――あなたのデビューEPはヒップホップやモダンR&Bからの影響が強い作風でした。とはいえ今回のアルバムでは、サウンドがよりオーガニックでシンプルなものに変化していますね。これはどんな風に起こった変化だったんですか?
Kandace Springs – West Coast
今回のアルバムには、自分の本当の姿が出ているってことなんだと思う。EPでヒップホップをクロスオーヴァーさせて実験的なことをやったのもすごく好きだけど、本当の私の音楽は、もっとそぎ落とされたものなのよ。だから、2つの作品を通してその両面を見せることが出来たのはすごくいいことだと思ってる。
――今回のオーガニックな作風への変化には、あなたがナッシュヴィルで小さい頃に聴いていた音楽やその思い出に、ふたたびインスパイアされた部分があるように思えました。
その通りね! それは今回のアルバムの音を上手く言い当てていると思う。ノラ・ジョーンズはもちろんそうだし、ニーナ・シモンやエラ・フィッツジェラルドも、シャーデーもローリン・ヒルもそう。直接的には彼女たちのようなサウンドにはなっていないし、そんな風に聞こえない部分もあると思うけど、今回のアルバムには彼女たちの影響が出ているのよ。色んなものから影響を受けて今の私になっているから、作品のどこかに影響を聴きとれるはずだわ。
『ソウル・アイズ』ジャケット写真
――また、今回のアルバムの完成に向けては、今年急逝したプリンスからもアドバイスをもらったそうですね。
プリンスは私のヒップホップやR&Bに影響を受けた側面と、今回のアルバムのような側面との両方を聴いてくれている人で、ヒップホップっぽいものをやる前から、ピアノの弾き語りで演奏した親密な雰囲気のものをずっと好きだと言ってくれていたのよ。「プロデュースされすぎない、シンプルに歌が前面に出ているものが本当の君なんじゃないか?」と言ってくれた。それが今回の新しいアルバムの方向性に道を開いてくれたのよ。実は彼が亡くなる前、今年の1月に(既に完成していた)今回のアルバムを聴いてもらう機会があったんだけど、「そう、君はこれをやるべきだったんだ。」と言ってくれた。彼はアルバムの中では、“ノヴォケイン・ハート”と“ソウル・アイズ”と“レイン・フォーリング”を気に入ってくれたみたいね。
――逆にあなた自身が、今回のアルバムからフェイヴァリット・ソングを3曲選ぶなら?
Kandace Springs – Soul Eyes
まずは“ソウル・アイズ”ね。これはジョン・コルトレーンが有名にしてくれた曲だけど、私も気に入っているから今回のアルバム・タイトルにした。あとは、“プレイス・トゥ・ハイド”も好き。この曲はライブで聴いてもらっても突出したものを感じてもらえる曲で、すごく美しい曲。歌詞では「大変な時期にあっても友達がいることによって、支えられている、安全に感じる」ということを歌っているわ。もうひとつ選ぶなら……私もプリンスと一緒で“ノヴォケイン・ハート”かな。この曲には私が好きなマイナー9thコードが使われている。歌詞の面では、ここ最近のテクノロジーを使っている人たちが、色んなものに対しての反応が敏感じゃなくなってきていると感じる中で、「でも世界では色んな問題が起こっている」ということを歌った曲ね。
――今回のプロセスの中で、作品の完成に向けてポイントになった瞬間はありましたか。
アルバムの曲は四年間かけて選んできたんだけど、ヒップホップを取り入れて実験的なことをやっていた時期に、途中から「自分自身に誠実じゃない」と感じはじめたのよ。それで15年頃に、「これ以上この方向性で時間を費やすのはやめよう」と思った。プリンスも父も私にどういう音楽性が向いているかをずっと把握してくれていて、ずっとそう言ってくれていたしね。だから今回、ラリー・クラインにプロデュースをお願いすることにしたのよ。彼がハービー・ハンコックのような人たちをプロデュースしている仕事ぶりを見ていて、生の楽器の魅力を生かす人だと思っていたし、実際にやってみて、声を前に出していくプロデュースの仕方にもすごく満足しているわ。それに、完成した作品はすごくいい反応を得られているのよね。こうして世界を旅して回れるということも本当に嬉しいことだし。
――ジェシー・ハリスが2曲で楽曲提供をしてくれたことも、感慨深かったでしょうね。
彼はノラ・ジョーンズの“ドント・ノー・ホワイ”や“ワン・フライト・ダウン”を書いた人だしね! ラリー・クラインがジェシー・ハリスと仲が良くて、彼に薦められてジェシーのNYにあるアパートに向かったわ。すでに書かれていた曲の中からコンピューターとギターを使って演奏してくれて、「この曲はどう?」と探りながら選んでくれた。中でも“トーク・トゥ・ミー”と“ニーザー・オールド・ノア・ヤング”が気に入ったから、アルバムに収録させてもらうことになったんだけど、他にも色々と曲があったから、他の曲は次のアルバムに入れられたら嬉しいな。彼は実際に会う前に、私の声や音楽を聴いてくれて、沢山持っている楽曲のストックの中から合うものを考えてくれたんだけど、それらはノラ・ジョーンズの要素も聴きとれるような曲でもあったから、もしかしたら、彼自身も「ノラ・ジョーンズの系譜に連なる道を行っているんじゃないか」という風に感じてくれていたのかもしれない。ラリー・クラインもそれを感じてくれたからこそ、ジェシーを紹介してくれたのかもね。
――デビュー・アルバムを作るという経験は人生に一度しかないものです。今回『ソウル・アイズ』を制作してみて、あなたはどんなことを感じましたか。
素晴らしい体験だったわ。このアルバムはスティーヴィー・ワンダーやマーヴィン・ゲイのようなオールドスクールなレコードと同じようにほぼすべてを生演奏で作り上げたもので、私自身もピアノとフェンダー・ローズをプレイして、本当に楽しかった。ギターのディーン・パークスを筆頭に、世界でも指折りのミュージシャンと一緒に作品を作ることが出来たのもとてもよかったしね。
――バンド・メンバーとレコーディングしていく中で、もともとの楽曲に変化が訪れた瞬間もあったんじゃないですか?
そうね。今回はカヴァー曲も収録されているけれど、それも演奏してく中で、自分たちのオリジナルなものに変わっていった。たとえばシェルビー・リンをカヴァーした2曲(“リーヴィン”と“ソート・イット・ウッド・ビー・イージアー”)の中で言うと、“リーヴィン”のバースの部分は、シェルビーの原曲は歌ではなく語っているよね。私の場合は、そこに自分なりのメロディーラインをつけて歌ってみた。そんな風に、楽曲が自分のオリジナリティが感じられるようなものになっていったのよ。
――そして今回はコンベンション・ライブでの来日となりました。初めての日本滞在はどんな体験になりましたか?
最高だった! ちょっと待ってね……(と言いながら自分のiPhoneのカメラロールを見せてくれる)。たとえばこれは、乃木神社に行った時の写真。(新宿の)「ロボットレストランにも行ったわ。(爆笑しながら店内ではしゃいでいる時の動画を見せてくれる)。ここは……すごいところだよね(笑)。あなたも行ったことはある?
――お店の前は何度も通ったことがありますが、中に入ったことはないですね。とはいえ、東京で一番クレイジーな場所のひとつとして話題ですよ(笑)。
実際、忘れられない体験になったわ(爆笑)。
――デビュー作をリリースして、アーティストとして世界を回る生活をしている今、あなたは今後どんなアーティストになっていきたいと考えていますか?
世界の様々な人のために、ずっと音楽を作っていきたい。私が好きなシャーデーやニーナ・シモン、エラ・フィッツジェラルド、ビリー・ホリデイ、ロバータ・フラックのような人たちはみんな、自分だけのオリジナリティを持っていて、100年後もずっと聴き継がれるような音楽をやっているよね。だからいつか私も、そういうアーティストになれたらいいな。
――100年後にはあなたはこの世にはいないかもしれませんが、でも音楽は生き続けるということですよね。
そう、私の音楽は残り続けてほしい。それに、ずっと長く音楽をやりたいな。