ーーちなみに候補は何曲くらいあったんですか?
130曲くらいですね。
ーー130曲も !?
そう(笑)。ギターのキム(・ウォン・ソン)くんに「これ弾いてみて」ってお願いして、彼が耳コピで弾いてくれたものに合わせて歌って、録って、「半音上げてみよう」って、また歌って。選曲だけで半年以上かかったかな。録音したデモをカフェに持っていって聴いたり、カフェで選曲したりもしましたね。
ーー録ったものをカフェで……というのは、どんな意図で?
3部作の2枚、『Twilight Jazz』と『TRANQUILITY』の曲を偶然カフェで聴く機会が何度かあったんです。そのときに、こんなふうに音楽で空間を彩ることができたらいいなぁと感じて。生活音のひとつとしての音楽、というあり方が好きなんです。友だちと外で食事をしたり家で料理を作っているときに、意識はそちらのほうに行ってるんだけど、そこにいい音楽が流れることで、無意識のうちに友だちとのおしゃべりや空間がちょっと良くなる・・・・・・そんなふうに私の音楽を聴いていただけるのが嬉しいんですね。もちろん「なんていう曲?」って気にしてもらえることもありがたいんですけど。名曲をシンプルな形でお伝えするという大本のコンセプトは保ちながら、カフェなどの居心地のいい空間でほっとひと息つきながら聴きたいもの、というのが今作なんです。
『Eternal Melody』ジャケット
ーー結果的にかなり豪華なラインナップになりましたよね。特に“Sunny”をはじめ’60~’70年代の曲は、まさに傑出した名曲揃い。
そうですね。自分が何度もくり返し聴いて親しんでいる曲じゃないとカバーできない、したくないというところもあって。“Sunny”はやっぱりジャズクラブでも頻繁に聴くんですね。で、この曲をライブでやると場の空気が変わるんですよ。お客さんの心がパッと開く。もとはジャズの曲ではないけど、ジャズというフォーマットにすごく合う。もしかするとファンクにもポップスにもテクノにもなっちゃうくらい懐の深い曲なんでしょうね。それから、ジャズ・スタンダードの“Ce Si Bon”もサッチモ(ルイ・アームストロング)のバージョンをずっと聴いてきましたし、カーディガンズの“Carnival”は、北欧やヨーロッパのバンドが大好きだったのでよく聴いてました。今回はギターをメインの楽器にしようと思っていたので、この曲はメロディーと歌の感じが合いそうだなと思って。“Can’t Take My Eyes Off You”は意外とジャズのフィールドでもカバーされていて、現場で聴くことも多い曲なんです。あと、チェット・ベイカーの“I Fall in Love Too Easily”は、私の大好きな“甘辛い”雰囲気を持つ曲。これはライブでも歌ってきましたね。
Chet Baker – “I Fall in Love Too Easily”
ーーシュープリームスの“You Can’t Hurry Love”やエルヴィス・プレスリーの“Can’t Help Falling in Love”なども、ライブでカバーなさっていたんですか?
いえ、今作はライブで歌ったことのない曲のほうが多くて。この2曲は家でかかっていて、子どもの頃からよく聴いていたものですね。私の父がエルヴィスの大ファンで、お墓参りに行っちゃうくらいなんです(笑)。オールディーズ系は家でよく聴いてました。
Elvis Presley – “Can’t Help Falling In Love”