80年代末~90年代のレイヴ全盛期にプロディジーの作品で人気レーベルの仲間入りを果たすと、00年代もM.I.A.やヴァンパイア・ウィークエンド、ザ・ホラーズ、ザ・エックス・エックスなどを世に送り出してきたイギリスの名門〈XLレコーディングス(以下、XL)〉。今年で25周年を迎えた今も審美眼は衰え知らずで、ついこの間も若手DTM世代の最重要人物にしてロンドンの〈PC Music〉のオーナー、A.G.クックとソフィによる話題のプロジェクトQTとの契約を発表したばかり。彼らは相変わらずシーンの最先端を見続けているようなのだ。
実はそんなレーベルのオーナー、リチャード・ラッセルが、ここ数年興味を強めているもうひとつの音楽が「非西欧圏のワールド・ミュージック」。彼はデーモン・アルバーンとのアフリカ・エクスプレスやDRCミュージックで重要な役割を果たすと、その縁から“ラスト・ソウルマン”ことボビー・ウーマックの新作にも2人して参加。非西欧圏の音楽と伝統的なソウル・ミュージックを行き来して、積極的なリリースを続けてきたことは記憶に新しい。そして彼がいよいよ見つけた、その系譜に連なる期待の新鋭が、フランス育ちの双子姉妹ナオミ・ディアスとリサ=カインデ・ディアスによるイベイー(Ibeyi)だ。
ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにも参加したラテンジャズの名パーカッショニスト、ミゲル・“アンガ”・ディアスの娘として小さい頃からキューバ音楽やヨルバ・カルチャーに親しんだ彼女たちのサウンドは、かの地の伝統音楽をヒップホップ/R&B的なフィルターでふたたび捉えなおしたもの。〈XL〉からのデビューEP『オヤ』には、様々な音楽がまざりゆく10年代らしい魅力が詰まっている。そこでQeticではリチャード自らがプロデューサーを務めたアルバムも制作中と噂の彼女たちに早くもメール・インタビュー! その才能の秘密に迫ってみました!
Ibeyi – “Oya”
Interview:Ibeyi
――2人の性格の違うところ、似ているところを挙げてもらえると嬉しいです。また、それはあなたたちが音楽を作る際にも関係してくると思いますか?
ナオミ(以下N) (性格は)真逆だと思うわ。リサは落ち着いてて反射的、私は衝動的で神経質。双子で一緒に音楽を作るっていうのは決して簡単なことじゃないの。でもステージ上では言葉を交わさなくてもお互いの目を見れば理解しあえる。それが唯一の双子の証明ね。
――そもそも、2人が音楽をはじめたのはいつ頃のことで、どのように今の音楽性へと発展していったのでしょう。小さい頃はヨルバのフォーク・ソングなどを習っていたそうですね。
リサ(以下L) 赤ちゃんの頃から母が私たちを父のコンサートへ連れて行ってくれて、7歳でパリの音楽学校に入ってナオミはパーカッション、私はピアノを始めたの。2年前、私が17歳の時、私はジャズを勉強し始めたわ。本当は学校に通い続けたかったんだけど、イベイーとしての音楽活動で忙しくなったから今年からは行けなくなっちゃった。ヨルバのチャントは幼い頃からキューバのサンテリア(※1)の儀式で聴いていて、パリで母とバタ(※2)とお経のグループに参加し始めたわ。
※1:サンテリア
西アフリカのヨルバ人の民俗信仰と、カトリック教会、スピリティズム(心霊主義/別名カルデシズム)などが混交して成立したキューバ人の民間信仰。
※2:バタ
サンテリアの儀式で使用される太鼓。3つ1組で演奏される。
――あなたたちの父親はブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにも参加したラテンジャズの名パーカッショニスト、アンガ・ディアスですが、やはり彼の存在は大きかったでしょうか。彼はキューバ音楽にクラブ・ミュージックやヒップホップ的な要素を混ぜ合わせるのが得意な人で、それはあなたたちの音楽にも受け継がれているように思えます。
L+N 「影響を受けてきたものをミックスする」ってところはまさに父から引き継いだものね。私たちはフランス人でありキューバ人でもあるから、ヨルバのお経、ジャズやヒップホップ、ニーナ・シモンやチェット・ベイカーみたいな昔の音楽も好きだし、ジェイムス・ブレイクとかジェイ・エレクトロニカ、フィンクみたいな新しい音楽も好きなの。私たちは単一のものではなく異なる言語、文化、これまでに影響されてきたもの全てが混合されて出来上がっている。これらを全部ミックスするってことは、私たちなりに自分達自身に忠実である方法だと思う。
――キューバ音楽やヨルバ・カルチャーは、あなたたちの音楽にどんな影響を与えていますか。
L+N 今までの作品ではヨルバのお経に強い影響を受けて、自然にそれが曲やリズム、バタへと変化していったの。これって私達が音楽を聴いてくれる人たちと共有したい重要なところでもあるわ。
――では、キューバの伝統的な音楽と、ヒップホップのようなそれ以外の音楽についてそれぞれ好きなアーティストを挙げてもらって、魅力を紹介してもらえると嬉しいです。
①ニーナ・シモン、ミシェル・ンデゲオチェロ
2人とも強い女性で素晴らしいミュージシャン。彼女たちの言葉全てに信念がある。
②ジェイムス・ブレイク
素晴らしい雰囲気とメロディー。
③フィンク
ロックだけどソウルがこもっている! ディープな音楽。
④アンガ・ディアス(彼女たちの父親)
様々な音楽の混合。神秘的。
⑤ジェイ・エレクトロニカ
素晴らしい歌詞とフロー。
Ibeyi – “Better In Tune With The Infinite(Jay Electronica cover)”