——KIRINJIの楽曲には色々な音楽要素が詰まっていて、しかも普遍的なポップスとしての魅力がありますよね。
いつか そうですね。やっぱり、“ポップス”というジャンルの音楽をやっている人たちだなと思っていて。でも、聴くと色んな音楽が混ざっていて、不思議な感じがするというか。
堀込 確かに、僕らはポップス、J-POPのようなところから出てきたバンドですけど、何がなんでもポップスであろうという気持ちがあるわけではないんですよ。だから、一聴するとポップスの体裁を持っているけれども、「何か違うなぁ」という感覚があるのかもしれない。まぁ、そこがドン! と行かない理由かもね(笑)。
——いえいえ、何をおっしゃいますか(笑)。
いつか 「分かりやすくて、誰にでも刺さるものがポップス」という認識ってありますけど、KIRINJIさんのポップスってそうじゃないということですよね。
——むしろ、そうではない方法で“ポップスに辿り着いていく”というか。
いつか そうそう。歌詞を読んでも、これは各々の解釈だとは思うんですけど、すごく読み物的なストーリーが広がっていたりして。その辺りは、いわゆるポップスをやっている人の中でも全然違うところなのかな、と思うので。
——一方でCharisma.comの楽曲も、ポップな方向に向かいつつも、決して聴き味のいいものにはならないのが特徴ですね。
いつか 私たちも一応、自分たちでは「ポップスだ」って言ってるんですよ。でも、実際に出来た曲は全然そんな風にならないというか。
——では、具体的に制作中の話をきかせてもらえると嬉しいです。今回は歌詞を堀込さんといつかさんで共作していますが、この作業はどんな風に進んでいったんでしょうか?
堀込 これはね、苦難の道のりでした(笑)。
いつか 修行です、修行(笑)。
堀込 最初は僕がある程度のたたき台を作って、そこにいつかさんがラップを乗せてくれて。でも、それに対して「いくらでも注文をつけていい」と言ってくれたんで、自分もいつかさんが乗せてくれたものを聴いて、「だったらこういうストーリーにしよう」とさらに発想を広げていったんですよ。
そういうやりとりを何回か続けていくうちに、だんだん全体像が見えてきて。「だったら、ここのパートは前にあったあのフレーズを持ってこようよ」とか、「じゃあ、話のラストはこうなるよね」とか、「こんな内容のライムはできるのかな?」とか、何度もやり取りをしていきました。結構な回数やりとりしたよね?
いつか かなりしました。そもそも、最初は「AIの歌」というぐらいで、そんなにかっちりとテーマが決まっていたわけではなかったんですよ。でも、やりとりをしていく中で、高樹さんから「今AIは〇〇にいるけど、次は〇〇に行って、また〇〇に行って、それで帰ってくるのはどう?」と場所を移動していくような提案を頂いて、その場所を「どこだろうな」って調べたりして(笑)。
堀込 (笑)。「一回ヨーロッパ行ってくれない?」みたいなね。それから中東に行って、インドに行って――。
いつか そして死ぬみたいなイメージ、とか。
——どこか『007』的なイメージも感じますね。つまり、とても映画的な雰囲気があるということなんですが。
堀込 ああ、なるほど。色んな場所に行くことで、絵が浮かびやすくなりますよね。
いつか だから今回、すごく勉強になったんですよ。歌詞を「ここまで想像して作るんだ」って。Charisma.comではいつも現実的な歌詞しか書いてこなかったというか、目の前のちっちゃいことしか書いてなかった。こんなんじゃいけないなって思いました(笑)。
堀込 全然伝わらないこともあるんですけどね。こっちが想定していたこととは全然違う歌だと思われていて「あ、お客さんに全然伝わってないわ」ということもある。
いつか あははは。それは私もあります。
堀込 で、制作の話に戻ると、そうこうしているうちにいつかさんからお得意の苦い感じが出てきたんですよ。「こんな恋、どうせすぐ終わるわ」みたいな。それで「ラブソングにしたくないのかよ!」って(笑)。
——ははははは。
いつか 私、すぐ終わらせたくなっちゃうんですよ(笑)。
堀込 「ああ、そっちに行くんだ。でも、そうしたいならそうしましょう」と。それで、色んな場所に行くけれど、最後はバッテリーが切れて終わるというエンディングになりました。
——めちゃくちゃ面白いお話ですね。そうやってお2人のやりとりの中で変化して導き出したエンディングが、人工的な要素=「AI」と、最も人間らしい要素=「愛」の2つが実は同じ読み方にもなるというこの曲の魅力を、上手く引き出しているように感じられたので。
堀込 そこまで深読みしていただくと申し訳ないですけど(笑)、結局映画に出て来るAIやロボットって、人間になりたいものがほとんどだと思うんですよ。だから、それを突き詰めていくとどうしても「愛」みたいなものに行きつくというか。それは避けて通れないものだと思うんですよね。
あと、AIやロボットはよく映画の中で葛藤を重ねていくわけですけど、自分の人生を振り返ってみて、そういうことを一番感じていたのは15歳の頃なんですよね。だったら、ティーンエイジャーのボーイ・ミーツ・ガールにまとめた方がいいと思って、お酒じゃなくてコーラにしたし、「盗んだバイク」(尾崎豊“15の夜”へのオマージュ)もそれで入れたものなんですよ。
——ああ、なるほど!
堀込 そうこうしているうちに、ネットでニュースを見ていたら、「AI同士が(人には分からない言語で)勝手に話しはじめて、開発者がそのAIをシャットダウンした」という記事を見つけて、「すげえ、こんなことが起きてるんだ」と驚いて。それも歌詞に盛り込んだら、結局フェイクニュースだった、ということがあったりもして。ガッカリですよ(笑)。そうやって、色んなことを考えて作っていきましたね。
——ちなみに、制作中にみなさんが触れていたAIに関する映画や小説、アートなどはあったんでしょうか?
堀込 僕は歌詞にも出てきますけど、『エクス・マキナ』を観たりとか、あと『her/世界でひとつの彼女』を観たりとか。いつかさんは何か観ました?
いつか 私も3本ぐらい観たんですけど、たとえば『アンドリューNDR114』とかですね。
堀込 そういえば、今回ミックスを担当してくれた方が、映画を観ながらミックスをする習性があるみたいなんですよ。音楽以外の何かを流していた方が、音に対して客観性を持てるみたいで。そこで流していたのは『A.I.』だったそうですね。
まぁでも、この曲のAI像はざっくりしたイメージになっているので、みなさんでどんなAIなのかも想像してくれたら嬉しいです。見た目はロボットなのか、それとも人間そっくりなのか、あるいはGoogleのスピーカーみたいな形なのか、色んなパターンが考えられますからね。
——ああ、なるほど。サウンドも、そうした歌詞の世界観と絶妙にリンクしていますね。
堀込 今回は、僕がデモをほぼほぼ作り込んでいったんですよ。メンバーのスケジュールがなかなか合わなくて、最初にドラムを録って、ギターを録って、その後ベース……という風に進めていって。そのときからすでにシンセが中心のサウンドになっていたので、そこから「どうやったら生の音が、よりシャープになるか」ということを考えていきました。