不定期にいま気になるレコードショップへお邪魔し、店主へ直接はなしを聞きにいく新企画「Get To Know」がスタート。第三回目は東京のTechnique(テクニーク)へ。
90年代、渋谷・宇田川町は、数百軒のレコードショップがひしめき合う“レコ屋のメッカ”だった。その黄金時代から店を構え、テクノ、ハウス、ディスコといったダンスミュージックに特化した専門店として、世界有数のレコードショップと肩を並べるのが“Technique”だ。スターアーティストたちが来日時に必ず立ち寄る名店としても知られる。そんな“Technique”で、DJであり、ディストリビューターも担う現代表の佐藤吉晴さんにインタビューを行った。
新たなレコードムーブメントとなった今だからこそ知るべきレコードショップの真髄がここにはある。
Interview:佐藤 吉春(Technique)
──Techniqueはいつオープンしたんですか?
創業は96年ですね。最初は通販という形からスタートして、翌年の97年に最初の店舗が宇田川町に出来ました。現在の場所に移転したのは2000年だったと思います。
──96年と言えば、まだオンラインがない時代ですよね??
そうですね。だから、電話とかFAXでオーダーを受けていました。当時の宇田川は“世界のレコードが集まる場所”と言われるほど、レコードショップが集結していた、言わばメッカだったんです。当店の創設者の2名はCisco Record(※)の出身なんですが、他にもManhattan Recordsとか、宇田川町近辺だけでレコードショップが何百軒とありました。後に、HMVやタワーレコードも出来て、渋谷に来ればレコードもCDも手に入る黄金時代ですよね。
(※)レコード小売りの最大手であり、国内でアナログレコードショップや販売網を展開していた渋谷・宇田川町のレコードショップ。2007年に閉店。
──懐かしい時代ですね。当時の宇田川町は特別な雰囲気があったのを今でも覚えています。佐藤さんは現代表ですが、Techniqueで働くことになったきっかけはなんだったんですか?
僕はもともとお客さんとしてよく来ていたんですが、求人募集が出ていたのをきっかけに、働いてみたいと思い応募しました。ちょうどその時、大学4年だったんですが、就職活動も少ししましたが、そのままずっとここで働いてます。2001年からスタッフとして働き出して、6年前ぐらいに創設者から全て引き継いだ形ですね。
──お店と共にかなり長い歴史がありますね。Techniqueと言えばDJ御用達のレコードショップといったイメージが強いですが、お店の特色や強みを教えてください。
ジャンルはご存知の通り、テクノ、ハウス、ディスコと言ったダンスミュージックが中心です。取り扱いはほぼ100%レコードで、新譜も中古も取り扱ってます。当店では、まずはニーズに応えることに重点に置いていて、お客さんが求めている音に応えれるように心掛けています。あとは、新しい音を提案することも重要だと考えていて、ヨーロッパを始めとする他国の最新情報がリアルタイムで入ってくる環境にあるので、そう言った情報をもとにこれはという音や次に話題になりそうな音があればいち早く提供するように心掛けてます。お客さんの多くがDJなので、例えば、今ベルリンではこういった音やアーティストが人気とか、世界の最先端なシーンにある音を伝えていくことも大切だと思っています。
強みと言えば、日本の他の店や入荷してなかったり、世界的にもあまり取り扱いの少ないレコードだけど、当店には入っている希少価値の高いレコードがあるとか、あとは、スタッフがみんなかなり知識があるので、そう言った意味でもお客さんの要望にすぐに応えることができます。
──やはりスタッフはかなりの知識がないと働けないですよね? ベルリンのレコードショップも著名DJがスタッフということも多いし、レコードショップで働くのは競争率も激しいし、敷居が高いと言われてます。
当店も全員DJですね。お客さんもDJがほとんどですが、特に、プロとして活躍しているDJの方が多いです。
──海外のDJが多く来店しているイメージがありますが。
そうですね。来日時に立ち寄ってくれるアーティストは本当に多いですね。世界で股にかけて活躍しているいわゆるトップDJから、レジェンドと言われているベテランDJやアーティストたちがよく来てくれます。国内だと、海外でも活躍しているGonno、瀧見(憲司)、Kabuto、DJ Yogurtさんなどは毎週チェックしに来てくれていまし、若い世代だとLicaxxx,、あと、サカナクションのメンバーの方々とか、D.A.NのメンバーなどDJとしても活躍しているミュージシャンも来てくれます。それに、DJを目指している人や地方の人も多いですよ。最近は、海外からのお客さんがすごく増えていて、半々ぐらいになっているんじゃないでしょうか。特に、最近はアジア諸国が多いですね。
──人種もジャンルも幅広いですね!どうやってここを知って来るんですか?
当店InstagramやFacebookといったSNSを頻繁に活用していて、ほぼ毎日情報発信しています。そのおかげか、フォロワーが2万人ぐらいいるんですが、その6、7割が海外在住の人なんですよね。インスタでは入荷情報を音付きで発信しているので、そこから試聴可能だし、リンクから購入も出来るようになっているんです。
──なるほど。やはりSNSでの発信はレコードショップにおいても大事な時代ということでしょうか?
レコードショップとして意識しているのは、日本だけではなく、イギリスのJuno Recordsとか海外のショップなんですよね。世界有数のレコードショップと同じかそれ以上の豊富さと質の高い品揃えをすることを常に意識しています。そう言った背景には、日本のDJのレベルが少しでも上がる手助けになりたい思いもあります。正直、海外のレコードショップの基準を意識して品揃えしたり、SNSを駆使して情報を発信しているショップは日本には少ないと思ってます。
Juno Records:https://jp.juno.co.uk/
──私もいくつかヨーロッパのレコードショップをフォローしてますが、毎日すごい情報量ですよね? それが普通なんだと思ってましたが、日本ではそうではないんですね。レコードショップとして、カルチャーやアーティストのスピリットを伝えるために、心がけていることはありますか?
強いて言うとしたら、店のスタイルとして、アーティストに近くなり過ぎないってことですかね。レコードショップとアーティストが密接になってしまうと、どうしてもご贔屓アーティストになってしまうと思うんです。だから、仕入れや音楽の良し悪しにあまり私情を入れないようにフラットに接するように心掛けています。どんなアーティストでも良いものはいいし、ダメなものはダメじゃないですか?それをフラットな視点から見るようにしていますね。
だから、著名アーティストが来ても基本ほっとくスタイルですね。気づかないってこともあるんですが、一般のお客さんと変わらない接客を心掛けてます。会計が終わった最後に記念撮影をして、SNSに投稿させてもらうぐらいはしていますが。だから、逆にスター扱いされずに、誰にも邪魔されずに自由に試聴したり、買い物が出来るということに居心地の良さを感じてもらってるのかもしれません。
──海外アーティストは有名になればなるほど、スター扱いされてしまう傾向がありますからね、特に日本はそういった傾向があると思ってます。スター扱いされるのが心地良いと感じるアーティストもいるとは思いますが。DJではない私からの意見ですが、レコードショップってちょっと入りにくいイメージがあるんですよね。特に、Techniqueはちょっと敷居が高いなと(笑)。
敷居を上げてるつもりはないんですが(笑)。客観的に見るとそう見えますよねー。でも、レコードショップは入りにくいというイメージは昔からあるとはおもうのですが、気にせず誰でも気軽に来て欲しいと思ってます。
──そんなレコードショップへ遊びにくる楽しみとはどんなところでしょうか?
未知との遭遇ですかね。例えば、こうゆう音を探してますって言ってくれたら、スタッフが瞬時に出すことができるので、好みの音を手に入れることができるし、それだけでなく、オススメの楽曲やアーティストも知ることができます。新譜だけでなく、中古でも何でも試聴可能なので、何時間いてもらっても良いし、試聴機も制限がないので自由に使ってもらえます。ビールもあるから飲みながら聴いてもらっても良いですし。
──クラブみたいになっちゃいますね(笑)。
そうですね(笑)。でも、海外の人は基本観光がてら来てるから、ビールを飲みながら試聴する人が多いですよ。あと、著名アーティストと仲良くなれるチャンスがあるかもしれません。クラブだと近づけなくてもレコードショップで隣で試聴していたら話しかけやすいですよね。
──どんなにスターDJであっても基本的に皆さん、フレンドリーですよね。レコードショップとしては、音楽とどんな風に向き合ってますか?
先ほども伝えた通り、まず、ニーズと提案というのが軸にあります。その提案が次のブームになったりするから、常におもしろいものを提供していくということはものすごく意識していますね。それが、仮に1枚しか売れなかったとしても取り扱い続けたり。あとは、日本のアーティストをサポートできるショップになれたらいいなと思ってますね。有名無名問わずきちんと頑張って活動してる人をサポートしていきたいと思ってます。
──常に世界にアンテナを張って、それを提供していくことが大事なんですね。不定期でインストアイベントもやられてますが、ああいったことも発信の一つですよね?
そうですね。あとは、あれも一種のアーティストサポートになると思っていて、コミュニティーサロン的な意味でも開催しています。タイミングが合えば、来日したアーティストにもやってもらってますし、最近はやりたいと言ってくれるアーティストもいます。ストリーミングで配信することで、地方の人や世界中の人に届くので、アーティストを知ってもらうきっかけになったり、Technique自体を知ってもらえるきっかけになりますよね。そういった発信も大切だと思っています。
──佐藤さんが音楽に夢中になる時ってどんな瞬間ですか?
僕はクラブですかね。音楽は常に聴いているんですが、夢中になると言えばクラブかな。フロアでもそうだし、自分でプレイしている時もあります。生業である仕事を離れた素の状態で音楽を聴くほうが夢中になれる気がします。あとは、ダンスミュージック以外の全然違うジャンルを家で聴く時とかもありますね。
──デジタルにはないアナログの魅力はたくさんあると思いますが、改めて、どんなところが魅力だと思いますか?
音質が良いとかアナログ特有の音とかは魅力の一つではあるのですが、なによりもレコードって単純にかっこいいと個人的には思うんですよ。DJがプレイする時のルックス的にもそうだし、レコードでプレイするにはある程度技術も必要なので、レコードをメインに使うDJは基本うまいんですよね。基礎がなってるんです。
あと、これはレコードショップとしての醍醐味ですが、音楽を発掘できる魅力がありますよね。デジタルだと検索しないと出てこないじゃないですか? でも、レコードショップだと入荷してきた中からジャケが気になったから聴いてみて、“こんな音楽があるんだ!”って発見することが出来たり、何気なく聴いてみたレコードがすごい良かったり。知らなかった音との出会いがそこに生まれるんです。“レコードを掘る”ってそうゆうことだと思うんですよね。
──確かにネット検索では味わえないリアルな体験ですよね。ちなみに、今おすすめのレコードと言えばどれになりますか?
スペインのアーティストDo or Dieのニューシングル『Nazca Line』です。Binhが主宰するレーベル〈Time Passages〉からのリリースになりますが、90年代エレクトロニック・ボディ・ミュージックのエッセンスを感じさせる彼ならではの重厚なサウンドになっていて、パワフルでドープなシンセ・サウンドとグルーヴィでエッジの効いたリズムで構成された最高のテクノ・トラックスです。
──―今の日本の音楽への空気感で感じていることはありますか? またその上で問題意識など、考えていることはありますか?
日本は良いクラブも良いDJも多くて、クラブミュージックの先進国で成熟してると思うんです。ただ、DJはいっぱいいるけど、楽曲を作るアーティストがヨーロッパとか海外に比べると圧倒的に少ないんですよね。6年前から「エナジー・フラッシュ・ディストリビューション(以下、EFD)」というディストリビューションの事業を始めたんですが、日本でレコードを作りたいとか、リリースしたいというアーティストがいたら、レコードのプレスサポートや海外への流通のサポートを行っています。ベルリンと東京でやっていて、少しずつ増えてはきたけど、それにしてもまだまだ少ないと思ってます。その反面ベルリンでは良いレーベルがどんどん増えていっているんですよね。それが、東京になるとまず、レーベルを立ち上げる人がいないし、行動を起こそうとする人さえいないのが現状なんです。日本で作っても、世界に流通しないと意味がないし、面倒な部分を全部担うために「EFD」があるんですけどね……。
EFD:https://soundcloud.com/efd-tokyo /
DJは言ってしまったらスキルをつければある程度は誰にでも出来るし、回せるクラブもいっぱいあるけど、作品をリリースするアーティストが本当にいないんです。もう少し増えたらもっと日本のシーンはおもしろくなるし、海外進出も夢ではなくなると思うんです。海外の売れているアーティストはだいたい自分のレーベルを持ってるし、リリースをしているじゃないですか。クラブやレコードショップもレーベルを持っているのが普通だけど、日本はそれがないですよね。
──確かにないですね。海外ではレーベルやディストリビューション機能がないとこの方が少ない印象ですが、日本はなぜなんでしょう? レーベルを運営することが大変だからでしょうか?
日本はレーベルの数が圧倒的に少ないですよね。海外とのやり取りは日本の常識とは違う部分も多いし、語学のハードルもあるから当然大変になってきます。そのあたりも一因ではあるともうのですが、その前に行動を起こそうとする人が少ないのが現状だと思います。
──うーん、月曜日から金曜日はきっちり会社勤めで、金、土の週末にDJをやってますという人が多いからでしょうか? それだと、忙しくて時間もないし、とてもレーベルを立ち上げようとは思わないですよね。
日本のそういった環境にも原因はありますよね。海外でも活躍している日本人アーティストはみんな海外でリリースしているし、レーベルも所属しているし、そういうアーティストが増えてくれることを願ってます。レコードショップに関しても、世界的に見て、やはりディストリビューター兼レコードショップというスタイルのところが主流になってきてますね。
──そうなんですね。佐藤さんが常にチェックしている海外のディストリビューター兼レコードショップはどこですか?
ロンドンのPhonica Records、パリのYoyaku、バルセロナのSubwax、オンラインのみですがJuno Records、ベルリンのdecks、オランダのCloneとかでしょうか。
Phonica Records:https://www.phonicarecords.com/
Yoyaku:https://www.yoyaku.io/
Subwax:http://subwaxbcn.com/
decks:https://www.decks.de/decks/
clone:https://clone.nl/
──やはり名店揃いですし、情報発信もきちんとしてますよね。PhonicaとYoyakuは同企画でも取材に行きたいと思っているショップです。最後になりますが、あなたにとっての音楽ってどんな存在ですか?
これよく聞かれるんですけど、答えがないですよね。良くも悪くも人生を狂わせてくれた尽きない趣味でしょうか。いつまでたっても探求し続けるゴールがない趣味かな。生業ですけど、趣味の一つが仕事になってるので、”出会ってしまったもの”ですかね。
──本日はありがとうございました!!
久々訪れたTechniqueはパキっとした空気が流れ、そこに立つスタッフはもちろんのこと、オープンと同時に入って来るお客さんの佇まいさえも良い緊張感が溢れていた。東京の渋谷でありながら、海外のどこかにあるレコードショップのような空気感のある場所。日本を長らく離れていると変化の早い東京について行けず、違和感を覚えることが多い。しかし、ここだけは90年代の宇田川町の面影を残しながら、世界の“今”を感じることができるのだ。エイフェックス・ツイン(Aphex Twin)のロゴが重なったことでも話題となったあのオレンジの看板の先にある“未知との遭遇”を是非とも体感して欲しい。
Text by Kana Miyazawa
Photo by You Ishii
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