——コーラスにもボコーダーが使われていたりして、AIの逃避行であることが絶妙に表現されています。
堀込 安易ではありますけどね(笑)。でも、コテコテだけどやってみたらかっこよかった。もし今どきのAIを表現するなら、もっとオーガニックなものにした方がイメージは近かったのかもしれないですけど、そうしないことで逆に昔っぽさが出たというか。これは、最初は結構迷いました。あまりにもベタなアイディアなので(笑)。
いつか (笑)。そのさじ加減は、いつもどんな風に考えているんですか?
堀込 それはもう、とにかく色々やってみるということですよね。それで、無駄な時間が過ぎていくんですよ(笑)。初めから「こうしたい」というものがあるわけではなくて、色々とやっていくうちに正解が見えてくるというか。
だから、途中で訳が分からなくなることもあるんですけど、そういうことをやっていると、自分でも思いもよらない感じになるんですよね。それが面白い。今回のいつかさんとのやりとりも、最初からこういう完成形になると想定していたわけではなくて、やっていくうちに「何が見えてくるか」という感じでしたし。
とはいえ、いつかさんとやってビックリしたのは、とにかく(リリックを)「どんどん直しますよ」と言ってくれたことですね。前にRHYMESTER と“The Great Journey”をやったときは、僕らも初めてゲストを迎えた曲だったので、その辺りがよく分かっていなかったんですよ。あの曲は結果いいものになったんでよかったですけど、世の中的には、そんなにリリックをポンポン直すような雰囲気ではないのかなとも思うので。
いつか あっ……やっぱりそうなんですかね?
堀込 (西寺)郷太くんとやったときも、歌詞を直したの?
いつか 直しました。今回ほどではないですけどね(笑)。私は全然そういうのは大丈夫なんですよ。
堀込 エンジニアの人とも「こんなことできるんだねぇ」って話していましたね。ラップのリリックを書く人の瞬発力は違うなって、今回思いました。
いつか 私もここまでストーリー性の詰まった曲を考えるのは初めてでした。
堀込 リリックを書くときに、韻を踏んだり、ルールを守ることは重視するの?
いつか 私はあまりしない派ですね。
堀込 でも、韻を踏んでいるよね?
いつか それはもちろんですけど、あまり分かりやすく踏むのが好きなタイプではないんですよ。ただ、今回は一度そうなりかけてしまって。でもレコーディングのときに、私がたまたま間違えて踏んだリズムを、高樹さんが「こっちの方がいいかもね」とアドバイスしてくださって、それで回避できたりもしました。
堀込 《さよならムンバイ》のところだよね。「(いつかさんのモノマネをしながら)『今のナシでーす』って言ってるけど、あれ、これ悪くないんじゃないかな?」と。
いつか ハッとしましたね。デビューからたかが5年しか経っていないのに、すごく凝り固まっていたのかもしれないな、と。それ以降、レコーディングではディレクターさんと「この方式で行きましょう」と話しているんですよ。今回は、自分としては「何かを得たい」と思って制作に臨んでいたので、いつもより低いキーでラップしたりもしました。新たなスタイルになったと思うので、今後Charisma.comでもまたやってみたいな、と思っていますね。
堀込 色々やっていただいて、申し訳ない(笑)。
いつか いえいえ、私はそういうことは全然大丈夫なので!
——お話を聞いていると、今回の“AIの逃避行”は、単なるフィーチャリング・ゲストの役割を越えて、2組で制作した感覚の強い楽曲なのかもしれませんね。
堀込 そうですね。今回は彼女が歌っているラップにつられて、僕が歌っている歌詞も変わっていったし、より一緒に作っているという感じがして、大変だったけどすごく楽しかったですね。
いつか 今回は、私が今まで吸収できなかった――気づかなかった、見れなかったものを教えてもらった気がしているんですよ。だから、もしアルバム1枚分の作業があったら、音楽的に超ムキムキになるかもしれない、と思いました(笑)。
——じゃあ、コラボ・アルバムなどどうでしょう?
いつか おお! ぜひともお願いしたいです。
堀込 それはもう、こちらもぜひという感じですよ。ラップが乗る曲をアルバム分の曲数作るのは大変そうだけど、ミニアルバムとかね(笑)。とにかく、今回に限らず、またぜひ何か一緒にやれたら嬉しいです。
いつか イェー!
堀込 僕自身ちょっと、コラボ馴れしてきましたし(笑)。いつかさんの場合は、Charisma.comがやっていること自体はKIRINJIとはまったく違うものだけれど、「彼女の声だったら、もしかしたら自分が書く曲にも合うのかな?」と思ったんですよ。
そうやって、音楽を聴いていく中で因数分解していけば、「この素数は共通してる」「この素数は俺たちにはないな」ということが分かって、結果「これとこれを持ってきてもらおう」と考えることができる。そうやって考えながらやればいいんだな、ということは、今回勉強になりました。
——今回テーマとなったAIはもちろんのこと、新たな技術によって今後音楽の形は変わっていくかもしれません。その際、どんなことを大切に活動していこうと思っていますか。
堀込 それはやっぱり、「人間は失敗する」ということだと思うんですよね。AIと違って人間は失敗をする。その確率自体はAIで予測できるようになるかもしれないですが、人がどこで、どんな風に失敗するのかは、結局は分からないわけですよ。実際のところ、今回もレコーディングを進めていく中で意外なことが起こって、それを拾い上げて発展させていったことで曲がどんどん出来上がっていきました。だから、結局はそのつまずきや失敗のようなものを大切にしていくということなのかな、と思いますね。
——12月にはいつかさんが参加する形でのライブも予定されています。これはどんなものになりそうですか?
堀込 まだ全然考えてはいないんですけど、もしかしたら、他の曲でも共演させてもらう可能性もあるかもしれないです。まだ全然決めていないですけどね。どういう盛り上がりになるのか、すごく楽しみですね。
いつか 私もどう観られるのかすごく楽しみなんですよ。
堀込 KIRINJIのお客さんは温かい人が多いし、きっと楽しんでくれると思いますよ。
KIRINJI「AIの逃避行 feat. Charisma.com」Teaser
EVENT INFORMATION
KIRINJI LIVE 2017
2017.12.06(水)
OPEN 18:00/START 19:00
東京・EX THEATER ROPPONGI
スタンディング ¥6,480/指定席 ¥7,020
スペシャルゲスト:いつか(from Charisma.com)/Negicco
2017.12.14(木)
OPEN 18:30/START 19:00
大阪・味園 ユニバース
[SOLD OUT]
スペシャルゲスト:Negicco
RELEASE INFORMATION
AIの逃避行 feat. Charisma.com
2017.11.22
KIRINJI
作詞:堀込高樹・いつか / 作曲:堀込高樹
Rap いつか from Charisma.com
Drums & Chorus 楠均
Electric Bass 千ヶ崎学
Vocal コトリンゴ
Electric Guitar & Vocal 弓木英梨乃
Pedal Steel & Vocal 田村玄一
Programming, Vocoder, Keyboards & Vocal 堀込高樹
Produced & Arranged by 堀込高樹
interview & text by 杉山仁
photo by Mayuko Yamaguchi