——シリーズを出していく中で、様々な浮き沈みを経験したと思いますが、これまでの中で印象的な作品を選ぶなら?

まずは『1』ですね。この時は、最初に出した時は「ああ、やっちゃったかな。」とも思ったんですけど、1年経って3万枚ぐらい売れて。でも、『4』でちょっとしぼんだんですよ。それから『5』。ここでドーン! と盛り返したわけですけど、『5』はRobert de Boronの“Shine A Light”を1曲目にしていて、ジャケットもピンクにしたんですよ。最初は「ピンクはねえだろ」と思っていたんですけど、5作目になると色のバリエーションもなくなってきて、「ピンクでいくか」と。それがヴィレッジヴァンガードでヒットしたんです。

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『IN YA MELLOW TONE5』

Robert de Boron / Shine A Light (Let’s Love) feat. Awa & Junz

——そこからより広がっていったんですね。

まぁ、狙って営業をした部分もあったんです。でも、そこから本当に新しいリスナー層が増えていきました。〈GOON TRAX〉の作品には、ブラック・ソート(ザ・ルーツ)やタリブ・クウェリといった大御所も参加しているんです。でも、お店の人が「夜景と合う音楽」「ドライブに最適」と書いたことで、聴きやすいイメージが広がったというか。この辺りから今までなかった感想をもらうようになったし、それに加えて、ちょうどその頃イベントも始めて。

——『IN YA MELLOW TONE』のリスナーと直接触れ合えるようになった、と。

そうそう。そうすると、普段は全然ヒップホップを聴いていない人が沢山イベントに来てくれるんです。「クラブは初めて来ました」「会社帰りに来てよかったです」という人が、B-BOYと一緒に楽しんでいて。その中のひとりは中国のツアーにも来てくれたんですよ。「何でいるの!?」と聞いたら「来ちゃいました!」って(笑)。あれは本当に驚きました。

——〈GOON TRAX〉は海外での公演も増えていますよね。反応はどうですか?

すごくいいですよ。チベットのふもとの方の会場でも700人ぐらい入りましたし、韓国も1200人ぐらい来てくれました。みんなウチのレーベルの音楽を聴いてくれていて、イントロですごく盛り上がったりして、「もしかしたら日本の人たちより聴いてくれているんじゃないか?」と思ったぐらいです。それは本当に嬉しかったですね。一緒に行ったre:plusは広州でサプライズで誕生日ケーキを受け取って、お客さんが「おめでとう!!」と言っているのを見て、彼はステージ上で泣いていましたからね。「なんだよそれ!」って(笑)。でも、それぐらい、言葉が分からない人たちが、自分たちのどの曲でも分かってくれて、あれはすごい体験でした。色々分析すると、中国はこれまでハウスが流行っていて、STUDIO APARTMENTやDAISHI DANCEがずっと人気だったらしいんですよ。そのブームが落ち着いてきて、それと共に流行りのBPMも落ちてきているらしいんですね。それがちょうど今だと。

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〈GOON TRAX〉オールスターでの韓国公演

——なるほど。EDMブームが落ち着きはじめてトロピカル・ハウスが流行るのと同じ現象が……。

(笑)。ちょっと豊かになり始めたし、優雅に過ごそうということでBPMが落ちてきているのかもしれないですね。

——レーベルの代表として、中国でビジネスをすることはまったく違う体験になったんじゃないですか?

いや、中国は全然ビジネスにはならないですよ(笑)。だって『IN YA MELLOW TONE』の海賊版プラケースが出回っていますから。みんな本物が欲しいから、物販を開けるとすごく買ってくれたりはしますけどね。でも、来ているお客さんに「どんな風にウチの音楽を聴いてるの?」と聞くと、アプリに日本でレンタル専用でしか出してないアルバムが入っていたりして、「絶対誰か流してるでしょ!?」っていう。こっちには全然売り上げは入ってこないわけです。ただ、そのアプリはYouTubeみたいにコメント機能があるんですが、re:plusのところに1万コメントついていたりするんですよね。「これで人気の度合いが簡単に分かるじゃん」って。最近は著作権も整備されつつありますけどね。韓国の場合は最初、『2』に入っている曲が向こうで結構売れたんですよ。当時は坂本龍一さんとも(“undercooled”で)一緒にやっていた韓国ラッパーのMC Sniperさんがいた時代で、その時と今とではシーンが全然違っているんですけどね。今も仲いいですよ。ウチの音源はポーランドでも人気なんですよ。どこにあるかわかんねえよっていう(笑)。

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re:plus上海公演

——でもそれは本当に不思議な話ですね。もともとは日本的なヒップホップがテーマになっていたコンピレーションが海外でも受け入れられているわけですから、『IN YA MELLOW TONE』自体にコンピレーションとしての個性が出てきたということで。

そうですね。作られていった部分もあると思うし、もうひとつは、「ずっと変わってない」というのもあると思うんですよ。たとえばトラップが流行ったとしても、それを取り入れるということは一回もやってないんで。あとは、一日に何百曲も、尋常じゃない掘り方をしているので、絶対に誰も知らないようなアーティストの作品を出しているという部分もあるとは思います。自分にしか作れないものにはしているつもりですね。