「振り返ると、軌道に乗っていたアパレル事業をやめて、アーティスト人生をスタートした自分を無謀だと思いますが、その無謀な行動がなければ今の自分はなかったと思います。また、アーティスト活動を通して得られた素晴らしい出会いや経験が、今の自分を形成しています。これからも1日1日の積み重ねを大事に、アーティスト人生を歩んでいきます」
(個展<JAY SHOGO展 “唯一無二” 人生というキャンバスに自分らしく描く。>序文より抜粋)

自らのブランドを持っていたアパレル業界から突如身を引き、2009年にロサンゼルスでアーティスト活動をスタート。独学のスキルと豊富なイマジネーションで頭角を現すと、世界最大級のアートフェスティバル<Art Basel Miami>での壁画制作に始まり、マイアミに拠点を移しつつ、ストリートアートの聖地「5Pointz」(ニューヨーク)でスプレーに開眼。その後は世界各地で影響力のある壁画を数多く制作し、さらには世界的に有名な企業やブランドのプロジェクトへの参加や内装・ロゴデザインなど、Jay Shogoジェイ・ショウゴ)の表現は多岐にわたる。

そのJay氏が国内で2度目となる個展<JAY SHOGO展 “唯一無二” 人生というキャンバスに自分らしく描く。>を、9月15日から19日にかけて、静岡県浜松市にある遠鉄百貨店で開催した。このタイミングに合わせてQeticでは、前後編の企画を実施。前編の記事では、個展を開催するに至った経緯に加え、Jay Shogoのキャリアに迫るインタビューを公開。そして後編では実際に遠鉄百貨店を訪れ、<Jay Shogo展>の全貌や込められたメッセージなどを、開催前後のJay氏やチーム“唯一無二”のメンバーの証言を通して探ったレポートをお届けする。

▼前編はこちらから
【INTERVIEW】Jay Shogo “唯一無二”(前編) 百貨店とストリートアートの邂逅

REPORT:JAY SHOGO展 “唯一無二”
人生というキャンバスに自分らしく描く。

Jay Shogo展 “唯一無二” 2022 @遠鉄百貨店

【REPORT】Jay Shogo “唯一無二”(後編) アートが繋いだ過去・現在・未来 interview221024-jay-shogo

Jay Shogo オリジナルグッズ “唯一無二” COLLECTION
遠鉄百貨店オンラインストア限定で11月7日(月)より発売開始。
https://endepa.net/cat-none/8513/

チーム“唯一無二”
心を豊かにするアートと百貨店

「出会いは1年ぐらい前です。アートの展示は百貨店としても求めていたものであり、アートを通じて若い世代の方々に来てほしいという意図がありました。そんな中でJayさんと知り合い、作品の魅力はもちろんですけど、人間的な魅力にも我々が惹かれて、これは絶対に遠鉄でやりたいと。そしてこれを全国に広げたいっていう未来にまでイメージを巡らしました。そしてその第1回目は、何としても浜松でやりたいということで企画がスタートしたんです」

遠鉄百貨店の常務取締役・中村真人氏は、目を輝かせながら今回の展示の始まりについてそう語った。元々は、Jay氏の地元の友人が静岡にいたことをきっかけに広がっていった人脈とコミュニティ。オフィスの壁画制作などの依頼もあったことから、Jay氏はここ最近で30回以上は浜松を訪れ、現地の人々と関わりを深めていった。

そのエピソードからわかるのは、遠鉄百貨店で開催された今回の<JAY SHOGO展>は、あらかじめ用意されたハコに、事務的なやり取りでアーティストがブッキングされたようなイベントとは180度違うということだ。

それでも今回の舞台となった遠鉄百貨店・本館8階の催会場は、普段は物産展やキャラクターコンテンツの展示などがメインであり、実際のところ<JAY SHOGO展>は開催してみないとわからない不確定要素ばかり。

それでも「やっている人間が楽しければお客様にも魅力が伝わる」という中村氏のポリシー、そして展示の準備期間中を含め、常に現場に居続けるJay氏のスタンスが、チーム“唯一無二”の一体感を生んでいった。

「テーマの話になったときに Jayさんが、即答で“唯一無二”って仰って。みんな『おお〜!』ってなりました。そういうのは時間がかかることが多い中で、今回に関しては全会一致で即決でしたね」(中村)

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そして今回の<JAY SHOGO展>は奇しくも、遠鉄百貨店が掲げている「地域の皆様とのつながりを大切にし、心豊かなライフスタイルを提案し続けます」というテーマとも自然にリンクしていく。

「今回は普段あまりアートに触れていない方や、ファミリーや子どもたちもたくさん来てくれると思います。そしてそこで“唯一無二”の存在や作品と出会うことで心が揺さぶられて、将来こんなことを自分もやってみたいと思うかもしれません。それこそ、心を豊かにするという遠鉄のテーマにリンクするものでした」(中村)

ここで展示前の印象的なエピソードをひとつ。今回、遠鉄百貨店側の現場ディレクションを担当した催事・SC課の加藤さん曰く、展示の準備を始めた初日にはすでに、館内の従業員の方たちからJayさんと話したという声をいくつか聞いていたという。さらにそのどれもがポジティブな内容・反応で、「Jayさんの人柄が伝わってきた」(加藤)と。

Jay氏はきっと展示の準備を進めながらも、館内で出会った人たちと分け隔てなく会話を重ねていたのだろう。そのエピソードからもわかるように、Jay Shogoというアーティストが持つ“引力”は、関わる人間を惹(引)きつけ、惚れさせる。そうして共に楽しみながら作り上げる──それは今回の<JAY SHOGO展>も同じだったはずだ。

まだ暑さが残る9月中旬、浜松駅を出てすぐの遠鉄百貨店に到着。“唯一無二”の空間を想像して胸を躍らせながら、あえてエレベーターではなくエスカレーターに乗り、本館8階の催会場へと上がっていった。

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『ホントにここは遠鉄百貨店?』
300点を超える原画が集結

催会場に入ってまず驚かされたのは、想像以上の広さと、それを埋める圧倒的な作品数。今回の<JAY SHOGO展>では、2010年から生み出してきた過去作に新作を加えた、300点を超える原画が集結した。さらに、百貨店というさまざまな人が訪れる場所に適した形とはいえ、“入場無料”での開催はアート展では異例と言えるだろう。いわゆる都内でよくある小さなハコの展示に慣れてしまっていた筆者は、まずそのスケール感に「食らった」。

そして会場内の作品を鑑賞することはすなわち、Jay氏のアーティスト人生の変遷を辿ることでもあり、ずらりと展示された一連の作品群からは、アーティストとしての“多彩さ”と“多作ぶり”を見せつけられた。

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活動初期にマーカーのみで描いた代表作『PLANT SOME SEEDS』をはじめとしたオリジナルキャラクター“Ya-man”のシリーズや“ANIMAL”シリーズ、スキルアップのために練習で描いたアートや壁画のラフから厳選した“RAKUGAKI ART”、点と点を結ぶように流れる線が美しい“Line Art”、そして「Meditation」と名付けられたYa-man×チャクラアートの新作まで。さらには、Jay氏によるペイントやモチーフが落とし込まれたスニーカーや、企業やブランドとコラボしたプロダクトといった立体物もショーケースで展示された。

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そして会場内ではJay氏のアート作品に加えて、イベント限定オリジナルTシャツやYa-manのぬいぐるみなども、所狭しと並べられていた。加えて、そのYa-manが現実世界に飛び出し、不定期で会場に現れるという遊び心も!

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「個展をやる前はプレッシャーもあったけど、それを上回る準備をしたし、悔いのないようにやりたかった。今回は昔の自分がイメージしていた百貨店のスケール感だったし、自分もこんなに大きなところでやるとは思わなかったからね。観に来てくれた人の中には、8階まで上がってきたことがなかったっていう人もけっこういたし、そういう人たちから『Jayさんもだけど遠鉄百貨店もすごいですね』という話をたくさん聞けたのもうれしかった」(Jay)

「本当に長いようで短かったなと思いますが、僕の中では展示を見に来てくださった方たちに、『ホントにここは遠鉄百貨店?』『浜松じゃなくて東京みたい!』って言われたのがすごく印象的で。あの空間が超越していたのか、やっぱり今までの百貨店でやっていなかったことをできたんだっていう実感がそこで湧きました」(加藤)

売上だけじゃない価値
“未来の種”を植えた<JAY SHOGO展>

5日間の会期中には、浜松の方たちはもちろん、台風接近中にも関わらず東京から足を運んだ方や同業のアーティスト、かつてJay氏のアートに触れた者、そしてはるばる海を越えてアメリカからも友人が訪れていた。

「親御さんから子どもの人生相談をされることもあったね。『息子が絵を描いているんですけど、アドバイスをもらえませんか?』みたいな感じで。でも結論を言うとね、自分にとって言葉は情熱では伝えられるけど得意ではなくて、もっと伝えたいがためのアートとして絵を描いてる。なのでそういうところから伝わるといいなと」(Jay)

一方で遠鉄百貨店の中村常務が、今回の個展を通して出会った人のエピソードの中でとりわけ印象的だったのが、ある絵描きの若者。作品を観てものすごく目を輝かせながら、『僕、今もう描きたくて描きたくてしょうがないです』と言っていたという。さらにその日の夜、別の来場者との心震わせるエピソードも教えてくれた。

「知り合いのお客様のお嬢様で、小学校5年生のシャイな女の子なんですが、絵を描くのが好きということでお父さんが連れてきたら、食い入るように1時間はいろいろな絵を観ていました。さらにJayさんがライブペインティングをしていると、その子は観ながらお父さんの耳元で何かを言っていて。そのあともずっと一番前で観ていたらJayさんがメッセージカードを描いてくれて、その子はずっとそのカードを持っていたんですね」(中村)

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さらにその夜、お父さんから中村常務に1枚の写真が送られてきた。

「お嬢さんがお風呂で、泡を使ってJayさんの“Line Art”を真似して描いた絵の写真だったんです。それを見たときは本当にうるっときましたね。さらにそのあと、ご家族が絵を買ってくれていたこともあり、Jayさんが直接届けに行ってくれたんですよ。そのお父さんは『授業よりもっと子どもにいい影響があったし、本物のアーティストと実際に触れ合えたことは、すごく思い出に残ると思います』ということを言ってくれました」(中村)

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売上だけじゃない価値──訪れた人の心に影響を与えられる催事、それが今回の『JAY SHOGO展』だったのだろう。例えば数年後、再び遠鉄百貨店で<JAY SHOGO展>が開催されたら、直感のままに見よう見まねで“Line Art”を描いた小学5年生の女の子は、果たしてどんな成長を遂げているのだろうか。Jay Shogoというアーティストの過去・現在を網羅し、結果的に“未来”の種を植えた今回の個展。Jay Shogoは自らが“唯一無二”であることを証明しつつ、そのアートを通して、触れ合いを通して、誰もが“唯一無二”であることを教えてくれた。

Interview & Text by ラスカル(NaNo.works)

INFORMATION

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PROFILE:Jay Shogo(ジェイ・ショウゴ)

2005年に株式会社エメラルドを設立し、自身がデザインするアパレルブランドをスタート。2009 年にはアイウェアブランドを立ち上げ、同時期にロサンゼルスでアーティストとしてのキャリアをスタートする。 ニューヨーク滞在中に、ストリートアートの聖地として知られる “5Pointz(ファイブ・ポインツ)” でスプレーテクニックを習得し、マイアミ、ロサンゼルス、バルバドス、オーストラリア、韓国、日本など世界各地で影響力のある壁画を制作。 さらには優れた創造性、スキル、豊富な経験を評価され、世界的に有名な企業やブランド、地方自治体のアートプロジェクトなどにも任命される。2022年9月15日(木)から19日(月・祝)にかけて、静岡県浜松市の遠鉄百貨店にて、国内2度目となる個展『JAY SHOGO展 “唯一無二” 人生というキャンバスに自分らしく描く。』を開催。これまで描いてきた300を超える原画を無料公開した。

Jay Shogo 2012-2021

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