもよく頑張ってるから──藤原さくら『AIRPORT』インタビュー interview230620_fujiwarasakura-07
「よくやってんなあ」と伝えに行きたい。ほんと、みんなもよく頑張ってるから──藤原さくら『AIRPORT』インタビュー interview230620_fujiwarasakura-08
「よくやってんなあ」と伝えに行きたい。ほんと、みんなもよく頑張ってるから──藤原さくら『AIRPORT』インタビュー interview230620_fujiwarasakura-020
「よくやってんなあ」と伝えに行きたい。ほんと、みんなもよく頑張ってるから──藤原さくら『AIRPORT』インタビュー interview230620_fujiwarasakura-021

まばたきするのも惜しくなるほど、人といる時間を大切にしよう

──さまざまなテイストの楽曲を作る過程で、藤原さんご自身の作詞の柔軟性も高まったのでは……と感じました。新たに挑戦したことはありますか。

“わたしのLife”は楽曲のテイストから、リリックで韻を踏むことにチャレンジしたくなったんです。考えすぎて、途中から「ダジャレすぎないかな……」と不安にもなったほどでした(笑)。でもトラックはかっこよかったし、私の歌い方もそこまではっちゃけてない。歌詞で攻め込んでも中和できる気がしたので、「振り切って良いのかも」とギリギリのラインまで踏み込みました。

あと先ほども言った通り、ミチさんとの“迷宮飛行”はかなりスピーディに生まれたんですよ。ミチさんのレスポンスがとにかく早くて(笑)。めまぐるしいスピードでラリーを打ち返すなか、今までは恥ずかしくて表現できなかったことも、気づいたら言葉にできるようになりました。そして言葉を紡いでいくなかで「あ、これは喧嘩の曲だったのか」と気づいたり。後々になって全景が見えてくることはよくあって、今回は不思議と「愛」のことを歌った曲が多いんですよね。

──テーマが偏った背景に、心当たりはあるのでしょうか。

「積極的にこういう事を歌おう」というわけではなかったのですが、『SUPERMARKET』の時期からそういうモードにはなっていました。明確なきっかけがあるとすれば、コロナ禍だと思います。コロナ禍って、自分の一存ではどうにもならないことの連続だったじゃないですか。抗えない大いなるものを目の前にして、やるせなくなる瞬間は多々ありました。

それから、おばあちゃんが入院していた時期もあったんです。私、幼い頃からおばあちゃんっ子なんですよね。“まばたき”の歌詞でも表現していますが《まばたきするのも惜しくなるほど、人と一緒にいる時間を大切にしよう》と思えるようになりました。人と人との間に距離があったからこそ、遠く離れている家族に対する気持ちも増していったんですよね。

藤原さくら – まばたき(Music Video)

──“My Love”もまさにタイトル通り「愛」というテーマが如実に表現されていますよね。

存在としてはずっと前からあった曲ですが、アルバムリリースにあたって歌詞も書き直しました。冒頭で《こんな遠い場所から/君がいつもよりよく見えたよ》という歌詞があって。“mother”でも少し重なる歌詞を書いていますが、遠い距離でも繋がっているように感じることこそが愛なんだ、と。そう思える2年間だったと思います。

実際、去年2022年5月から今年にかけて開催した全52本の弾き語りツアーも、「こんなに遠くに住んでいた人が、私の曲を聴いてくれていたんだ」って感動しました。“My Love”といえばポール・マッカートニー。だけど、自分にとっての“My Love”はこう、と提示するような曲になりました。

「よくやってんなあ」と伝えに行きたい。ほんと、みんなもよく頑張ってるから──藤原さくら『AIRPORT』インタビュー interview230620_fujiwarasakura-011
「よくやってんなあ」と伝えに行きたい。ほんと、みんなもよく頑張ってるから──藤原さくら『AIRPORT』インタビュー interview230620_fujiwarasakura-019
「よくやってんなあ」と伝えに行きたい。ほんと、みんなもよく頑張ってるから──藤原さくら『AIRPORT』インタビュー interview230620_fujiwarasakura-018
「よくやってんなあ」と伝えに行きたい。ほんと、みんなもよく頑張ってるから──藤原さくら『AIRPORT』インタビュー interview230620_fujiwarasakura-012

デビュー当時から現在までの軌跡が詰まったアルバム

──アルバムの構想自体はいつ頃からあったんですか?

ずいぶん前からです。本当は昨年2022年11月に“まばたき”をリリースしたときに(アルバムを)出したかったんです。でもどうしても間に合わなくて。急いで出すよりかはじっくりと練って出した方が良いと思い「来年の春頃には出すぞ」と心に決め、今に至ります。

──じゃあシングルカット以外の収録曲は直近でガンガン書き下ろした、というよりも……。

この2年間でじっくり寝かせた曲たちが多かったりします。たとえば“放っとこうぜ”も22年3月にリリースした“わたしのLife”と同時期に制作していたりするんです。それでも最後はバタバタしちゃって、常に4〜5曲の収録が同時並行で進んでいるような状態でした(笑)。

結果的に、昨年急いで出さなくて正解だった。実はリリース日である5月17日って、私の「1万日誕生日」なんですよ。

──その日を狙っていたんですか?

いや、本当に偶然なんです! ある時ラジオのリスナーから「そろそろ1万日誕生日ですね」ってコメントをいただいて。もう、びっくりしましたね。「導かれていたんだなあ」と。

──そんなミラクルが起きるとは。「5月に出す」ということを決めた時点で、アルバムタイトルも固まっていたんですか?

『SUPERMARKET』と同様、タイトルを決めたのは楽曲がほぼ出揃ったタイミングでした。今回はアルバムの全貌が俯瞰できるようになったとき、無意識的にも「愛」であると同時に「出会いあれば別れあり」な曲でまとまったように感じたんです。しかもそれを切なく感じるのではなく、前向きに捉えている曲が多いな、と。

「みんなが知っていて、かつ出会いと別れを想起させるような言葉を……」と考えるなか、デビューからジャケットデザインを担当してくださっている藤田二郎さんが「エアポート……」と呟いたんです。「それだー!!」って。

──藤原さん自身のこれからの行方についても興味が湧く作品になりました。最後に、『AIRPORT』はご自身にとって、どういった作品になりましたか?

「いろんな音楽を通ってきた」という、デビュー当時から現在に至るまでの軌跡が詰まったアルバムになったと思いました。実は昔の楽曲をライブで歌うと「この曲、今の自分じゃ書けなかっただろうな」と感じることは多々あるんです。歌詞もむき出しの感情をぶつけているし。当時は「こういう曲を歌ってみたい」というモチベーションで作っていたからだと思います。

もちろん『AIRPORT』に入っている曲も、今しか書けない歌詞ばかりではありますが、そのうえで、私自身の芯のようなところに到達した気がする。いつまでも違和感なく歌っていけるような曲が揃ったように感じました。

そして私にとっての2年間は、まさに“わたしのLife”の歌詞にもあるとおり「ほんと よくやってんなあ」と感じられるほど、たくさんのことに挑戦したんですよ。わたしも自分のこと、もっと褒めていきたいなって思えるようになりました。

『AIRPORT』を持って、これからいろんな人に「よくやってんなあ」と伝えに行きたいですね。ほんと、みんなもよく頑張ってるから。

「よくやってんなあ」と伝えに行きたい。ほんと、みんなもよく頑張ってるから──藤原さくら『AIRPORT』インタビュー interview230620_fujiwarasakura-017
「よくやってんなあ」と伝えに行きたい。ほんと、みんなもよく頑張ってるから──藤原さくら『AIRPORT』インタビュー interview230620_fujiwarasakura-016

Text:Nozomi Takagi
Photo:寺内 暁

PROFILE

「よくやってんなあ」と伝えに行きたい。ほんと、みんなもよく頑張ってるから──藤原さくら『AIRPORT』インタビュー interview230620_fujiwarasakura-015

藤原さくら

福岡県出身。1995年生まれ。
父の影響ではじめてギターを手にしたのが10歳。洋邦問わず多様な音楽に自然と親しむ幼少期を過ごす。
高校進学後、オリジナル曲の制作をはじめ、少しずつ音楽活動を開始。地元・福岡のカフェ・レストランを中心としたライブ活動で、徐々に注目を集める。シンガーソングライターとしてのみならず、役者としても活動。
天性のスモーキーな歌声は数ある女性シンガーの中でも類を見ず、聴く人の耳を引き寄せる。

オフィシャルサイトTwitterInstagramTikTokYouTube Official Artist Channel

INFORMATION

「よくやってんなあ」と伝えに行きたい。ほんと、みんなもよく頑張ってるから──藤原さくら『AIRPORT』インタビュー interview230620_fujiwarasakura-02
通常盤
「よくやってんなあ」と伝えに行きたい。ほんと、みんなもよく頑張ってるから──藤原さくら『AIRPORT』インタビュー interview230620_fujiwarasakura-01
初回限定盤

AIRPORT

2023.05.17
藤原さくら
 
初回限定盤 (CD+BD)
¥5,100(tax incl.)
 
通常盤 (CD)
¥3,600(tax incl.)
 
アナログ盤(LP)
2023年8月9日(水)
¥4,600(tax incl.)
 
CD収録曲:
01. わたしのLife (詞:藤原さくら 曲:藤原さくら/Yaffle 編曲:Yaffle)
02. いつか見た映画みたいに (詞:藤原さくら 曲:藤原さくら/VaVa 編曲:VaVa)
03. Kirakira (詞:藤原さくら 曲:藤原さくら/ 永野亮 編曲:永野亮)
04. 迷宮飛行 (詞:藤原さくら 曲:藤原さくら/ 中西道彦 編曲:中西道彦)
05. Feel the funk (詞:Michael Kaneko 曲:藤原さくら/VaVa 編曲:VaVa)
06. 放っとこうぜ (詞曲編曲:藤原さくら)
07. 君は天然色
08. Wonderful time (詞:藤原さくら 曲:藤原さくら/ 中西道彦 編曲:中西道彦)
09. My Love (詞曲編曲:藤原さくら)
10. 話そうよ (詞:藤原さくら 曲:藤原さくら/ 斉藤和義 編曲:斉藤和義)
11. まばたき (詞:藤原さくら 曲:藤原さくら/ 高桑圭 編曲:高桑圭)
12. mother (詞:藤原さくら 曲:藤原さくら/ 関口シンゴ 編曲:関口シンゴ)
 
初回限定盤付属Blu-ray収録内容:
〇藤原さくら『野外音楽会 2021』 at 日比谷公園大音楽堂公演 2021.9.20
01. Waver
02. Just the way we are
03. Give me a break
04. 「かわいい」
 
〇藤原さくら『弾き語りツアー 2022-2023 “heartbeat”』 at 千葉・マザー牧場公演 2022.10.22
05. Super good
06. Walking on the clouds
07. うたっても
08. 生活
09. まばたき

アルバム『AIRPORT』特設サイトDownload / StreamCDアナログ盤(LP)