虚無と栄光。ハイカルチャーとカウンターカルチャー。若手イケメン俳優と痛みを抱えた現代詩人。冷たく重いハンマーと軽やかに飛ぶハチドリ――。2月28日(水)からの4日間、すみだパークスタジオ倉(THEATER-SOU)で上演される舞台『hammer & hummingbird』は、そのタイトルが連想させるまま、相対するものの掛け合わせによって描かれる「痛みとの併走」の物語だ。

本作のイメージソースは、カウンターカルチャーの源流<ビートジェネレーション>。“自由と反抗”のシンボルとしてLEVI’Sデニムが若者達に浸透し、ジャック・ケルアックをはじめとする多くの詩人が生まれた50年代アメリカの世界観を現代日本に置き換え「傷つきながらもなぜ生きるのか」を問いかける。

現代詩人・中村泳を演じるのは、本作で5年ぶりの舞台に立つ俳優・磯村勇斗。数々のドラマ・映画、2017年度NHK連続テレビ小説「ひよっこ」での好演が支持され、今年は2作の出演映画が公開を控えている。

脚本を務めるのは、脚本・演出家の濱田真和。活動発信の場として2014年に<Superendroller>を立ち上げ、以降自身のプロデュース作として3作品を発表。2017年上演の同プロデュース作品原案の映画公開に向けたプロジェクトが進行中だ。

舞台という性質上、物語はその場にいてこそのみ目撃できるものだ。そのうえ本公演は既にチケットがほぼ完売状態。惜しくも観劇出来ない方は少なくない。今回は、出演者と脚本家それぞれの視点を交え、本作とその先に見えてくる舞台演劇の魅力や可能性、両者が考える「俳優」の本質について語ってもらった。いち作品についてのインタビューとしてだけでなく、日本演劇界の財産になりうる俳優と脚本家の挑戦の記録として、ぜひ心に留めておいていただきたい。

Interview:磯村勇斗 × 濱田真和

【インタビュー】俳優・磯村勇斗、5年ぶりの舞台へ。『hammer & hummingbird』で魅せる、痛みとの併走の物語。 interview0180226_hammerhammingbird_06-1200x900
市野美空

――この取材時点では、まだ稽古が始まって一週間ほど。そろそろ物語や役柄の輪郭が掴めてきたころでしょうか?

磯村 そうですね。今回僕が演じさせていただく現代詩人の中村 泳(およぐ)という役は、自分に近いようで遠くもあって。シンプルだけどそれだけじゃない、泳の心情を整理するために自分のなかを彷徨っている最中です。

――今回、5年ぶりの舞台ということもあり、期待が高まっていますね。

磯村 5年間ずっと舞台から離れて映像でのお仕事をやらせていただいていたんですけれど、自分のなかで「舞台に立つのは、まだまだ先」という頭だったので、お話をいただいたときは、なんというか……不安な部分もあったんです。

――不安な部分?

磯村 俳優としての僕は舞台から始まって、「映像の仕事もやりたい」とムシャクシャしながら闘ってきたんですけど、今こうしていろいろなお仕事をさせていただくなかで感覚も見え方も変わったし、ナマの怖さとか積み上げていく大変さをわかっているからこそ……っていうのがあって。不安というより、恐怖心なのかもしれないです。映像だと撮り直しができるけど、舞台って始まったら止まらないですし、一人一人の責任がすごく重くて。そういったいろんな人の魂というか「生」を感じてしまうのが怖いのかもしれないですね。

――なるほど。ただ、恐怖心だけじゃないんだろうなというのが言葉の端々から伝わってきます。舞台という場所は神聖で、大切に思っているんだろうなと。

磯村 それは、すごくあります。僕にとって舞台は、神々しい聖堂みたいなイメージで。その空間にいろんな想いが入り交じっている気がするんです。

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市野美空

――そこまで思い入れを持った方が5年ぶりに立つ舞台作品を手掛けられるというのは、脚本・演出家冥利に尽きるのではないでしょうか。今回磯村さんが主演を務めることになったきっかけは?

濱田 完全に僕のひと目惚れです。『ひよっこ』で芝居をしていらっしゃる姿を見て「この方は俳優だなあ」と。脚本を書く段階で誰かと一緒にやりたいと思うことってあまりないんですけど、今回は「磯村さんと一緒にやりたい!」と公言してまわって、やっと叶いました。

磯村 お話をいただいた時点では、まだ濱田さんと直接お話したことはなかったですけど、濱田さんが僕に向けてくれた愛っていうのはマネージャーさんから聴いていて。求めていただけるというのは自分の仕事柄幸せなことですし、そうなれるのは簡単なことではないですから、ありがたいです。愛をもらったら、愛で返すしかないと思うし、求められると応えたくなるタイプなので。いつもと違う場所で芝居をすることだとか舞台上での表現の難しさというのは、楽しみな部分でもあるし、自分の人生の変化のひとつとして挑戦したいという想いです。

濱田 今のお話にも彼の俳優という仕事へのまっすぐさを感じて、お願いして良かったなと改めて思っています。俳優って、免許も資格もいらなくて“人に非ず、優れている”という職業で。今って、俳優の仕事がどこかアーティスト的だったり、他の仕事との境界がなくなってきている気がしていて。そこで改めて「俳優とは?」って考えたときに、磯村さんが俳優という仕事に対してすごくまっすぐに向き合って芝居をしている姿に惚れたんです。

――私も個人的に磯村さんのお芝居を拝見していて、とても堅気な方だなという印象を持っていました。ただ、この5年間で定着した「磯村勇斗」のイメージと「俳優・磯村勇斗」のあいだに、少しギャップが生じている気もしていて。

磯村 それは、あるかもしれないです。自分がいわゆるイケメン俳優といわれるポジションにいるのはわかっているんですけど、正直それに腹が立つときもあって。「カッコいい」と「イケメン」では意味が違うと思っているし、イケメンと言われるだけでは、俳優として評価されているわけじゃないので。やっぱり僕が今やっている仕事はそれだけじゃないし、心のどこかでカッコよく見られたくない自分がいて。人間クサさや泥クサさに憧れを持っているから、そういう一面も欲しいとは思います。これまでにない自分を見せるという意味で、中村泳という人間を演じることは、大きなことなのかもしれないですね。

【インタビュー】俳優・磯村勇斗、5年ぶりの舞台へ。『hammer & hummingbird』で魅せる、痛みとの併走の物語。 interview0180226_hammerhammingbird_05-1200x900
市野美空