I Saw You Yesterday(以下、ISYY)が劇的な進化を遂げた。
瑞々しさのなかにスパイスの効いたサウンドとメロディーが疾走するパンク以降のUKギターポップや、その流れを汲む00年代後半から10年代にかけてのUSインディー色の強かったファースト・アルバム『Dove』から、歌やフレーズがより明快に際立ったEP『Topia』を経て、9月11日(水)にリリースしたシングル『White Out』は、曲調やグルーヴにおいて、さらに表現の幅を広げた、彼らの新機軸を示す曲になった。また、11月13日(水)にリリースするアルバム『Calm Days』もまた、『White Out』に感じたイメージをさらに拡張させ、ポップな感覚とオリジナリティが大きく増した、決定的な強度のある作品となっている。今回は『Calm Days』を一足先に聴き、なぜ彼らはそれだけの成長を遂げることができたのか紐解いてみた。
INTERVIEW:I Saw You Yesterday
──今回のシングル『White Out』とアルバム『Calm Days』は、前作『Topia』から約1年半を経てのリリースとなりますが、バンドのキャリアとしてはどのような位置付けになりますか?
シモダヒデマサ(Vo/Gt 以下、シモダ) 簡単に言うと、その前に出したアルバム『Dove』から『Topia』、そして現在に至るまでの“進化の過程”と言える作品だと思います。
──その“進化の過程”について詳しく聞かせてもらえますか?
シモダヒデマサ(Vo/Gt 以下、シモダ) 『Dove』の頃はリバーブを深くかけた抽象的なサウンドで意図的に熱くなりすぎないようにやろうとしていたんですけど、実際にライブで演奏しているとどうしても熱くなってしまう。その部分を抑えず作品の中でも表現しようとしたのが『Topia』です。リバーブを深くかけることを止めたことで、輪郭のあるエモーショナルなサウンドになったと思います。
スズキカズシゲ(Ba. 以下、スズキ) そして今作『Calm Days』における大きな変化点は、『Topia』のレコーディング後にメンバーチェンジがあって、ドラムがウチジョーに変わったことですね。
I Saw You Yesterday “Topia” (Official Music Video)
I Saw You Yesterday 1st Album “DOVE” Trailer
シモダ ドラムが変わったことで、いろんなことができるようになりました。前任のドラマーはアップテンポで直線的なドラムを得意としていたので自然とそういう曲が増えていったんですが、ウチジョーはテンポを落としても叩けるし、曲線的な表現もできる。それに加えてフロントの3人の演奏力も成長している感覚があり、今ならテンポを落としてさらにリバーブを浅くしても、それによって生まれる音の間をちゃんと演出してグルーヴを作ることができると思ったんです。以前のような直線的でアップテンポな楽曲に加えて曲線的でテンポを落とした曲が追加され、バリエーションが増えたことは今作の大きな特徴ですね。
──明らかに表現の幅は広がったと思います。
シモダ これまでのISYYは、インディーポップにカテゴライズされることが多かったのですが、僕のルーツは前のインタビューでも紹介した通りスマッシング・パンプキンズ(The Smashing Pumpkins)などのオルタナティブ・ロックだったりします。その根っこの部分に帰るじゃないですけど、昔よく聴いていて好きだったウィーザー(Weezer)を最近ふと聴き返してみたら、「あれ、なんか今聴いてもカッコいいな」って。輪郭のはっきりした分厚いサウンドやわかりやすいメロディは、大人になってからなんとなくダサい気がしてたんですけど、そんなことないんじゃないかと思ったんです。
──アルバムに先駆けてリリースされたシングル曲“White Out”はまさにその感覚が反映された曲だと思いました。
シモダ そうですね。あと今まではボーカルも楽器の一つと捉えて、かなりリバーブをかけることで生っぽさを消していました。今もその考え方はあまり変わってないんですけど、技術的に向上したこともあり、以前より歌を前に出すことができるようになったんです。
スズキ シモダの作る曲はそもそも歌が映えるタイプの曲が多いのですが、『Dove』の頃はそこをあえてぼかしていたところもあって。“White Out”のように歌を押し出し、曲がもともと持っているキャッチーさを引き出すことで、より多くの人に届くような気がしますね。
ムラカミカイ(Gt. 以下、ムラカミ) それはメンバー同士の関係性も大きく影響しています。あちこちから集まってきたメンバーでISYYを結成して、すぐにファースト・アルバムのリリースまでいったので、当時は各々が個性を表立って出すことに遠慮しているところもあって。でもあれから様々な経験をメンバーと共にし、今は一歩引いてバランスをとることもどこで自分が出ていくべきなのかも理解できているし。
ウチジョーユウ(Dr. 以下、ウチジョー) 個人的にはドラムとベースは後ろで支えるものだと思っています。でもそれは、一歩引くというよりはスタジオやライブを重ねていくなかで、結果的にそうなった感じですね。
I Saw You Yesterday – Daisy @ NEWWW vol.16
──ドラムとベースはそこまで強い主張をフレーズに押し出すことはないにせよ、曲の真ん中に腰を据えて牽引していくような要素は増したと思います。
シモダ “White Out”はまさにそうですね。これまではギターがコードをガ〜ッと弾いて、そこにみんなで乗っていくみたいなイメージでしたけど、“White Out”はドラムとベースでビートを強く引っ張って、そこにギターのリフと歌が乗っていくような曲。
──温度感が独特な曲ですよね。これまでのISYYのイメージにある瑞々しいインディーギターポップの色はそのままにビートの腰が据わって、音色が変わればスタジアムロックやウィーザー以降のダイナミックなパワーポップになりそうなパワーが生まれています。
シモダ コード進行もスタジアム仕様な感じですしね。でもそういう印象は与えないと思います。こういう曲を書けるようになったのは、僕自身が自分のソングライティングに自信が持てるようになったこと、さっきムラカミが言ったように、メンバー間の信頼が増したことが大きいと思っています。僕が曲を書けばきっとどうアレンジしても僕らしくなるし、それをこのメンバーで演奏すればどうやってもISYYになるでしょって。
それに、この曲は今までと作り方も違うんです。前までは僕がデモとしてある程度曲を完成させてからスタジオに持っていっていたところを、今回はコード進行とメロディだけを伝えてメンバーそれぞれが自分のパートを作りました。これも新たな曲調に挑戦しつつも自分達らしさを出せた理由かなと思います。
ムラカミ 今まではシモダがある程度仕上げてきた曲を、僕たちがまずはそのまま演奏して、そこから変化させたりそのままだったりというやり方だったんですけど、“White Out”においては白紙のままポンと渡されて「どうぞ好きにやってください」って感じでしたね。そうやって委ねられることで信頼関係はさらに高まったように思います。そういう意味では今回のアルバムは“White Out”から始まりました。
I Saw You Yesterday “White Out” (Official Music Video)
──その“White Out”を1曲目にして、ラストの“Calm Days”を、アルバムのタイトルにしたのはなぜですか?
ムラカミ “Calm Days”は『Dove』の頃からあった古い曲で、当時からライブでは演奏していたんですが、正直最初はしっくりきてなかったんですよね。良いところはあるのになぜかパッとしない曲って感じでした。それが次第に、ウチジョーが加入したり僕らが変わっていったりしていく過程で、どんどん輝いてきて、今となっては僕がイメージしているISYYらしい、リラックスしているけどどこか毒があるというか、それはシモダがよく言う「憂い」なのかもしれないし、僕が個人的に世界に対して抱いているモヤモヤした感情なのかもしれないけど、それらのすべてをこの曲は孕んでいるように思っています。だからタイトルにしようと、特に僕は推しました。
ウチジョー 僕が入った頃の“Calm Days”はそれぞれのフレーズは曲線的なのに全体の演奏としてはすごく直線的で、正直言って何がしたいのかわからない曲だったんです。でもみんな心の中で大切に思っている曲だから演奏し続けているんだろうなって。それで、どこを抑えてどこを爆発させるかを、もっとはっきりさせてドラムを叩いたところ、3人の演奏も変わっていって躍動感が出ました。
シモダ まさに、この曲も変化点としてはウチジョーが入ったことがすごく大きいと感じています。ウチジョーのドラムはしっかりと起伏があって柔らかい。それはまさに“Calm Days”という言葉通り、穏やかな日々から始まって、最後にはムラカミのギターの轟音が入って毒のようなものが出てくる。ドラムが変わってから、僕らもどう演奏すればいいのか見えてきて、特に後半の部分が化けたよね。
──進化の象徴なんですね。
シモダ はい。今作品にかけて僕らのどこがどう変わったか、最も象徴的に表れている曲だと思います。
──ウチジョーさんが入ったことでライブとともに育ち、とくに後半部分が変化したことはわかりましたが、最終的にこのカオスでありながら優しく美しい展開に至ったのはなぜでしょう。
ムラカミ “White Out”のプロセスとも繋がるんですけど、各々が自分のパートを手掛けたからですかね。レコーディングの方法も“White Out”以降に定着したやり方があって。そのやり方というのは、レコーディングではほとんどお互いが顔を合わせることなく、リレー形式で、一人で演奏し書き足したものを次のメンバーに渡すみたいな、交換日記みたいな感じで、個人的な作業を重ねることで曲を完成させていくんです。
シモダ 特にムラカミの場合、ライブやレコーディングで初めて聴くフレーズがバンバン入ってくるんですよね。
スズキ 2度と出なさそうな音とか入ってるしね。これライブでどうすんのって(笑)。
ムラカミ みんなで一緒に録音の現場に立ち合うと、もうちょっと型通りというか、計算されたものになると思いますが、このレコーディング方法は渡されたノートに好き勝手書き込めるので自由度が高いですし、信頼関係のもと妙なバランスで成り立っている感じがあります。いわば一つのコミュニケーションですね。例えば僕のパートで言うと、最後のギターはチェロの弓を使っているんですけど、驚かせたくて録音が終わるまでメンバーに秘密にしていたし。
シモダ 最近はムラカミが重ねた音を聴いてびっくりすることが普通になっていて。一人だから、溜まっていたアイデアを惜しげもなくぶちまけているんでしょうね。
──意外性となると、“The Glare”の三拍子。
シモダ この曲はアルバムの真ん中に挟むことで口直しをしたいと思って入れました。
イメージ的にはスマッシング・パンプキンズの『Siamese Dream』に入っている“Sweet Sweet”。濃い曲の並ぶアル
ムの終盤にきて、焼肉のあとのミントガムのような清涼感があります(笑)。
──ルーツはオルタナティブにあると思うのですが、90年代のかつての隆盛と比較すると今はたくさんの人に聴かれにくくなっています。それについてはどう感じていますか?
シモダ 確かにそうですね。そういう意味ではたくさんの人に聴いてほしいけど、万人ウケする音楽をマスに向けて放っているわけでもないし。ちょっと矛盾はしますけど、刺さる人に刺さればいいと思っています。
──周囲の状況や情報はあまり気にならないんですね。
ムラカミ そうですね。僕らが動き出した2016年くらいは、みんなで足並み揃えようとするムードは多少あったような気がしますけど。流行ったものに引っ張られないよう、ちょっとくっつこうって。
──どういうことですか?
ムラカミ 2016年くらいは、Yogee New Wavesとかnever young beachとか、Suchmosとかが大きく出てきて、もちろん各々に個性はあるんですけど、なんか大きな「波」みたいなものがあったじゃないですか。そのなかで、僕らは結成したばかりで、自分たち自身でも何者なのかまだわかってなかった。その状態で「波」に飲まれるのが少し怖かったんですよね。周りもそういう「波」をちょっと怖れて、流されないように固まっていたというか。
──その「波」は確かにあったと思います。
ムラカミ 良いものが売れる。でも売れたものだけが完全な正義になってしまい、世間もそう感じてしまうのは怖いな、と。そこで、自分たちだけで活動していることに心もとなさを感じて、企画とかでも同じように思っているバンドが同じような音を出して集まっていた気がします。でもすぐに自分たちは自分たちでしかなく、そんなにやわじゃないとみんな気付き始め、次第に、各々が好きなことをやるようになっていったと思っています。
シモダ いい意味で今は自由に独自の音楽をやっているバンドは多い。90年代や2000年初頭くらいまで、流行が如実にあったじゃないですか。グランジが爆発したらみんなそうなっていたし、ザ・ストロークス(The Strokes)が出てきた時もそう。でも今は「これ」っていうスタンダードもないですよね。
ムラカミ 今はまたオルタナが強いんじゃないかって言われますけど、結局、大きい「波」はきていなくて、小さい「波」がいっぱいきていると思っています。僕の個人の実感としては、もうギターをガンガン弾くバンドがまとまって流行ることはないんじゃないかな、と思います。選択肢が増えたことで、何をやっても他のバンドとの距離はある。それは、今こそ自由にやればいいってことだと思います。
シモダ リスナーのバンドのスタイルに対する許容範囲もすごく広がったと思いますし。
──仮に完全に商業的にやるとして、何をどう打てばどう流行るかより自分らしくいることをどれだけ磨くかのほうが大切だと思います。でないとそもそも続かないですし。
シモダ そうですね。当然リスナーは色んなバンドを聴くけど、「ISYYが一番好きです」って言ってもらえるようなバンドになりたいですね。その人の中で1番のバンドになりたい。たくさんの人に広く浅く聴かれるよりは、狭くても良いからリスナー一人ひとりに深く刺さるような。もちろん、それでかつ多くの人に届いたら嬉しいですけどね。
Photo by Kazuma Kobayashi
Text by TAISHI IWAMI
I Saw You Yesterday
I Saw You Yesterdayは東京にて活動する4人組インディー・ポップバンド。2015年に結成し都内を中心に活動をスタートする。USインディー直系のギター・ロック・サウンドで、90年代オルタナティブやシューゲイザーからの影響が強く、疾走感のあるインディー・ポップ・サウンドを鳴らす。海外レーベル 〈Captured Tracks〉や〈Slumberland〉所属のアーティスト達と共鳴し、日本では唯一無二の音を鳴らすバンドといっても過言ではないだろう。2016年2月にWEBレーベル〈Ano(t)raks〉からデジタルEP『Malibu』をリリースすると、その後は精力的な活動が増え、同年9月にはりんご音楽祭の出演も果たす。数々の海外バンドの前座も務めながら、2017年4月には待望のデビュー作『Dove』を〈Dead Funny Records〉からリリースした。2018年1月にはミツメらとタイの音楽フェス<POW! FEST>に出演し、初の海外進出を実現。同年4月には1年ぶりとなる新作『Topia EP』をリリース。2019年秋には待望の2nd フル・アルバム『Calm Days』をリリースする。
RELEASE INFORMATION
White Out
2019.09.11 (水)
I Saw You Yesterday
デジタル配信リリース限定
Streaming、Downloadはこちら
Calm Days
2019.11.13 (水)
I Saw You Yesterday
DFRC-065
¥2,200(tax incl.)
01. White Out
02. Topia
03. Beach Babe
04. Hometown
05. The Glare
06. City Girl
07. Feel It Like You See It
08. Calm Days